ストックオプションのルールが変わる。
まずはじめに
以下の経歴を持っている人間が語ります。
株式について、事業と株価に関しては強め、会計・税務に関しては弱めといった形の理解でいていただければと思います。
新卒で機関投資家(日本株リサーチアナリスト)を経験。セカンダリー売買される株式に対しては詳しいはず。
中途ITスタートアップに入社し、レイターでの資金調達関連やIPO、IPO後のSOについても見てきた為、そこそこ理解があるはず。
上場後に税制適格SOの行使ができるタイミングで既に株価自体がSOの行使価額を下回っていたので、行使をする機会はありませんでした。
現在はpolyfit株式会社を創業し、今後ストックオプションを含んだ株式報酬に関わる設計を行っていく予定です。
ストックオプションに関する課題
個人的にストックオプションに関する課題は以下の3点だと理解をしています。どれもスタートアップという文化がないところが課題でした。
① 行使できるまで時間が長すぎる問題
一般的に税制適格ストックオプション(以下、SO)を行使するまでの期間は、SOの付与を受けてから2年後以降となります。
また、行使条件にIPOを前提とするという条項がさらについていたりすると、事業が伸びる期間 + IPO準備をする期間 + 上場後一定の時間とまぁ時間がかかります。(平均すると5~7年くらい)
そんなこんなだから、どうせ行使できないんでしょ?と価値を低く見られます。経営者はめっちゃ考えているのに、、、みたいなことが起こります。
② 行使価額が高すぎる問題
行使価額が高いと、上場後の株価との差が縮まりにくい傾向があります。
例えば、上場後に1,000円の株価になったとして、900円で行使できるSOを行使した場合、差額は100円しかないです。
100円しかない場合、どうするのか?というと「単純にインセンティブとして弱い」か、「付与する株数を増やすほか」ないです。
③ 未上場のうちに行使できない問題
これも重たいです。
税制適格SOを未上場のうちに行使するためには①証券会社と契約及び②株券発行会社変更、そして③証券会社で株券を保管するという要件が必要です。
未上場のうちに行使するという従業員(主に退職する人)向けにかなり重たいコストをかけていくというのは理論的に理解しづらい点があります。
スタートアップはやらねばならぬことがたくさんあり、リソースがないからです。
Appendix 株価算定周り
個人的には不可解だがあまり論点に上がっていないので今回は無視。
優先株の発行株価にSO価値の算定を寄せていくという意味のないDCFなどのやり取りは人類にとって無駄なブルシットジョブです。
端的にまとめると
行使するまでの期間が長い割に、未上場のうちに行使もできず、かつ行使価額が高くなる仕組み。
上記があると「労働環境が安定せず、キャッシュの給与が高くなりづらいスタートアップ企業」で働く意味が薄くなることが課題。
さらに、その課題を解決する為に信託の仕組みを用いたものが作られていた。しかし、スタートアップにとっては費用負担が年間数百万円かかります。
本来お金をかけるべき、成長投資ではない費用に調達した資金が利用され、本質的ではなかった側面がありました。
変わるストックオプション
細かいことは詳しい人が書いてくれているので、自分はざっくりとしたことを書いていく。人類はストックオプションの専門家になる必要はないと思っているのでざっくりと
① 株価算定がゆるくなった。
VCから資金調達を受けたスタートアップであれば、一定の条件がそろえばどのタイミングでも1円で発行できるようになりました。しかもあり得ないくらい緩い条件です。
例えば、もともと行使価額900円、5,000株のSO付与を受けていた従業員が1,200円で株式を売却する場合、150万円((1,200-900)*5,000株)の利益しかないところが、1円で行使できれば、約600万円の利益になる。デカくなると価値が高まる。
② 未上場のうちでも行使しやすく??
保管要件が明確化され、以前の解釈よりも緩和されたようです。
今後、未上場のうちに行使したりできる仕組みは急激に加速していきそう。(とはすぐできず、リードタイムがかかりそう。)
スタートアップ業界の変化
新しい制度はスタートアップ業界にとって大きくプラス。
株式報酬に関わる議論や類似サービスはたくさん出てくる時代になると考えています。
① レイターステージのスタートアップ採用力向上
レイターステージの税制適格SOの魅力拡大により、優秀な人材獲得容易になると想定があります。
とはいえ、既にSOの発行を終えている会社もあるので、そこは面接で聞いいておく必要がある。レイターステージ企業の大半はSO枠を使い切っているケースも多いです。
② アーリー期を駆け巡る専門人材の新市場が誕生
スタートアップは初期フェーズにおいては横に広くすべての業務に精通するスタッフが必要。
その反面、グロースフェーズ後半になると専門性が必要とされる特化人材のほうが魅力的になり、社内で活躍の機会を失うことが多い。
そのような人材はストックオプションを少しずつ行使しながら、2年ごとにスタートアップを転々とする市場が形成される可能性があると予想。
③ SOの付与戦略が変更され、評価制度に沿ったものに
これまでのストックオプションの付与戦略では、「株価」と「株数」という概念が重視されていました。
株価については低ければ低いほど、従業員のキャピタルゲイン(利益)は増える為、初期にまとめて期待値を込めて発行する事例も多い。その反面で活躍できるか?は働いてみないとわからないという課題があり、結果として過小の付与になっていたケースもありました。
株価についてはほぼ1円で固定できるのであれば、付与を考える際に必要とされるのは付与株数でしかない。その為、評価制度に連動して株式を付与するという仕組みを作りやすくなったと思う。
④ 株価保管要件を満たすSaaSの新市場が爆誕
これはSMARTHRの子会社である「Nstock」さんや「スマートラウンド」さんが有利。
個人的にはユニコーンを目指すか、それ以外という意味で発行戦略が異なるSO市場において、後者を満たすサービスは上記で提供されるかは不明確なのかな?と考える。(若手でもチャンスあるよ、ここ)
最後に
深夜のテンションで書いてみました。
株式報酬の分野はスタートアップで働くならば必要不可欠のリテラシーを持つべきです。しかし、社会として課題が多く後進国である日本を前進させるには事業としてまだまだやることが多くあります。僕たちは事業を頑張らなくてはなりません。困っている人を助けるべきです。
むしろそれ以外のことはやってはなりません。
だって、税金の支払いを考える前に、そもそも上場したり、ドデカい成功をしないと意味がないのですから。
Publicity
筆者はpolyfit株式会社という「地域と協働した新しい学校運営」という変革市場でビジネスを展開するスタートアップ企業で代表をしています。
最近ではユーザー数も増加しつつあり、さらにプロダクトを強化していく予定です。会社を退職して、これから楽しみです、限界にチャレンジ。
株式報酬を科学し、上記の会社が成功した際には関わるステークホルダーが物理的にお金持ちになれるように制度設計をしていきます。自分が損をしても良いので楽しいことがやりたいです。
採用もしてます。TwitterからDMしてください。
polyfit株式会社 https://www.polyfit.jp/
Thanks
経産省を含めた省庁のみなさま
スタートアップでロビーイングをしてくれている方
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