10.音のセンター・ツボ
(旧サイトの「オンラインレッスン」の記事のアーカイブです。2017-02-09の記事です。)
ここでは、「音のセンター」「音のツボ」などと呼ばれていることについて学びます。
「音のセンター」「音のツボ」とは、最も楽器がよく共鳴し、最も楽器の本来の響きを出せる音の位置のことであり、且つ、余分な力みや負担のない状態で音を出すために、非常に重要なポイントです。
■体験1:音の幅
まず、次の譜例Aのように、ソを吹き、音程を持ち上げたまま伸ばしてみましょう。
今度は、譜例Bのように、ソを吹き、音程をぶら下げたまま伸ばしてみましょう。
最後に譜例Cのように、ソを伸ばしながら、音程を上下させてみましょう。
ここまででわかることは、同じソでも音に幅がある、ということです。
■体験2:音の幅の中での差
それでは次に、もう一度先ほどの3つを行いますが、今度は以下の点について感じ取りながら行いましょう。
1.音質
2.音の出しやすさ(息の流れやすさ、唇への負担の大きさ)
は、音の幅の中のどこで吹いているかによって、変わるでしょうか。
1.音質について
音を持ち上げて伸ばしている時、音質はどうなっているでしょうか。
音をぶら下げて伸ばしている時、音質はどうなっているでしょうか。
音を上下させている間、音質はどうなっているでしょうか。
2.音の出しやすさについて
音を持ち上げて伸ばしている間、息の流れやすさや唇への負担の大きさはどうでしょうか。
音をぶら下げて伸ばしている間、息の流れやすさや唇への負担の大きさはどうでしょうか。
音を上下させている間、息の流れやすさや唇への負担の大きさはどうでしょうか。
うまくできていれば、次のようなことを感じ取ることができたと思います。
・音を持ち上げて伸ばしている時、
音質は、薄く・詰まったようなものになってしまい、息は流れづらく、唇への負担も大きい。吹きづらい。
・音をぶら下げて伸ばしている時、
音質は、開きすぎた・がさついたようなものになってしまい、息は流れづらく、唇への負担も大きい。吹きづらい。
・音を上下させながら伸ばしている時、
音の幅の中で音質は変化し、上に行き過ぎると、薄く響きのない音質になったり、下に行き過ぎると、がさついた音質になったりする。その中間に良い音質のところがある。息の流れやすさは、上に行き過ぎたり下に行き過ぎると流れづらい。中間に流れやすいところがある。唇への負担も、上に行き過ぎたり下に行き過ぎると大きく、ツラい。中間に楽なところがある。
このようなことを感じられたのではないでしょうか。
■「音のセンター」「音のツボ」
音の幅の中のどの位置で吹いているかによって、音質や吹きやすさは変わるということです。言い換えると、その幅の中のどこかに、最も良い音質で、最も吹きやすい位置が、あるはずです。その最も良い音質で最も吹きやすい位置は、物理的に最も楽器が共鳴しているポイントであり、楽器本来の響きを発揮し、そして吹くために使っているエネルギーがストレスなく音になる状態ですから、余計な力みを加えて無理やりに音を出す必要のないポイントであるということでもあります。
この、最も良い位置のことが、「音のセンター」「音のツボ」と呼ばれます。
■音のセンターを見つける
それでは、音のセンターを自分の感覚として見つける作業をしていきましょう。
3つの方法をご紹介します。
①一度音を持ち上げてから、戻ってくる時にセンター/ツボに至る(譜例D)
音を伸ばしながら、最初に音を持ち上げます。
それから、ゆっくりと戻ってきながら、最も良い音質で・最も息が流れやすく・最も唇が楽な位置へ至るようにします。
②一度音をぶら下げてから、戻ってくる時にセンター/ツボに至る(譜例E)
音を伸ばしながら、最初に音をぶら下げます(ベンド/ベンディングというのをご存知の場合は、それです)。
それから、ゆっくりと戻ってきながら、最も良い音質で・最も息が流れやすく・最も唇が楽な位置へ至るようにします。
③音をゆっくり上下させながら伸ばし、少しずつ上下する幅を狭めていき、センター/ツボに至る(譜例F)
音を伸ばしながら、まずは大きめに上下させます。その幅の中のどこかに、最も良い音質で・最も息が流れやすく・最も唇が楽な位置(音のセンター)がありますから、少しずつ上下させる幅を狭めていきながら、最終的にセンターに至るようにします。
■感覚を育てる
この作業は、人によっては最初のうちはよくわからないかもしれません。まだ感覚が鈍く、少しの差に気づくことができないかもしれません。何事も、初めのうちは大雑把な感覚しかなく、鈍感です。コーヒーでもカレーでもラーメンでも何でも、初めのうちはブランドやお店の味の違いがあまりわからないわけですが、次第に、違いがよくわかるようになっていく、そのようなことです。音のセンターに関しても、少しずつ感覚が繊細になっていき、小さな差に気づけるようになっていくでしょう。そして、最も楽器が無理なく共鳴する位置というのが感覚としてつかめていき、最終的には、センターから外れて吹くことが嫌になってくると思います。
繰り返し、音のセンターを見つける作業をしながら、感覚を育てていきましょう。
■全ての音で
まずは、真ん中のソなど、出しやすい音を使って、音のセンターを見つけていきましょう。
それができたら、他の音でも同様の作業をします。
半音違えば、センターの感覚は異なります。すべての音に、それぞれのセンターの感覚があります。
そして、音が高くなればなるほど、少しの誤差の影響が大きくなり、センターの感覚がよりシビアに求められるでしょう。
さらに言えば、無理なくセンターで音を吹いている時、唇・舌・喉その他の状態は自然にその音に適した状態(位置や形状)になっていると言うこともできるでしょう。
■あらゆる点で重要
私個人の感覚では、ダブルペダル音域でも、ダブルハイの音域でも、それぞれの音のセンターで吹ければ鳴りセンターでなければ鳴らないかまたはキツい、という点においては何も変わらないと思います。
さらに言えば、小さい音を出す時に、センターを外れた位置で吹くのは自分自身に困難を強いますし、反対に大音量の時にも、センターを外れたところではいくらエネルギーを使い自分としてはすごく労力を使っているつもりでも、実際には音が遠くまでは響いていない、ということに陥ります。
音域や音量に関わらず、どんな時にも、音のセンターで吹くということは自分を助けてくれることです。
音のセンターで吹くことは、
・音質
・力みのなさ
・持久力
・発音のクリアさ
・タンギングの容易さ
・音域の開拓
・音量の幅
などのあらゆる点に、大きな影響を与えます。
例えば、センターを外れたところで吹き続けることは、無理に(余分なエネルギーを使って、それらしい)音を出し続けることですから、バテが早く来てしまうのは当然のことで、また、センターを外れたところは楽器が共鳴しにくいところですからでクリアな発音というのは困難です。さらには、音域を開拓していく上では、それぞれの音のセンターの感覚を見つけていく、という作業をすることで音域を広げていくことができます。
■余談
「音のセンター」という点は、トランペット(金管)奏法の点で非常に重要な点のひとつであり、例えば、James ThompsonのThe Buzzing Bookでは一番最初に出てくる五線は「音のセンターを見つける」という項であり、Hakan HardenbergerのマスタークラスのDVDの中でも彼は「音のセンタリング」とそれを呼びながら無理に押し込まなくても音が響くポイントを生徒に見つけさせており、Michael Sachsのオケスタ本の中での説明文にも「いかなる長さ・大きさ・高さの音でもいつもセンターで吹くこと」の重要性が説かれています。その他例を挙げればきりがありません。
楽譜
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