【ショートショート】決戦!七夕ステージ(前編 - 彦星誘拐)
「何ーっ!? 開演に間に合わないーっ!?」
東京郊外の遊園地〈向こう瑞ヶ丘遊園〉。
七月七日、七夕のその日、イベントステージでは人気特撮ドラマ『呪術戦隊カイセンジャー』ショーの準備が完了しつつあった。
そこへ飛び込んで来たのは、主演ともいうべきカイレッド役のスーツアクターが、ゲリラ豪雨による事故で開演時間に遅れるという知らせだった。
舞台監督は頭を抱えた。
「どーすんだよー……誰か代役はいないのかー?」
アシスタントのスタッフが自信なげに応えた。
「そーですね……サブステージで七夕ショーに出てる彼なら……運動神経いいし芝居も出来るから……」
「出来るのか!?」
「でも七夕ショー、開演時間がカブってるんですよねー。来てくれるかな……」
舞台監督は吠えた。
「首に縄つけても連れてこい! 七夕ショーはどうでもいい! 責任は俺取る! お前、そいつと個人的に繋がってるなら、スマホでショーの台本PDFを送ってやれ! 10分で全部覚えるように伝えるんだ!」
アシスタントの指示を受け、悪の戦闘員の衣装をつけた俳優たちが外に飛び出した。
一方、七夕ショーのステージでは彦星役の衣装をつけた俳優サトルが、舞台袖から外をのぞいてため息をついていた。
「あーあ、お客さん一人もいませんよ……ショーになるのかなー」
高齢の舞台監督は、酒臭い息を吐きながら笑った。
「君はこのショー、今年が初めてだっけ。これ毎年こうなんだよ。今時、七夕のお話を芝居で見せたって誰も来やしないよなー。ま、適当にやってくれや」
「はいはい。じゃ本番前にトイレ行っときます」
楽屋の外に出たサトルは、突然異形の戦闘員たちに取り囲まれた。
「お前が彦星だな!」
「な! 何なんですあんたらは!」
「一緒に来てもらおうか!」
戦闘員たちに連れ去られる彦星……サトルの姿を見送った織姫役の女優ショウコは事態が飲み込めないまま監督に報告した。
「監督ぅ、サトルくん変な人たちとどっか行っちゃいましたよお?」
「はあ? ……まあいいや。どうせお客もいないし中止! 中止!」
「そんなぁ! ちゃんとギャラ払ってくださいよぉ!」
つづく
たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「彦星誘拐」。
七夕の本日出されたお題ですが、毎回同時に出ている裏お題が「織姫妖怪」。
ちょっと面白いんで両方書いてみたい……とXでつぶやいたところ、たらはさんから「前編後編も可能かもしれません!」とのリプ。
そんなわけで、前後編で書いてみました。
後編「織姫妖怪編」は、明日公開の予定です。
出来れば……
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