[Re:] Re-try; オールドレンズの楽しみ -- (6) Carl Zeiss社 Tessar 50mm --
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こんにちは。
何という筆不精、第6回目を書いてから一ヶ月経ってしまいました。今回は、カメラ界の王者 Carl Zeiss 製のしかも名玉中の名玉 Tessar に挑み、肩肘が張ってしまったのかもしれません。記事を書き続けること、note を始めるにあたって立てた目標は外さずに、note は遅筆でもまず写真を楽しむことを大事にしています。
[Re:] Re-try;少年の頃、大好きだったこと -- オールドレンズの楽しみ --
さて今回のレポートは、Carl Zeiss 製の名玉 Tessar 50mm f2.8。
写りのレポートの前に、レンズのマーキングについて少し。
レンズ先端に T 2.8/50 aus Jena DDR とマーキングされています。Carl Zeissや Tessar といった世界に冠たる名称はどこにも表記されていません。その理由は、多分、東西に分断された Carl Zeiss が、商標をめぐって争っていた時代の表記だからだろうと思われます。
1971年に出された国際司法裁判所の判決によってその決着がついたわけですが、係争中は 東ドイツの Jena にあった東側 Carl Zeiss を aus Jena DDR で判別できるように、T でTessar であることがわかるように工夫したのでしょう。ドイツ語の aus は、英語の from にあたる前置詞、from Jena、Jena 製の意味なんですね。しかし、Jena といえば Carl Zeiss というのが凄いですね。
オールドレンズの楽しみは、ちょっとした事にも疑問を持って、レンズにまつわる歴史や社会情勢の薀蓄が増えていくところにもあります。
偏光フィルタを使ったような青空
このレンズ、高いコントラスト、鷹の眼とも称される鋭いシャープネス、豊かな色彩表現の3つが揃った、評価の高いレンズ。私もその三拍子を堪能しました。
Carl Zeiss Tessar 50mm f8.0 @JR三鷹駅
まず、青空の色彩から。ご覧の通り、偏光フィルタを効果半分くらいで使用したような青のグラデーションが澄んだ空気の秋を感じさせます。現代のレンズで、偏光フィルタを使用すればもっと深くて濃い藍色に写るのが一般的ですが、このレンズは少し淡白な青のグラデーションがとても好ましいです。偏光フィルタの「効果半分」という表現がピッタリです。
Carl Zeiss Tessar 50mm f8.0 @JR三鷹市の空
評判に違わぬ高いコントラストとシャープネス
Carl Zeiss Tessar 50mm f8.0 @JR飯田橋駅
さて、鷹の眼とも称されるこのレンズですが、この写真の左側の電車の屋根部分をご覧ください。逆光の条件下でも高いシャープネスを保っています。金属、機械部品の質感もしっかり感じることができます。
Carl Zeiss Tessar 50mm f8.0 @三鷹市 山本有三記念館
普段は白黒写真は撮らないのですが、このレンズの高いシャープネスを確認したいと思い、木漏れ日に照らされる洋館を白黒写真にしてみました。100年以上も前に基本設計され、50年前に製造されたレンズとは思えないシャープさ。
レンガ、窓ガラスの質感もしっかりしています。ガラス窓に光が当たっている部分の写りが実にリアルです。
手触り感を表現できるレンズ
高いコントラストとシャープネスと併せて、このレンズの素晴らしいところは、被写体の質感、手触り感が表現できるところ。同じ金属でも錆び具合や冷たさを伝えることができそうな気がします。
Carl Zeiss Tessar 50mm f8.0 @太宰治ゆかりのスポット三鷹跨線橋
1929年に建設され近く撤去される予定の三鷹跨線橋、太宰治ゆかりのスポットの一つです。下を通るJR中央線、電車が通るたびに子どもたちの歓声が聞こえてきます。粋な運転士さんは、軽く ファン と警笛を鳴らしてサービス。こういう光景ももう間も無く見納めです。
話が横にそれました。跨線橋の両側はフェンスで囲われています。そのフェンスは薄青緑色のペイントが施されていますが、風雨にさらされ、錆も目立ちます。そのさびのガサつきがこの写真から伝わってきます。このレンズは緑から茶色にかけてその色彩の表現が美しいと感じます。
