息を機能させるためのステップ

(旧サイトの「オンラインレッスン」のコラム記事のアーカイブです。2017-10-26の記事です。)

「唇ではなく息で吹きなさい」「もっと息を使いなさい」「息が大事」というようなアドバイスはよく耳にするものでしょう。

こういったアドバイスは、息がどのように機能するかを体感としてわかっている人にとっては意味がわかるものですが、そもそも、息がどう機能し、それが音や唇や技術にどう影響するのかを体感として理解するきっかけを得た事がない人にとっては、よく意味がわからず、「あー、また息のことか」「この人は息のこと言っておけばいいと思ってるんだろうけど、正直何の役にも立たんな」「やっぱり唇でどうにかした方がいいんじゃね?」という感じに、せっかくのアドバイスもただザルから流れていくことになります。

ここでは、息がどのように機能するのかを理解するきっかけをつかみ、「息で吹く」とはどんな事なのか、そしてそれによってどんないい事があるのか、を理解していく助けとなる事を目標として、以下に私の考えを記したいと思います。

ここに記すステップは次の通りです。

1)音を出すのを一旦やめる
2)息そのものの状態を学ぶ
3)息の状態と音の発生の仕方との関係を学ぶ
4)息の機能で吹く範囲を徐々に広げていく

1)音を出すのを一旦やめる

音を出す事と、これまでの感覚とは、当然ながら強く結びついています。これまでの息の使い方と唇の状態とがバランスをとって、音を出す状態を作ります。ですから、音を出す事によってこれまでのバランスが発動し、そこから一向に抜け出せない、という事がないように、一旦、楽器から離れ、音を出すのをやめます。そして、新たなバランスを作るようにします。

2)息そのものの状態を学ぶ

息の機能(息の使い方によって、何かが変わる・できなかった事ができるようになる・何かが楽にできるようになる)がよくわからない、という場合、ほとんどは、「息はたくさん使う方が良い(らしい)」という、息に関する雑な理解に終わっている事が原因であろうと思います。
「息をたくさん使う」はあまりに雑な理解すぎて、おそらく多くの人にとっては役に立つものではないと思われます。
息の状態について、言い換えれば、空気の動きの状態について、より詳しく繊細に知ることが、息がどのように吹き方に影響するかを知るきっかけになるだろうと私は思います。

息の流れや質については、こちらのページに書いてありますので、お読みください。

3)息の状態と音の発生の仕方との関係を学ぶ

息の状態というものを理解したら、それと音の発生の仕方との関係を知ることができます。
どんな息の状態の時にどんな音の出方になる、どんな息を使っている時に唇はどんな状態でいられる、どんな息の状態の時に技術的に限界を迎えにくく済む、など。

まず初めは、例えば真ん中のソのような出しやすい高さの音を、良い息の状態で出す(ことによって良い状態でソを出す)ということを練習することになります。
実験として、あえて色んな息の状態でソを出すことを試してみる、というのもとても良い方法でしょう。息の状態の違いによって、音質、音のストレスのなさ、音の響き、音の自由度、唇の楽さ、唇の自由度、喉の楽さ、などがどう影響されるかを、よく観察するわけです。

そして同時に、息の状態をコントロールすることによって音や唇がコントロールされることを通じて、新たな、息と唇とのバランスを見つけていくことになります。

この時に重要なことは、あえて、音そのものの結果を優先しないことです。
綺麗な音を出す、安定した音を出す、持続的な音を出す、こういったことは最終的にはとても大事ですが、少なくとも実験的にバランスを見つけていく作業においては、あえて音そのものの結果を第一にしない、ということが功を奏します。言い換えれば、そうしなければ、今までのバランスから抜け出すことは一生できないでしょう。
今までのバランスを見直し、息をより機能させるようにしたい、と願うならば、まずはそこから抜け出すための実験が不可欠です。

4)息の機能で吹く範囲を徐々に広げていく

出しやすい高さの音を良い息の状態で出せるようになってきたら、それを良い基準として徐々に拡張していくことになります。
グリッサンドや半音階などで徐々に音域を広げ、レガートでシンプルなものから徐々に複雑なものに様々な音の動きに対応できるようにしながら、タンギングもつけていく、というような道筋が一般的な方法となります。

以上が、大変大雑把ではありますが、息を機能させるステップとなります。

「息が大事」「息で吹く」という言葉の意味が、単に息をたくさん使うということではなく、音を発生させるためのバランスをいかに息(空気の動き)によって良いものにするか、それによって音や唇の状態が大きく変わる、ということを理解するきっかけとなれば幸いです。

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