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『悪魔とダニエル・ジョンストン』ロゴ騒動 〜未来の上映者のために語り継ぐべき事件簿〜

どうもこんにちは。
グッチーズ・フリースクール(日本未公開の映画の上映や配給などを行う団体)のふるやと申します。
このnoteでは、グッチーズ・フリースクールの活動にまつわるなにがしか(といっても概ね騒動・事件・問題といった類のものになるはずです)を日記のように、あるいはメモのように書き残していきたいと思います。そして、二度とこのような悲しい出来事が起こらないよう、戒め/教訓として後世にまで引き継いでいけたらと、そう願っております。「未来の上映者のために語り継ぐべき事件簿」のようなものになればいいですね。でも事件は起きないのが一番ですね。

さて、早速本題に参りたいと思います。
第1回目は2/20(土)~23(火・祝)にかけて開催する「本と音楽の映画祭」Home School Edition↓にまつわる、その名も『悪魔とダニエル・ジョンストン』ロゴ騒動について書き残していきましょう。

アプルーバル(承認)を得よう

いくつになってもトラブルばかりだ。
グッチーズは上映イベントを初めて開催してからもう6年以上経っているのだから、そろそろトラブルも出尽くしてもいいようなものだが、どうしたものか、トラブルは一向に減ることなく毎回飽きもせず私たちのもとにやってくる。
今回もほとんど呼吸するかのように、ごく自然にやってきたトラブル①は(②、③……は次回改めて書き残し、後世に受け継いでいきたいと思っている)、映画ビジュアルに関するものだ。
映画の宣伝にはポスターや場面写真、それにオフショットやGIF画像などなど、さまざまな種類のビジュアルが動員されるが、もちろん好き勝手に画像を使って良いわけではない。
権利元から宣伝材料として使用を許可される画像をもらい受け(映画の権利料や上映素材費のほかに、この宣材にもお金がかかることがある)、その画像を基に日本版ビジュアルを制作するというのが基本的な仕組みだ。

当初グッチーズは「許可されてる画像ならば自由に使って良いだろう」と解釈し(手に入れた素材のなかで)自由にビジュアル制作をしていた、という過去は、もしかしたら堂々とここに書いちゃヤバいのかもしれないが、「日本版ビジュアルとして、きちんと先方に許可を得ないといけないっぽい」と知ったのはほんの数年前だ。
ちなみに「邦題もきちんと許可を得ないといけないっぽい」と知ったのもこれまた数年前である。こちらは『ドリーム 私たちのアポロ計画』邦題変更騒動をきっかけに知ったのだった。「マーキュリー計画」を扱った映画なのに「アポロ計画」という副題がつけられているとして、多くの批判を集め、そこから「邦題が原題と違いすぎる問題」「ダサい邦題問題」などへ発展した、映画ファンから大いに関心を集めた騒動だったが、そんな裏で「理解ある邦題を付けられるか以前にそもそも今まで許可とってねえ」と非常に動揺したことを今でも覚えている。

(『High School』(2010)という映画を権利元の許可を得ずに『ハイスクール マリファナ大作戦』として公開したあれ、大丈夫だったのかな……)

赤い“NOT”とワークショップ

そこからは一応、制作した映画ビジュアルはメール添付し、権利元に確認をしてきたり、確認し忘れたりしてきたわけだが、NGが出ることは一度もなかった。
だから、今回もまあOKだろうとヘラヘラしていたわけだ。甘く見ていたのだ。先方から支給されていないダニエル・ジョンストンのイラストを勝手に使用して『悪魔とダニエル・ジョンストン』の単体ビジュアルを作るほどに。もはや映画のスティルの無断使用ですらない。映画の登場人物(ダニエル・ジョンストンさん)が描いたイラストを勝手に使ってみたわけだ。さあ、どうなる。権利元からの返事はこうだ。

The artwork for The Devil and Daniel Johnston is NOT approved.

