ほめるを深める(2)
前回は
「ほめる」立場が子どもへの希望をもつことの重要性と、「ほめる」場面の設定について述べました。
子の将来の姿を一緒に考え、願いや希望を具体的に持つ、そして頑張る場面を設定し、ほめる場面が日常的にあるところまで準備できれば、次の段階に進むことができる、と結びました。
今回は、「具体的にほめる」ことの大切さと、「ほめる」ことに加えて添える一言の有効性について考えていきたいと思います。
2.「具体的にほめる」ことの大切さ、
「ほめる」ことに加えて添える一言の有効性
ほめられた経験
「サトシくんは、相対音感がいいね。
どんな曲でも、ドレミファの音階で分かるんだね。すごいねえ。
サトシくんの相対音感があれば、いろいろな曲を楽器で演奏出来たり、鍛えれば絶対音感までもつことができるようになったりするよ!」
これは、私が小学校4年生のころ音楽の先生にほめられた一言です。
私は子どもの頃から、人からあまりほめられた記憶が残っていません。
忘れているだけかもしれませんが、自分自身努力したり、人に負けないよ
うに頑張ったりする子どもではなかったと思います。
もしかしたら親や先生はいっぱいほめてくれていたのかもしれませんが、はっきりほめられて嬉しかったことを覚えているのはこの音楽の先生からほめられた一言だけ、といってもよいかもしれません。
私はこの一言が嬉しくて、中学校でギターを弾けるようにし、高校・大学と音楽サークルに入ったり、バンドを組んでライブをしたりしました。
あまり上達はしませんでしたが、今でもほめられたその時の授業の様子、先生の笑顔、自分の「やった!嬉しい!」気持ちをしっかり思い出すことができ、その後の音楽に対する自分なりの自信につながったと感じています。
今でも音楽が好きなのはその先生の一言が大きいと感じます。
この私のほんの一例からも、「ほめる」ことの大切さ、場合によってはその個人の一生の宝物になることもあることが分かります。
分析してみる
私のほめられた一言を取り上げ、これを細かく分析してみたいと思います。
「サトシくんは、相対音感がいいね。どんな曲でも、ドレミファの音階
で分かるんだね。すごいねえ。」
小学校4年の時の音楽の授業の時、学習していた歌を3曲ほどドレミファの階名で歌ったところ、先生が注目してくれて、ほめてくれました。
その時嬉しかったことの一つとして、「よくできました。」の一言だけではなく、「相対音感がいい。どの曲も階名が分かる。」といった具体的なほめかたをしてくださったことです。おまけに「すごい」の一言もいただけました。
あまり人前でほめられたことのなかった私は、顔が真っ赤になるほど嬉しかったです。
実は私自身、ひそかに音階・音程が瞬時に分かることについて自信を持っていたこともあって、「ほめられた嬉しさで身体がポカポカ暖かくなったこと」をはっきりと覚えています。
自分でも自信を持っていたことについて、友達の前で具体的にほめてくださったことを今でも感謝しています。
「サトシくんの相対音感があれば、いろいろな曲を楽器で演奏出来たり、鍛えれば絶対音感までもつことができるようになったりするよ!」
先生の言葉を完全に再現はできませんが、この意味だったことは確かです。具体的にほめていただいた後のこの一言の付け加えも、自分にとっては大きかったです。
人生を変えた!とまではいかないまでも、後にギターを独学で習得し、音楽サークルに入って、バンド活動に参加しライブにも出ることができました。
何より自分の相対音感を活かした曲のコピーには絶対の自信がありました。そういう意味で、ほめられた後に付け加えられた先生の一言は、私には「効いた一言」だったのです。
先生の側では、私に対して強く意識してほめてくださったのではなかったかもしれませんが、私には嬉しい意味で刺さった一言になりました。
これには後日談があります。私が3校目に赴任した校長先生が、この音楽教師の方でした。
食事をした際、このことを校長先生(当時の音楽の先生)にお話ししたところ、びっくりされながら、
「正直、サトシくんにそう言ってほめたことは覚えていないけれど、音楽が上手だったことはよく覚えていますよ。」といって喜んでくださいました。思った通りの反応で、思いを伝えることができてラッキーでした。
全ての場面で、子どものがんばりに対して具体的にほめたり、一言を付け加えたりはできないかもしれません。
しかし親自身にその分野での知識や経験があり強い思いがあれば、意識しなくても場面に応じてタイムリーな一言をかけてやれ、そのことが子どもの自信につながっていくことがあるように思います。
完全な刺さった一言でなくても、できるだけ細かく良いところを具体的にほめたあとの、親自身の信念や愛情の強さのこもったものであれば、子どもは本当に嬉しく思い、もっと頑張ろうという気持ちになることだろうな、と想像します。
勉強や習い事の練習や結果で具体的にほめ、一言付け加える例
○書いた字の丁寧さがいいね。相手にもその丁寧さがよく伝わるよ。丁寧な字にはその人柄がでるんだよ。これからも丁寧に書こうね。
○はっきりした声の音読で、読んだ物語のあらすじがよく分かるよ。聞く方も楽しいな。画面が思い浮かんできたよ。
○テストではよく頑張ったね。時間内によく答えを書けたね。間違っているところは、正解したところよりも大事だよ。テストは結果や点数よりも、間違っていたところを繰り返し練習することが、この先一番ためになるんだよ。間違いは、宝物なんだよ。
○基本の練習よくがんばっているね。だんだんと上手になっているよ。
上手な人は基本の練習の繰り返し、そしてそれをずっと続けることができる人なんだよ。今の態度を忘れず続けていこうね。絶対上達するよ。
○結果に対して:よく頑張ったね。この大会に向けて真剣に取り組んできたことが一番素晴らしい。自信を持とうね。大会では、人に勝つより大事なことがある。それは、この大会に向けて精一杯練習してきた自分を、自分でほめてあげること。いつでも他人との勝負ではなく、自分との勝負だよ。など
具体的にほめるところを見つける目とそれを伝える言葉の力、そして親の持つ人間としての信念や子どもに伝えたいメッセージを言葉にする力を、子どもと一緒に成長しながら学んでいきましょう。
次回は、
3.「ほめられて」育った子の「自己肯定感」向上と親子関係について
考えていきます。