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【渓谷の怪物】
その怪物は、日本最大の渓谷にいた。
時折、咆哮のような轟音を立てて、毎秒10t以上もの水を吐き出す。
その渓谷の怪物の名は、黒部ダム。
立山連峰と後立山連峰に挟まれた黒部峡谷に、まるで要塞のように堂々たる姿で佇んでいる。
僕は立山黒部アルペンルートで、その怪物に会いに行った。
立山黒部アルペンルートは、標高3000m級の山々が連なる、北アルプスを貫く世界でも有数の山岳観光ルート。
長野県の「扇沢駅」から富山県の「立山駅」までの総延長37.2km、最高地点2450mを、乗り物を乗り継ぎながら巡る。
扇沢駅から関電トンネルを電気バスで移動し、黒部湖からケーブルカーで黒部平へと向かう。
そこから、ロープウェイとトロリーバスを乗り継ぎ、てっぺんの室堂へ。
室堂から美女平までは高原バスで50分の道程。
そして、ケーブルカーで立山駅へと到着する。
この立山黒部アルペンルートは、人間の底力と可能性を感じさせてくれる。
どうやって、これほど険しい渓谷に、電気や道路を通せたのか。
そしてなんと言っても圧巻なのが、黒部ダムの迫力。
まるで滝のように、水飛沫が舞っている。
水を吐き出す轟音が、身体を震わせる。
自然と人間の力が作り出した芸術。
ダムでありながら、壮大なアートに見えてくる。
富山のラーメンは、富山ブラックと呼ばれていて、スープが真っ黒で、とてつもなく塩っ辛い。
これは、汗をかく肉体労働者のための塩分補給として、醤油を濃くしたスープのラーメンを作ったのがルーツだからだ。
この渓谷の怪物を作った肉体労働者の方々も、この富山ブラックを食べて塩分補給をしていたのだろうか。
あんなにも塩っ辛いのに、富山に行くと、必ず食べたくなる。
富山ブラックを食べると力が湧いてくる。
大自然と戦った男達の歴史がそうさせるのかもしれない。
身体中に力が漲り、スープを飲み干した僕は、黒部ダムのような雄叫びを上げた。
店員さんに怒られた。
僕は静かに頭を下げた。