NGだ。しかも“NOT”が大文字だ。
いやこれ、どういう感情なんだ。いままでお目にかかったことのない英語表記である。ただ、この文面から確実に感じ取れるのは、めちゃくちゃな圧だ。このたった三文字に、断固認めないという意思がギチギチに詰まっていることがわかるだろう。
さらに恐ろしいことに、実はこの“NOT”の部分はメールでは赤字だったのだ。あの鮮明で強烈な赤の“NOT”をnoteでは表現できないが残念だが、“NOT”は赤かった。赤“NOT”だ。なぜ赤いんだ。
メールを開いた瞬間、“NOT”の赤にドキリとして、瞬時に後悔した。ごめんなさい、と。
いや、まあ勝手にイラスト使ってるんだから、そりゃあNGなのも当然なのだが、今まで即OK(または返事がなかったり)だったので「圧すげぇな……」と思いつつ、「この会社はきちんと確認してるんだ!」と妙な感動を覚えたりもした。私はこう思った。

「この会社は信用できる。だってちゃんと確認するんだから」

何様なんだ。いまや信用を失いかけてるのは私のほうなのだ。
「さすが勝手にイラスト使用しちゃあいけないよなあ」と反省していたのだが、しかし英文を読解するとなにやら原因はイラストではない様子である。先方の指摘はなんとタイトルのロゴデザインだったのだ。ダニエルのイラストについてはむしろこう。

You can take as many Line Art Images of Daniel’s Art, like Casper, (there are tons of these line art images on line),and put them anywhere you like on the new Guitar Photo, and create your own Design freely.

「ダニエルのイラストを好きなところに貼り付けて、あなただけのオリジナルデザインを作ろう」みたいなノリだ。

イラストは勝手に使ってよかったんだ!
むしろ推奨してるんだ!

前のメールが圧が強かった分、なんだかフレンドリーで楽しげなワークショップ感すら漂っている。

ポスターをくれ。いやロゴをくれ!

さて、ではどんなロゴならば良いのかと言うと、「すでに海外版ポスターで使用されているロゴをそのまま使用してね」とのこと。そして先方からのメールには海外版ポスターが添付してある。それが↓で使われているポスター。

「それなら最初にポスター送ってくれよ! というかロゴくれよ」と思われる方もいるかもしれない。ただ、これに関しては、完全にこちらの経験不足が否めない。
「日本版ビジュアルのロゴは海外版のポスターと同じロゴにしないといけないから、ウェブ上から海外版のポスターを勝手に拝借してきて、ロゴだけ切り取って使うぞ〜!」と思えなかった自分のが本当に情けないかぎりだ。
おそらくプロフェッショナルな配給会社さんは、このような、なんといいますか、気遣いといいましょうか、先読みと申しましょうか、こういうことを当然のようにされているのだろう。

経験不足の自分を恥ながらグッチーズは、デザイナーさんに「すいません。海外版ポスターと同じロゴでお願いします」と事情を説明するわけだが、ここでまた問題が起きる。
先方のメールに添付された画像は、レイヤーが分かれていない上に、肝心のロゴ周りがギッザギザなのだ。あとなんか汚いんだ。低画質だからかだろうか、なんか汚い。だから、ロゴをそのまま切り取ろうにもめちゃくちゃ難しいし、ガサガサになってしまうのだ。だってギザギザだから。
このままでは労力に対して、成果が貧しいことになるので、色々と要望を伝えたり、伝えられたりしながら最終的には無事に権利元の承認を得たビジュアルが出来上がった。『悪魔とダニエル・ジョンストン』のビジュアルが出た際には、ぜひ「海外版のタイトルロゴと同じだあ」とお楽しみいただければと思う。

