柔軟性・リップスラー(広域)
(旧サイトの「オンラインレッスン」記事のアーカイブです。2017-02-10の記事です。)
柔軟性(リップスラー)の練習です。
柔軟性(リップスラー)の練習のタイプには大きく2つあります。
・幅広い音域をつなぐタイプ
・比較的狭い音域を速く行き来するタイプ
こちらでは、幅広い音域をつなぐタイプのリップスラーを取り上げます。
譜例
■「柔軟性」の練習
柔軟性(flexibility)の練習とは、その名の通り、柔軟性を得る・高めるための練習です。
「柔軟」という言葉は、いかなることにも即座に対応できる状態、という意味にとらえることができると思いますが、トランペット(や他の金管楽器)の場合では、「ある音だけに対応できる状態」ではなく、「様々な高さの音に即座に対応できる状態」のことだと言うことができます。
柔軟性に欠けた、ある音だけに対応できる固まった状態では、他の音に移るために大きな労力を必要としてしまうため、速く音を移ることが困難であったり、音の移り変わりが粗雑であったり、あるいは音域に制限が出てしまったりします。
一方で、柔軟性に富んだ状態では、他の音に移るために最小限の労力で済み、対応能力が高いため、速い音の移り変わりや滑らかな動きなどが得られます。
■練習時の原則(逆効果にしないために大事なこと)
リップスラーの練習方法にも様々な考えがありますが、ここでは、あくまで「柔軟性」という観点でのリップスラーの練習を示します。
1)決して押し込まない
音を移る時に、息を押し込む、息でプッシュする、息でアクセントをつける、ということを一切しません。
そのようにする方法論もありますが、少なくとも柔軟性という観点では、それが害となりますし、そして何より、そのようなことをしなくてリップスラーは可能です。
あくまでスムーズに、余計なプッシュをすることなく音が移り変わる状態を得るようにします。
2)息で導く(唇ではなく)
ジェームズ・トンプソン(James Thompson)氏の「バズィング・ブック」(The Buzzing Book)に出てくる言葉に、「唇ではなく息で導く(lead with air, not lips)」があります。
音を変える時に、唇が先に締まったりゆるんだりするのではなくて、息の導きが主でありそれに唇は自然についてくるようにします。
一貫した音質、音域の広さ等に非常に大事な点と言えるでしょう。
3)舌を上下させる?「シラブル」??
リップスラーをする時に、一般的に強調される点として、舌の上下、シラブル、というものがあります。
高い音に行く時には、舌を持ち上げ、低い音では舌を下げる、というものです。
私自身もかつてはこの説明を用いていましたが、現在はしていません。なぜなら、これによる弊害も生まれるからです。
「舌を上げる」を先行させてリップスラーをしていくと、例えば高いソくらいの所で舌は上がりきっていて、「もっと高い音に行きたいけどもうこれ以上舌はあげられない」という状態に陥ることがあります。
確かに、舌は、高音では高い位置に・低音では低い位置になることは、事実です。しかしながら、無視できないことは、舌のポジションは他の要素(息の流れ方、唇の柔軟性、等)と常にバランスをとっている、ということです。
言い換えれば、舌のポジションは、それだけで独立して決めることが不可能であるから、舌のポジションありきでリップスラーの練習をすることは、思わぬ弊害やむしろ音域的制限を招きかねない、ということです。
一方で、上記のように、「息で導く」ということができてくると、舌の上下の動きは実は最小限で済むこと・舌のポジションは自然に決まってくることが理解されてきます。
舌の上下の動きが少なくて音が変えられれば変えられるほど、効率的なのです。
4)無理矢理に結果を作らない
他のどの練習でも同じことではありますが、無理矢理に結果を作らないようにします。
唇を変に締め付けるようにしたり、息をプッシュしたりして音を上げるようにすれば、すぐに高い音が出て結果が出たように思いやすいですが、その人は、その後その音はその無理のある状態でしか出せない人になります。
一方で、スムーズなまま息で導くことをトライし、仮に今日は音が上がらなくても、数日トライを続けていくうちに、楽なままポロっ音が上がる瞬間が訪れ、その頻度が上がっていき、最終的には楽なまま音を上げることができるようになります。
大事なことは、今日すぐに(無理のある方法で)結果を作り出すことではありません。
無理のない良い方法をとりながら、明日が今日よりも良い状態になるように努めること、それを続けていくことです。
■A
これがすべての根幹となります。
音の間を、グリッサンドで吹きます。
息の流れを充分に保ったまま、息の流れがスムーズなまま、グリッサンドで下がっていきます。
グリッサンドしている間はできる限り(音が細くなったりせずに)均質なまま、一定に下がり続けます。
そして、均質に下がり続けた結果、自然に、勝手に、下の音に変わるようにします。
「作り変えて下の音を出す」 感覚ではなく、「息がスムーズに流れて同じ感覚の延長上で自然に音が変わる」感覚です。
まずは音が下がるタイプを使って、「息で導く」感覚を養います。
次に、音が上がるタイプでも、同様に行います。
実際には音が下がるタイプのようにはグリッサンドの間の音は埋まりませんが、グリッサンドのつもりで息の流れを充分に保ったまま、息で導きます。
無理やり音を変える、のではなく、うまく息で導いた結果、楽に自然にポロっと音が上がるようにします。
■B以降
徐々に音域が広がっていきますが、特に新しいことはありません。
ここまでの原則のまま、少しずつ拡張していきます。
テンポの指示は全くありません。
今の自分が、最もストレスなくスムーズに取り組めるテンポで行ってください。
少しずつ、が重要であろうと思います。
地道に、無理矢理にできる範囲ではなく、ストレスなくできる範囲を、広げていきましょう。
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