Carl Zeiss Tessar 50mm f5.6 @吉祥寺駅側の中道通り商店街
錆が目立つ緑色の電球の傘、そのざらついた手触り感がわかります。(ところが、どうもこれは本物の錆ではなくペイントらしい事に気がつきました。まぁ残念ですが質感が失せていないのは事実。このレンズの特徴と言えるでしょう。)
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @神楽坂
瓢箪のツルッとした表面と金属とは違う温かみが伝わってきます。溶けるような後ろ側のボケは被写体を浮き上がらせてくれます。
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @銀座
次は金属の質感です。このレンズ、被写体と背景の境界線が太く感じます。そのせいか特に金属の被写体の存在感が増し、力強く感じます。
さて、この金属プレートですが、熱く感じますか、冷たく感じますか? 私は撮影した状況を記憶していますので冷たく感じますが、そのバイアスを除いても、夏、太陽に照らされて熱くなった金属とは思えないですよね。このレンズは温度をも写すことができるのか? さすがに、それはまさかと思いますが、レンズの表現力を使って被写体の温度までも伝わる写真が写せたら面白いだろうなぁ。
溶けるような後ボケに浮かび上がる被写体
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @銀座
オールドレンズは開放で と思っていました。特徴はボケや滲み出る、だから開放で寄って が固定観念のようになっていましたが、Tessar の特徴を知るにつれ、特性に合わせて撮り方を工夫すべきだったなぁと勉強になりました。
それでも「開放で寄って」はオールドレンズの定点観測。溶けるような後ボケ(右側)と丸ボケ(左側)に被写体が浮かび上がる一枚を撮ることができました。
鮮やかな色彩表現
Carl Zeiss Tessar 50mm f5.6 @吉祥寺通り
現代のレンズにも勝るとも劣らない発色の良さ。高いコントラスト、シャープネスと相まって鮮やかな写りです。
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @吉祥寺駅側の中道通り商店街
ガラスの反射光の影にある鮮やかな被写体、反射光でくすんだ色合いになっていますが、そういうちょっとした変化も綺麗に写します。
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @神楽坂
鮮やかな色彩表現の一方で、夕方、曇り空などでは淡白でいかにもオールドレンズといった風合いの写真が撮れます。
Carl Zeiss Tessar 50mm f5.6 @吉祥寺駅側の中道通り商店街
街灯にピントを持ってきました。前にある窓枠や植物のボケ具合が良いですね。やはりこのレンズ、茶系や緑色の表現が得意なようです。
虹色の豪勢なゴースト
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @三鷹 山本有三記念館の庭園
逆光に強いレンズですが、直接レンズに日が入り込む状況になると、虹色のシャワーのようなゴーストが発生します。これはこれで面白いですね。虹のシャワーが活きる構図を探すのも楽しいです。
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 @三鷹 山本有三記念館の庭園
少し角度をつけて、日光を逃して同じ被写体を写しました。まるで別の写真です。黒いバックに黄色い花が浮かび上がるように撮れました。
「開放で寄って」からの進歩
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
Carl Zeiss Tessar 50mm f2.8 のレポート、いかがでしたでしょうか?
今まで、絞るほど、離れるほどレンズの個性は失せて、同じような写りになると思っていました。開放で寄って使う それは多分、レンズ設計で難しい領域だからこそレンズの個性が出るんだ というある種の固定観念でしたね。Carl Zeiss Tessar の特徴は、その固定観念を排除してくれました。毎回ですが、勉強になるなぁと思いました。
さて、次に取り上げるレンズは何にしよう。
ASAHI光学、SMC Takumar 55mm f1.8はどうだろうか? はたまたフィルムカメラにしようか。
SMC Takumar 55mm f1.8 @曳舟