カート・コバーンが着た、あのカエルみたいなやつが使われているビジュアルのロゴはいいのか問題

ただ、どうしても気になるところが一点だけある。
『悪魔とダニエル・ジョンストン』は日本でトルネード・フィルムさんが当時公開されているので当時の日本版ビジュアルが存在する。
みなさまご存知の「カート・コバーンが着た、あのカエルみたいなやつ」のイラストが全面に使われているビジュアルである↓

なるほど。「ダニエルのイラストを好きなところに貼り付けて、トルネード・フィルムさんだけのオリジナルデザインを作」ったんだなあ。私も日本版のデザインに関しては、全然良いと思っている。むしろ、その見事なデザインにとても感服さえしているほどだ。だから、どうしても気になる一点とは、そのデザインの良し悪しなどではなく、そのタイトルロゴだ。

皆さまもぜひその目で確かめていただきたい。日本版ビジュアルのタイトルロゴと海外版のタイトルロゴ。まるっきり違うんだ。

いや、今待てよ。日本版ビジュアルのロゴは、海外版ポスターのロゴではなく、ダニエル・ジョンストンのアルバム『HI, HOW ARE YOU』のロゴデザインと一緒だよな?
あー! 『HI, HOW ARE YOU』のロゴデザインもダニエル・ジョンストンのイラストの一部だから、好きなところに貼り付けOKなのか。
いや、なにそのルール。

と、まあこのロゴ騒動、結局よくわからない。権利元の考え方が変わったか、トルネード・フィルムさんが作られたビジュアルの素晴らしさに権利元も魅せられたのか、あるいはやり手配給会社だけが繰り出せる奥の一手があるのだろうか。
現在トルネード・フィルムさんは倒産してしまってしまっているし、実際デザインされたデザイナーさんも分かりかねるので、いまや真相は藪の中だ。しかも真相が解明されたところで、割とどうでもよかったりする。
ただ、もしトルネード・フィルムさんがnoteを使用していたら、今回の『悪魔とダニエル・ジョンストン』ロゴ騒動もスムーズに解決していたかもしれない。そう思うと、やっぱり後世への引き継ぎは大事だなあと思うわけだ。

ということで、これが今回の『悪魔とダニエル・ジョンストン』ロゴ騒動だ。自分の書いた内容をいま振り返ると、わざわざnoteに書くようなことじゃなかった。後世にも残らなさそうだ。しかし、まあ無理矢理言えば、この騒動からの導き出される教訓は以下になる。

【「タイトルロゴに関してルールある?」とまず最初に聞くべし】

次回は《『ワザリング・ハイツ 〜嵐が丘〜』のOriginal Director's Ratio事件》、あるいは《Premiere CCにsrtファイルを読み込むも保存後バグる問題》などについて書きたいと思います。

「本と音楽の映画祭」Home School Editionのイベントビジュアルである↓の『悪魔とダニエル・ジョンストン』ロゴは海外版ポスターとも『HI, HOW ARE YOU』のロゴデザインとも異なるのになにも言われませんでした。不思議だね。

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(追記:2021/2/18)
当時日本版『悪魔とダニエル・ジョンストン』のビジュアル制作にアシスタントとして関わられていた石井勇一さまよりご連絡をいただき、ロゴの謎が解けましたので、追記致します。
やはり予想していた通り、基本的なタイトルのフォントは音源ジャケットから持ってきたようですが、そうなるとスペルが少し足りません。「DEVIL」の「V」とか。そこはオリジナルの雰囲気に合わせて書き加えたとのことでした。
そこにリスペクトがあれば、OKをもらえたりする、とのこと。権利元もただルールの鬼、ロボットではなく同じく人間。きちんと良さやこちらの思いを伝え、そこにリスペクトの念があれば、フレキシブルに対応してくれるものですね。とても良い教訓になったのではないかと思います。

ちなみに、石井勇一さまからのメッセージを、今回『悪魔とダニエル・ジョンストン』のロゴを新しく作ってくれているデザイナーに伝えたところ、「あたしゃもリスペクトして作っとる」とのことでした。それではまた。

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