プチ短編 第5話 「うでふりおじさん」
<あらすじ>
「うでふりおじさん」は毎朝、決まった時刻に神社の前にやってきます。ところが、ある日をさかいに姿を見せなくなりました。心配した子どもたちは……。
うでふりおじさんは背が高くて四角い顔をしています。そして、いつも丸くて大きなめがねをかけています。
七十歳を過ぎているのに、だれもおじいさんとは呼ばず、うでふりおじさんといいます。
それは、毎朝うでを大きくふりながら歩いているからです。
「おはよう。」
「おはよう。」
神社の前に子どもたちがあつまってきました。これから小学校へ行くところです。
そこへ、うでふりおじさんがやってきました。
「おはよう。」
おじさんはうでを直角にまげて大きく振りながら、さっそうと歩いています。
「おはようございます。」
子どもたちは、あいさつを返しました。
「うでふりおじさんが来たから七時四十分だ。さあ、学校へ行こう。」
おじさんはいつも七時四十分に神社にやって来ます。子どもたちはおじさんに会ってから学校へ行きます。
うでふりおじさんは、いつも畑の間の道を通って神社にやって来ます。
農家の人は畑で、やさいや、くだものを作っています。
春になると、うめの木にきれいな花が咲きます。やがてちょうちょが飛び回り、黄色い菜の花が咲きます。
夏になると赤いトマトやみどりのキュウリが実ります。
おじさんは、畑を見ながら歩くのが大好きです。だから、おじさんはいつも畑の間の道を歩きます。
神社には大きな、いちょうの木があります。この木は、おじさんが子どもの頃から神社にあります。おじさんの友だちです。おじさんは毎朝、友だちに会いに来るのです。
うでふりおじさんはいつも顔をあげて背すじをのばして、さっそうと歩きます。
「おじさん、今日も元気だね。」
女の子がいうと、おじさんは大きな口を大きくあけて、ハハハと笑います。そして、こうこたえます。
「今日も元気いっぱいだよ!」
いちょうの木の葉っぱがだんだん黄色になってきました。秋が来たのです。
来る日も来る日も、うでふりおじさんは七時四十分に神社へ来ました。
ところが、ある月曜日の朝のことです。
「そろそろ、うでふりおじさんが来るかな。」
男の子が畑のほうを見ましたが、おじさんの姿が見えません。
「もしかしたら、あたしたちが時間をまちがえたのかな。」
女の子が言いました。
すると、近くのお店のおばさんが言いました。
「みんな、七時四十分よ。学校へ行かないと、おくれるわよ。」
「はーい。」
その日は、うでふりおじさんに会わないまま学校へ行きました。
火曜日になっても水曜日になっても、おじさんは来ませんでした。
「うでふりおじさん、どこかへいっちゃったのかな。」
「もしかしたら、病気になったのかも。」
「お見舞いにいったほうがいいかな。」
木曜日もすぎて、とうとう金曜日になりましたが、おじさんは来ませんでした。
土曜日になりました。おじさんのことが心配なので、みんなでおじさんの家を見に行きました。
おじさんの家は、しんとしていて、だれもいないようです。
「うでふりおじさん、どうしたんだろう。」
そこへ近くのおばさんが通りかかったので、おじさんのことをきいてみました。すると、おばさんはこう言いました。
「あした、もう一度いらっしゃい。きっと、おじさんに会えるわよ。」
次の日、みんなでおじさんの家を見に行くと、おじさんが縁側でお茶を飲んでいました。そして、みんなをみつけると、
「よく来たね。中へおあがり。」
と言いました。
家の中へ入ると、おじさんの奥さんがお茶をいれてくれました。
「みんな、おじさんの様子を見に来てくれたんですってね。」
女の子は「だって、おじさんがずっと神社に来なかったから。」と言いました。
男の子は「病気だったんですか?」と訊きました。
おじさんは言いました。「病気じゃないよ。ずっと、温泉に行っていたんだ。」
みんな、ほっとして、なあんだと言いました。
それを聞いておじさんが言いました。
「心配させてしまって、悪かったね。でも、君たちが気にかけてくれて、とてもうれしいよ。」
そして、お菓子の箱を取り出してふたを開けました。
「これは君たちへのお土産だ。さあ、食べておくれ。」
誰もが初めて見るお菓子でした。ゆでた栗をつぶして、栗の形に固めてあります。おいしい、おいしい、と言いながらみんなで食べました。
月曜日になりました。
畑の間の道を、うでふりおじさんが歩いてくるのが見えます。おじさんは、きっかり七時四十分に神社の前に来ました。
「おはよう。今日も一日、元気にいこう!」
「はい!」
こどもたちは大きな声で答えました。
(おしまい)
見出し画像は自作。本文中のイラスト(イチョウの葉)は「いらすとや」さんのものを使用。