渾身のDarkness.
2021年8月1日 23:30
田舎の知らない人の家に行きたい。
すんげー田舎で、すんげー古いどっかの家で、古い木の匂いと、薄ーく線香の匂いのする和室で
私の素性を何も知らない優しいおばあちゃんと寡黙なおじいちゃんに、なんか知らんけど優しく招き入れられて、なんか知らんけど、焼き魚となんかの煮物とお味噌汁と白いご飯と温かいお茶が出て来て、私は頂きますと小さく呟いて手を合わせ、それでいてそれからは一言も彼等と話したくない。
ご飯を食べ終わったら、畳をミシミシ言わせながら登場したおじいちゃんが何故か古いアルバムとお酒とみかんを手に戻って来て、私はそのみかんを食べながら、戦時中の写真やモノクロームの写真を見せられて、お酒が入ったおじいちゃんに武勇伝を延々と語られて、それを無言で聞いていたい。
そうしているうちにお風呂が沸いていて、脱衣所にはタオルとお寝間着が用意されていて、私は無言でお風呂に入って、小さな浴槽に肩まで浸かって、石がポコポコついた床や、シミのついた天井をただ見ていたい。
お風呂から上がったら、モモヒキ履いたじーちゃんが“漁火見に行ぐが”って訛って言って、無言で付いて行って、家の裏の海の向こうにゆらゆら浮かぶ漁火を、ただボーっと見ていたい。
波音と、煙草を吸いながら“今日はイカ釣り、多いな”と言うじーちゃんの声だけ聞いていたい。
あんまりボーっとする私に、“湯冷めすっけ”って一言だけ呟いて歩き始めるじーちゃんの10mくらい後ろから仕方なく着いて行って、
しばらく歩いてから、怖くなるほどの満天の星空にふと気付いて足を止めたい。
真っ黒い森の手前の古い踏切、田んぼの畦道、多すぎる蛙と虫の声、少なすぎる街灯、その街灯の下でこちらを振り返り私を待つじーちゃんが見えても、私はまだ歩き出さない。
だってじーちゃんは私を呼ばないし、煙草に火を着けるのが見えたから。
だからもうしばらく、おばあちゃんから借りた半纏にくるまって星空に見惚れて、待たなくても次々現れる流れ星には、なんの願いもかけたりしない。
視線を戻すと、じーちゃんが煙草を踏みつけて火を消す仕草をしているから、私は仕方なく歩き出したい。
少し遠くに見える背中を追って、その背中に何かを思い出しそうになる度に星空を見上げたい。
おじいちゃんとおばあちゃんの家に戻ると仏間に布団が敷かれていて、蚊取り線香の匂いがして、
台所を覗く私に気付いたおばあちゃんが“イカ釣りいたかい”って言って、無言の私にニコニコと、“寝なさい寝なさい”って言って、私は一日中プールで泳いで疲れたみたいな疲労感で、今日のことを何も考えられないまま、これまでのことを何も思い出せないまま睡魔が来て、けど眠りに落ちる前の一瞬、
さっき見た漁火のユラユラと満天の星空が浮かんで、それで分厚い重い布団で見知らぬ御先祖様達に見下ろされながら、そのまま永遠に眠りたい。もう2度と目が覚めたくない。
…レビューを装い補足を挟むなんて天才すぎる?
さあ!
全国の、どうにもネタに行き詰まり途方に暮れる脚本家さん達よ。
これ、使ってもいいよ!
あたし著作権を放棄するからさ、いい感じの短編映画を製作しても、いいよ。
なんかのMVでもいいな…
あー…でもそうなって来ると、じーちゃんのあの渋い低い声も波音も音楽に掻き消されてしまうから、ちょっとそこんとこは、上手いことやってちょうだい。
それとも音楽の中では断片的に伏線的に見せておいて、メイキングで全貌を公開・回収するのもいいかもね!オラワクワクすっぞ!
あたしの脳内にしかないこの映像を、肉眼で見てみたい。そして何よりみんなに見せたい。
AIに頼めば、動画作ってくれるんだろうか。
…いや、なんかそれは、あたしの何かが許さないから、やはりヒトのテで具現化したいものだね。
もちろんあたし、この先の人生を自分で創ると決めてはいるからさ、田舎の知らない人の家を唐突に訪問するような展開には、しないつもり。
けどね、これを書いた夜は、何故かとても安心の、満たされた気持ちで眠りについたことをよく覚えている。
理由はわからない。
“文章やストーリーを考えて書きました”というよりも、
“次々と脳内に浮かぶ映像や音声を必死に辿り、なぞり、言語化してみました”という感覚だったから、もしかしたら私は、プールで一日中泳いだ子どもの頃の疲れをリアルに思い出したのかもしれないし、あまりにリアルなその映像に、究極の疑似体験をした感覚に陥り、仏間の安らぎとお線香の香りや、私を丸ごと受け入れてくれるじーちゃんばーちゃんに安心したのかもしれない。
私の何かが成仏したのか、翌朝、仏間ではなくいつもの空間で目を覚ました私は、此処で目が覚めて良かったと、ぼんやりと思った。
何も訊かずにただ受け入れてくれる愛 というものを、この先の人生で見てみたくなったのかもしれないね。
それでも布団にくるまったまま、今このパラレルには存在しないじーちゃんばーちゃんを恋しく思い、肌寒い夜と蛙の声が懐かしく、つい昨夜の映像?妄想?なのに、まるで遠い日の記憶のようだと思う。
いつか、何処かのパラレルで奇跡的に会えたら、お礼を言って、その時はたくさんお話して、一宿一飯の恩義を果たして、ちゃんと私のおうちに帰ろう。