師匠とロケット噴射
もう一人僕に影響を与えてくれた人がいる。父の会社に昔勤めていた写真家の人。
留学する前に一度お会いすることができた。一眼レフカメラを買いたいと思っていたので、彼からカメラ購入のアドバイスも聞けるかなと思った。
日本橋の彼のスタジオに電話をする。
「はいスタジオ○○です」
と。 その写真家の名前がついたスタジオ名を名乗る。そして電話を出るのは常に彼本人だった。
そして彼のスタジオに行くのだが、随分と古い感じの木造の建物が日本橋のがやがやした大通りの脇道にあった。ガラガラと引き戸を開けて中に入ると彼がいる。
彼は白髪で黒澤明の侍映画に出てきそうな雰囲気で。後ろに髪を結んでいた。
そこで色々な話をした。 はっきりと今でも覚えている言葉が、僕はこれもしたくてあれもしたいなどとやりたい事を話して言ったら。
「好きなことを色々やりなさい」
興味があることは何でもやったほうがいいと言ってくれた。
その言葉がすごく励みになった。
予想していた言葉から全く逆のことを言ってきたので、驚いた。
今の日本でもそんな風に言ってくれる人は少ないと思う。
帰り際に彼の奥さんが現れて息子の話をして何か息子の愚痴を言ってるような感じがして彼の家庭的な部分が見えて面白かった。
大人に話を聞きに行く時は
「止めなさいとか、一つの事をしなさいとか」
言われることを予測してビクビクして話を聞きに行くことが多かった。皆でもそうではないだろうか?
別れを告げ、戸を絞めて、中古カメラ屋さんの場所を教えてくれたのでそちらにむかう。 考えたら彼のスタジオには一人しかいなかった。うちわを仰ぎながら、電話にでて仕事をしてる彼はなにか白黒の映画のワンシーンを見てるような気がした。
ロケットエンジンを一つ分けてくれたような気がして、ワクワクしながら、人々が直立状態で行き交う日本橋の大通りを歩いていった。