赤ちんボーイ(熊石篇 2) ~後悔と希望の日々~
最初に、熊石という場所を紹介しておくことにする。
北海道民でもきっと位置関係まで言える人は滅多にいないと思う。
北海道の南西に位置する函館市から北西にある江差町。江差追分発祥の地だ。
そしてそれ以前で言えば、幕末に榎本武揚が薩長土肥連合の新政府を相手に独立国を作ろうと蝦夷地に渡ったのはこの辺りで、咸臨丸が台風で難破したのもこの辺り。
その松前からバスで二時間。
漁業が町の産業で道路を挟んで西側か日本海、東には小高い山がある。簡単にいうと海からすぐに傾斜地になっている。
ただただ自然に恵まれた土地、いや自然しかないところで、ボーイがどれほど暴れても影響がある訳もない。
ウニとアワビと泣けるような夕焼けが有名な場所。
地元の子供達は、夏は海で泳いでウニ鮑を摂り、冬は小高い山を自力で登ってスキーを楽しんだ。
前置きが長くなった。
ボーイの「赤ちん話」をしよう。今回はちょっと血の匂いがする内容になる。
裏山の緩い傾斜には野菜畑があった。
ともかく落ち着きのなかったボーイは、泳ぎもスキーができない季節でも外で遊んでいた。
いつものように畑を彷徨いていた時、畑の脇に蔦野菜を絡ませるための笹が束になっているのを見つけた。その笹は、野菜の蔦を絡ませるため、片方は土に刺しやすく鋭く尖らせて束にしておいてあった。
どうしてか理由は分からないのだけど、ボーイはそれに興味を持ち束から一本の笹を抜いて歩いた。手で棒を振り回していたのだが、そのうちになぜか咥えた。ご丁寧に尖った方を咥えていた。
(こういう行動をするところが「赤ちんボーイ」なんだろう)
背が高くない小僧が、1.5mほどの笹を咥えて歩いているのだから、当然のように反対側が山道の凸凹に刺さってしまったようだ。
当然尖った方は反動で咥えた喉の奥深く刺さった。
その時一瞬にして思ったことは、こうだ。
「あっ、またお母さんに怒られる」
何とかこの事を無かったことにしたくて、止めどなく出てくる血を吐いていた。
しかし鋭利な傷から出る血が簡単に止まる訳もない。口から血が溢れてきて「死んじゃうかも」と思いながら血を吐きながら、急いで畑を下がって行き自宅に向かった。
ここからは母からの聞きかじりなのだが。
帰ってきたまま玄関から上ろうともせず、何か聞いても口を開かないボーイを見て異変を感じた母は、一計を案じる。
家の奥に行きボーイの好きな飴を持ってき渡した。口を開いてはいけないという状況を忘れてボーイは飴を食べようとして口を開けた。
同時に、口から滝のように落ちる血の塊に母も驚いたらしいが、その頃には血も止まりつつあったようだ。
もしあの時畑で走ったりしていたら、あるいは血を吐かずに飲み込もうとしていたら、死んでいたかもしれないなぁ。