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映画「パーティーで女の子に話しかけるには」感想(ネタバレなし)と4コマ漫画

往年のパンク好きなおっさんとして、パンクをフィーチャーした映画と聞いて絶対映画館で見よう、大音量でピストルズを聴こうと思っているうちに終わってしまった一本です(2017年12月に公開)。DVDをレンタルして2018年6月9日、ロックの日に鑑賞しました。ちなみにセックス・ピストルズの曲は流れません(T_T)

「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が、「20センチュリー・ウーマン」のエル・ファニングとトニー賞受賞の若手実力派アレックス・シャープを主演に迎え、遠い惑星からやって来た美少女と内気なパンク少年の恋の逃避行を描いた青春音楽ラブストーリー。1977年、ロンドン郊外。大好きなパンクロックだけを救いに生きる冴えない少年エンは、偶然もぐり込んだパーティで、不思議な魅力を持つ美少女ザンと出会う。エンは好きな音楽やファッションの話に共感してくれるザンと一瞬で恋に落ちるが、2人に許された時間は48時間だけだった。2人は大人たちが決めたルールに反旗を翻すべく、大胆な逃避行に出る。オスカー女優ニコール・キッドマンが、パンクロッカーたちを束ねるボス的存在の女性を演じる。(映画.comより引用)

エンがザンと初めて話すシーンを4コマ漫画にしてみました。

原作はニール・ゲイマン

SF作家、脚本家のニール・ゲイマンの短編小説「パーティーで女の子に話しかけるには」を、「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」で有名な映画監督ジョン・キャメロン・ミッチェルがふくらませまくって作った映画です。

短編小説は英語ですがこちらから読むことができます。
ちなみに原作で名前が出てくるパンク系のバンドは、The Adverts、The Jam、The Stranglers、The Clash、Sex Pistols、Kraftwerk、The Velvet Undergroundといったところ。映画で推してたダムド、ラモーンズ、スリッツ、イギー・ポップあたりは言及なしでした。

ニール・ゲイマンは「コララインとボタンの魔女」でヒューゴー賞を取ったり、DCコミック「サンドマン」で世界幻想文学大賞を受賞するなど多くの作品で高く評価されています。「コララインとボタンの魔女」の映画は観ましたが、3Dストップ・モーション・アニメのクオリティが高く、不気味かつキュートな世界観のストーリーも素晴らしかったので未見の方は強くお勧めします。主人公の女の子の声はダコタ・ファニング(エル・ファニングのお姉さん)です。

おじさんの感想

映画を簡単に説明すると、1977年、シルバー・ジュビリー(エリザベス女王在位25周年祝典)でわくロンドン郊外の街を舞台にしたパンクに夢中な高校生エンと、異星人のザン(エル・ファニング)のボーイ・ミーツ・ガールものです。

宇宙人たちがやたらファッショナブルなのですが、ロンドン出身のサンディ・パウエルというデザイナーが担当しています。
1960年生まれの方なので、パンク・ムーブメントが頂点を迎える1977年は17歳とまさにドンピシャな年齢ですね。
「恋におちたシェイクスピア」、「アビエイター」、「ヴィクトリア女王 世紀の愛」の3作品でアカデミー衣裳デザイン賞を受賞、デビッド・ボウイをモデルにした映画「ベルベット・ゴールドマイン」の衣装も担当されているこれ以上ないという完璧な起用なわけですが、うーん、パンクスたちのファッションは無難でしたが、うーん、宇宙人の衣装は…微妙でしたね。ビニールっぽい素材はよかったです。
マルコム・マクラーレンと一緒にセックス・ピストルズをプロデュースしたヴィヴィアン・ウエストウッドがやってくれたら最高なんですけどね、そういうわけにはいかないんでしょうね。

最初にダムドの「ニュー・ローズ」がかかるところや、この映画の架空のバンド「ディスコーズ」のライブ演奏シーンはかなり良くて、期待に胸が膨らみましたが、それ以降は赤ちゃん肌でストレート・ネックのエル・ファニング嬢のかわいらしさ&嘔吐シーン(2回)でなんとかもっていたという印象です。この人、小顔と童顔で目立たないですけど身長175cmで割と背が高いんですね。いまだに「SUPER8/スーパーエイト」のときの印象があるので、すらっと大きくなって素晴らしいなぁと思います。
ちょこちょこ挟まってくる宇宙人のコロニーを表す(?)宇宙に浮かぶロゴ入りの細胞みたいなCG動画は、うざったかったですね、いろいろ意味があるんでしょうけど。

エンは友達とパンクバンドへのファンジン(同人誌ようなもの。読者投稿で作られていた初期のロッキングオンに近いものと思われます)を作ってクラブやレコード店に置いてもらったりしています。クラブでドレッドヘアの黒人DJ(ドン・レッツのイメージなのでしょうか)に「ペル・ウブ」の曲を探させるシーンは、当時のパンクがジャマイカのレゲエやスカとつながっていたことを想起させてくれます。

パンクとは何ぞや?

