5. 息の練習

(旧サイト「オンラインレッスン」記事のアーカイブです。2017-02-09の記事です。)

息の流れと質についてはこちら(「息の流れと質」)で記述しましたが、実際に息の流れを感じ取ったり、良い質の息の流れを養うための練習方法をここでいくつかご紹介したいと思います。

ここでご紹介するのは、大きく以下の通りです。

・身体を柔軟にし、吸い込みを自然でリラックスした深いものにする練習
・視覚化する方法
・触覚による方法
・実際の演奏に近い方法

それぞれの方法に、それぞれの意味と利点がありますので、自分の現状と自分をどのように変えていきたいかに合った方法を選択したり、組み合わせることができます。

<身体を柔軟にし、吸い込みを自然でリラックスした深いものにする練習>

呼吸の大前提となる、柔軟でリラックスした身体の動きと空気の自由な動きのための練習です。

■ブリージングバッグ(または筒とビニール袋)

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良い息の流れを生むためには、その前提として、大きくリラックスした息の吸い込みが求められます。

息の吸い込みが小さいと、身体を(特に腹部の筋肉を)必要以上に締め付けて固くして息を押し出す必要に迫られます。
そうではなく、身体が柔軟に開き大きく息を吸い込むことによって、身体がもつ弾性収縮(広がった上半身が自然に元の大きさに戻る力)を利用しながら、身体を固めることなく良い息の吐き出しを生み出す方法を学びます。

そのための一つの練習方法は、ブリージングバッグを利用する方法です。
ブリージングバッグ(とそれに替わる簡易ブリージングバッグ)と練習法についてはこちらに書きましたのでお読みください。

<視覚化する方法>

■スピロメーター

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スピロメーターは、息の流れによって白いボールが上がるようになっている器具です。
息の流れが充分であればボールは上がり、息の流れが不充分であればボールは上がらない、というように、息の流れが目に見えてわかるようになっています。目に見えない息の流れが、視覚化されるというのがこの器具の利点です。

ホースにマウスピースを入れ(入れなくても行うことができますが、より楽器の状態に近い状況設定にしたい場合は、マウスピースを入れて行うことを私はおすすめします)、息を流します。
バズ音は出さなくてよいので、唇は大きく開けてしまうか、下唇をマウスピースからやや外してしまうかして、息だけ流します。

ストレスのないフリーな息で、ボールが上がるようにします。

①できる限り楽なまま、ボールが上がるようにする(身体をギュッと固めて息を押し出すのではない)

②唇から外の息の流れを、感覚として感じ取りながら行う(身体の内部のことではなく、身体の外での息の流れを感じ取る:アーノルド・ジェイコブスの教え)

③息の流れが、近くで止まりがちであったりストレスのあるものではなく、遠くまでストレスなくフリーに流れていく息であること(ジェイコブスの言葉では、”more flow, less pressure”より多くの流れ、より少ない圧)
の3つをポイントとしながら練習します。

基本的には、ロングトーンのように息を長く流すことから始めます。ただ、ここでは、息がどれだけ長く持つか、は全くポイントではありません。息の流れの質がどうであるか、がポイントです。自然にゆっくりとリラックスして深く息を吸い、そのまま自然に息を吐き出しながら行います。

応用的には、タンギングをつけたり、実際の曲の一部など様々なアーティキュレーションで行います。この時にも、息の流れの質が保たれ、タンギングのせいで貧弱になったりすることのないよう練習します。つまり、ボールが上がり続けるようにします。

■紙

紙を手に持ち、顔の正面のできる限り遠くにかざし、紙に息を吹きかけ、紙を揺らす方法です。
紙を揺らすことによって、息の流れが充分であるかを確認する方法です。

ストレスのないフリーな息で、紙が揺れるようにします。
①できる限り楽なまま、紙が揺れるようにする(身体をギュッと固めて息を押し出すのではない)
②唇から外の息の流れを、感覚として感じ取りながら行う(身体の内部のことではなく、身体の外での息の流れを感じ取る)
の2つをポイントとしながら練習します。

