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【3分で読むエンジニア物語】 第11話 ゼロからのリファクタリング
三浦翔は29歳のソフトウェアエンジニアだった。安定を好む性格で、変化には慎重なタイプ。しかし、ある日、彼は避けられない挑戦に直面することとなる。
彼が所属する企業は、10年以上使い続けてきた古い社内システムを抱えていた。そのシステムは、まるで年季の入った建物のように、無数のパッチと修正で成り立っていた。誰もが不便さを感じながらも、慣れ親しんだ環境に安住していたのだ。
ある会議で、上司が口火を切った。
「このシステム、そろそろ全面的な改修が必要だと思う。三浦くん、リファクタリングの提案をまとめてみないか?」
突然の指名に、翔は戸惑った。現状維持を好む自分が、大胆な変革を推進する立場になるとは思ってもみなかったからだ。しかし、断ることもできず、彼は提案書作りに取りかかった。
「本当にこれが必要なのか?」
翔は何度も自問自答した。古いシステムには確かに非効率な部分が多かったが、同僚たちは長年使い慣れており、変化に対する抵抗感も根強い。実際、提案をプレゼンした際、多くの反発の声が上がった。
「今のままで十分じゃないか。」
「そんな大きな変更、リスクが高すぎる。」
翔の胸に不安が広がる。しかし、彼は一歩踏み出すことを決意した。
「変化は怖い。でも、成長のためには必要なんだ。」
翔は小さな改善から始めることにした。大規模な改修ではなく、日常業務に影響を与えない範囲でコードの最適化やプロセスの見直しを進めた。少しずつ成果が現れ、動作がスムーズになったり、エラーが減少したりすることで、同僚たちも次第に興味を持ち始めた。
「最近、システムが軽くなった気がする。」
「三浦の改善、意外といいかもしれないな。」
小さな成功が自信を生み、やがてチーム全体に前向きな変化の波が広がった。翔は仲間と積極的に意見交換をし、彼らの不安や疑問に丁寧に向き合った。特に、長年このシステムに携わってきたベテランエンジニアの田中との議論は印象深かった。
「翔、君の意見はわかる。でもこのコードには歴史がある。何度も修正し、改良してきたものなんだ。」
翔は真剣な眼差しで答えた。
「田中さん、その歴史があるからこそ、今の課題に気づけるんです。過去を尊重しつつ、未来に向けて進むことが大切だと思います。」
田中はしばらく沈黙した後、静かに頷いた。その瞬間、翔は変化への第一歩を仲間と共に踏み出せたと感じた。
数か月後、ついに全面改修が完了した。新しいシステムは直感的で使いやすく、パフォーマンスも格段に向上していた。リリース後、同僚たちの顔に笑顔が広がる。
「こんなに快適になるなんて思わなかった。最初は反対してごめんな、三浦。」
翔は深く息を吸い、満足げに微笑んだ。かつて変化を恐れていた自分が、今ではその変化を生み出す力となったのだ。
「変化は怖いものじゃない。新しい可能性への扉なんだ。」
翔はそのことを心から実感し、次なる挑戦への意欲を胸に刻んだ。オフィスの窓から差し込む光が、彼の新たな一歩を祝福しているかのように輝いていた。
その後、翔は社内で変革の象徴的存在となり、新たなプロジェクトにも積極的に参加するようになった。彼の姿勢は若手エンジニアたちにとって大きな刺激となり、チーム全体が成長への意欲を持つようになった。
「変わることは怖くない。むしろ、挑戦することで自分自身も成長できるんだ。」
翔は心の中でそう繰り返しながら、新しい可能性に向かって歩み続けた。
おわり