最近の徒然(3)
2020年、僕たちは過去最高の売上に沸いていた。
あの時から人員は大きく変わっていない。当時と同じメンバーで2.5倍の売上をあげることができたのは僕たちの大きな自信になっていた。
「もうダメかもしれない」そんな言葉を聞いたのはその年の3月。コロナの足音が聞こえ始めた頃だった。街中の飲食店や娯楽施設からお客様が消え、多くの商店が資金難に陥っていた。
お金の苦労はヒトゴトとは思えない。
どれだけ苦しいか、どれだけ怖いか、身に沁みている。
なんとか力になれないか、店長達と話し合った。
そこでこんな意見が1人の店長から出てきた。
「僕らクルマを値引きして売りますよね?その値引き分を現金ではなく『お買い物券』として配ったらどうでしょう?お買い物券は当社で換金できるんです!」
簡単に言うと、値引き分のお金の使い道を、地域のお店でしか使えないように縛る、という事だ。
うまく行くかどうかは分からなかったが、それ以外に地域の仲間を助ける方法が思い浮かばなかったので、清水の舞台から飛び降りる覚悟でやってみた。
「地域振興券」と銘打って展開したお買い物券制度は、加盟店が増えない、お客様に現金で値引きしろ、と言われる…前途多難な滑り出しだったけど、うまく軌道に乗り、今では加盟店1750店舗、発行総額3億円を超えるまでの規模になっている。
正直、売上は減るだろうと思っていた。お客さんのお金の使い道を縛るというのは、お客さんにとって経済的合理性に反するから。
でも予想に反して、クルマがめちゃくちゃ売れた。受注台数は年間のマーケット比で150%にも達した。
その時、僕たちは「共感消費」というものを肌感として初めて知った。
同じような奇跡は他の場所でも起こっていた。
梅田中崎町の居酒屋てつたろう。
店主の柳川さんはこんなツイートをした。
「今、みんなしんどいよね。私も銀行に融資を断られてボロボロです。でもこういう時だから頑張ろう。てつたろうに食べにおいで。無料でいい。ただ暖かいご飯を食べて、元気になって帰って欲しい。居場所を作るのが私の仕事なんだから。」
後で聞くと柳川さんはこう仰っていた。
「銀行に融資を断られた時、『もうダメだ、死のう』と思いました。
Xデーが2ヶ月後に迫る中、ふと思い出したんです。
僕は兄貴を自殺で亡くしてるんですが、兄みたいな人を作り出さない世の中をつくることが夢でした。その夢を思い出したんです。
最後、少しの間だけでも、なりたい自分になって死のうと思いました。」
結局、柳川さんは自殺せずに済みました。
何故なら投稿を見たたくさんの人たちが、
「このお店を潰しちゃいけない!」とお店の応援団になったから。
ある人はお客さんを連れてきて、
また別の人はWEB居酒屋を企画してくれた。
しまいには【イーデリ】※という、ビジネスモデルを考えて来る応援者まで現れた。これは大好きな仲間の市橋くんの仕事なのだが、その話はまた今度。
※イーデリは1ヶ月分のバウチャーを前払いで購入し、使われなかった場合は余った分がホームレスの食事支援になる仕組み。コロナ禍、てつたろうは一貫してガラガラだったけど、イーデリのおかげでちゃんと売上が上がっていた。
柳川さんは今、イーデリの仕組みを使って企業にとって、継続的支援が最も難しいとされる、ホームレス支援を行っている。
この話を聴いて、僕は、今まで薄々感じてきた罪悪感をはっきり言語化することができた。
僕は企業理念やビジョンを、人を動かす目的の為だけに利用している。
その証拠に、僕は、動物の殺処分のニュースを見ても、子供の貧困のニュースを見ても、老老介護のニュースを見ても、強く心を動かされる。
正直、その気持ちは人間の移動の自由と安心、という事業の目的を上回る気持ちだ。
でも、そういう問題は、多分儲からないから「誰かがやるだろう」と、思っている。
少子高齢化で税の担い手が減って行く中、目の前の問題を解決するのは国や自治体じゃないと思う。地元の企業や、個人がなんとかしないといけない。特に企業は雇用と納税してればいい、なんて時代は既に終わっている。
「義を見てせざるは勇なきなり。」小学生の僕が、ことわざ4コマ辞典で1番好きだった言葉が背中を押した。
そんなきっかけで、地域の仲間と一緒に地域通貨「ファン」の企画を始めた。
つづく。