<触覚による方法>

■手をかざす

手を口の前にかざし、息を吹きかける方法です。できるだけ遠い位置に手をかざし、息を吹きかけます。
手で息の流れを感じ取りながら行うことがポイントとなります。そして、息の流れがフリー且つ均一であるようにしながら(ストレスのある息であったりムラのある息ではなく)、それを感じ取りながら行うことによって、良い息の流れを養います。

基本的には、ロングトーンのように息を長く流すことから始めます。ここでは、息がどれだけ長く持つか、は全くポイントではありません。息の流れの質がどうであるか、がポイントです。自然にゆっくりとリラックスして深く息を吸い、そのまま自然に息を吐き出しながら行います。

応用的には、タンギングをつけたり、実際の曲の一部など様々なアーティキュレーションで行います。この時にも、息の流れの質が保たれ、タンギングのせいで息の流れや質が貧弱になったりすることのないよう練習します。

<実際の演奏に近い方法>

■楽器

楽器にマウスピースをつけ、音は出さずに息だけ楽器に流す方法です。
この方法では、視覚的に息の流れを確認することはできませんから、いかに感覚で息の流れをとらえることができるか、ということがポイントとなります。
そしてこの方法が、実際に楽器を演奏する状態に最も近い練習方法です。

マウスピースをつけた楽器を持ち、楽器に息を流します。
唇より外の息の流れ(楽器の中を通過していく息の流れ)を感じ取りながら行う(身体の内部のことではなく)
②近くで止まっている息や楽器の中で滞る息ではなく、遠くまでスムーズに流れる息で行う
楽器やマウスピースの抵抗があるにも関わらず、その抵抗をほとんど感じないでスムーズに息が通過していく状態にする(ジェイコブスの言葉でいうところの、”more flow, less pressure” 流れを多く、圧を少なく。)
をポイントとして行います。(息を「押し込む」のとは異なります。)

ここで目指したいのは、柔軟で楽な身体の状態と、ストレスがなくスムーズな良い息の流れ(豊かな息の流量)とが、表裏一体であるということです。

その反対に、楽器に息を「押し込む」ような感覚である時、身体の様々な部位(とりわけ喉や上半身の筋肉)は締め付けられ、実は息は流れづらい状態になっています。それにもかかわらずさらに息を押し出そうとします。体内圧力を感じる状態でもあります。
このような「いきむ」方法は、「ヴァルサルヴァ法」と呼ばれ、身体を固定し体内圧力に頼って動作を遂行する方法です。この方法でも演奏をすることはできますが、もっとも効率よく無理がなく身体と楽器の可能性を最大限に活かす方法ではありません。

ガボール・タルケヴィの言葉を借りれば、「トランペット演奏の90パーセントは息。息がうまく機能していないと、唇や喉やその他いろんな問題が生じてくる。」(サラ・ウィリスとの対談「Horn Hangouts」より)のです。また、アーノルド・ジェイコブスの言葉では、「アンブシュアに問題が生じるのは唇が息に飢えているからだ。」というものがあります。
どのように息を機能せることができるか、によって、唇や喉をはじめとした各部の状態は大きく変わると言えると思います。言い換えれば、唇がすることの割合(唇を操作しなければならない割合)は、息の機能が高いほど、実はかなり少なくて済むわけです。

この練習を通じて、実際に楽器の中を通過する息の状態を適切にコントロールすることを学びます。

この練習は、まずはロングトーンのように単純に息を流すことから始め、楽器で行うウォームアップや基礎練習として行うメニュー、エチュード、曲、全てのことを使って行うことができます。

演奏するものの運指通りにピストンを押しながら、音は出さずに、息を流します。
音をイメージしながら行う(音の高さ、発音、長さ、強さ、形、音色、フレーズ、その他全ての要素について)
②運指の違いにより息の通り道の長さが変化しても、良い息の流れを保つ
③音の高さや長さ等にかかわらず、息の流れの質は常に一定であること
をポイントとして練習します。

唇に頼って吹くのではなく、息を主体として吹く状態を理解していればいるほど、この練習は効果を生むものと思われます。

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