「パンクって何?」、ボディシーア(ニコール・キッドマン)にも質問するザン。「ブルースの最終形ね」とボディシーア。
ジョニー・ロットン(ピストルズのボーカル)を泊めてやったこともあるのにその後会っても無視されたとか、スージー・スー(ピストルズ親衛隊からスージー・アンド・ザ・バンシーズのボーカルになった女性)、ディー・ディー・ラモーン(ラモーンズのベース)、アリ・アップ(ザ・スリッツのボーカル)を知ってるとか、ヴィヴィアン・ウエストウッドの下で働いていたとかぼやくニコール・キッドマンを観るのは愉快です。髪型や衣装は、ニナ・ハーゲン(パンクの母とも言われるドイツのシンガー)のイメージでしょうか。

「余命を知っている連中は親切ぶって人の血を吸う。とにかく頭にくるのは“抑圧者をぶっつぶせ”とか“自分らしくあれ”とかなんとか、そういうのウンザリだよ」と諭すボディシーア。ザンは諦めたような顔をして「“吐く息まで個性”がうちのグループのモットー」と答えます。

宇宙人たちが人口調整のため親が子を食べているという設定があるのですが、現実に身近な親や高齢な政治家などが我が子や若者を好きなように食い物にしていることに対する批判なのでしょう。「個性」を伸ばせと言いながらコントロールしやすい型にはめようとしてくる社会への反発がロックであり、パンクと言えますし。お仕着せでなく、自分がやりたいことを見つけて実際にやってみようぜというのがパンク・スピリッツだと思います。たぶん。

中高生のころ、服をやぶって安全ピンでとめたり、缶バッジを付けたり、髪を逆立てたり、脱色したり、鋲付きのライダース・ジャケットを着たり、革パンツを履いてみたり、ドクター・マーチンのブーツを買ったり、夜中にライブを観に行ったり、ギターを買って1ヵ月でやめてみたり、はたまた実際にバンドを組んでみたり…酒や薬に手を出したり、スクーターやバイクに乗ってみたり、女の子と付き合ったり別れたり、車の免許を取ってドライブに行ってみたり…こういった行動は本人からしてみるとすごく個性的なつもりなんですよね。
客観的に見るとよくある型に自分からハマっていっていて逆に没個性だったりするわけで、多感な青春期の精一杯の背伸びというのは、もろもろ痛々しいことが多いわけです。
当時の日本の場合、個性に目覚めた子はパンク方面でなく中ランだの長ランだのボンタンだのシンナーだのCBXだの集会だのとヤンキー方面に走った気がしますが。

爆裂都市 BURST CITYは衝撃でした

1977年から3年ほど後になりますが、石井聰亙監督の「狂い咲きサンダーロード(1980年)」、「爆裂都市 BURST CITY(1982年)」などを見ると、当時の日本のロック・パンク界隈の空気感が感じられるかもしれません。
「爆裂都市 BURST CITY」の町田町蔵(現・町田康)の異常にぎらついた目や怖いメイクの陣内孝則など見どころたくさんです。

「パーティーで女の子に話しかけるには」でどうしても不満に思うのは、1977年6月7日、ジュビリーに冷水を浴びせるような事件があったのにほとんど触れてくれないことです。EMI、A&Mともめにもめたピストルズがヴァージン・レコードと契約し、まさにこの日、テムズ川でボート上のゲリラライヴを強行して英国国歌と同名の「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」を演奏して逮捕されています。狡猾なプロデューサー、マルコム・マクラーレンの宣伝でしかないのですが、当然ながら大ニュースになったわけです。
冒頭でエンと友達がジュビリーを祝う大人たちに「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン!ファシスト・レジーム!」と叫ぶシーンはあったので、これで十分ということでしょうかね。せっかく物語をジュビリーに設定しているのに寂しい限りです。
エンは「クラッシュはメジャーのCBSと契約した、俺にとっては死んだ」とバカにしていたのでパンク系のニュースに当然詳しいはずなのですが…。

エル・ファニングファンとパンク好きな中高年におすすめ

後半じゃっかん映画的なまとまりにかけていくところがあるので、総合的には5点満点で3.9点です!
エル・ファニングファンとパンク好きな中高年におすすめの映画です。

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サトタカ
(株)ロゴ・アンド・ウェブ代表/Web制作のディレクター兼デザイナー/イラスト・マンガ・似顔絵