なぜおっさんはチェックシャツを着るのか、聞いてみた。
ー なんで、おっさんはみんな、チェックシャツを着るんですかね?
少し唐突かなと思いながらも、僕は思い切って聞いてみた。
ー「なんで」って聞かれても、ワシかてしらんがな
機嫌が悪いというより、呆れた感じの答えが帰ってきた。眼の前には見た目50歳前後の男性。髪は薄く、体型と着こなしが崩れていてスポーティとはとても呼べない肉付をしている。知らない人にいきなり「おいくつですか?」なんて聞けるわけもないので、実際の年齢はわからない。けどまあ「おっさん」か「おっちゃん」に分類することに、多くの人は躊躇しないと思う。
道ですれ違ったおっさんの服を見て、ふと感じた疑問を直接ぶつけてみた。そんな状況だった。
ー 正確に数えたわけではないですが、やっぱりチェックのシャツをきているおっさんって多い気がします。あ、別にチェック柄が嫌いとかそういうことじゃないですよ?テンプレというかステレオタイプというか。なぜ、そのチョイスなんだろうって疑問が湧いたんです。
おっさんはシャツのシワを伸ばすような素振りをしていた。僕の視線を感じて、やや怪訝そうな表情を浮かべている。
ー まあ、そない言われてみればたしかに、チェックシャツ率は高い気がするなぁ。チェックの柄自体に、何かおっさんを引きつける力があるかもしれへんな。あまり考えたことなかったけど・・・
最初はそっけない返事に感じたが、なにやら考え込んでいる様子。僕の疑問を解くヒントが出てきそうな気がする。
ー 「引きつける力」ですか、なるほど。嗜好にマッチするんですかねえ。
ー まあ、それもあるやろね。あとは、昔のブームやな。
ー ブーム?なんですかそれ。あー何でしたっけ。沖縄っぽいバンドですか?
ー ちゃうちゃう。「流行」のことやブームいわんか?今の子は。一昔前、チェック柄が流行ったからな。ワシもその頃の生まれやで?
あ、そういうことか。僕はなんとなく答えを見つけた気がした。服のサイズ感がイマイチに見えるのは、おっさんの体型のゆるみだけではないようだ。よく見ると確かにシャツ自体の腕周りも太く採られていて、それに合わせて脇に余裕があり寸胴に見えてしまう。一言でいえば、服のデザインが古いのだ。
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ー でもな、これはこれでワシ、嬉しいんや。
その一言で僕はハッとなった。自分の先入観に気がついたからだ。柄じゃないんだ…。「シャツが」大切にしているのは…
ー 捨てたりせずに、ずーっとワシのこと着てくれる。そんなおっさんが愛おしんいや。いや、おっさんいうのは間違いや。ワシと出会ったときは青年やったからな。
目のないシャツにできるのかどうかはわからないけど、チェック柄のシャツは遠くを見つめるようにして、そう言った。
そうだ。そうなんだ。彼らは文字通り、強い「愛着」という絆で結ばれているんだ。けっしてチェックだから選んでいるわけじゃない。見た目なんて関係ないんだ。僕はこれまで間違った認識をしたまま生きてきたことを、少し恥ずかしく思った。
ー 失礼なこと言ってすみません。チェック柄素敵だと思います。必ずしもおっさんが「チェック柄を好きだというわけではない」ということがわかりました。ありがとうございます。
ー いやいや、ええねん。まあ、確かにそない思われてもしゃあないわな。
少し怒られるかなと思っていたのだけど、茶色のチェックシャツは怒るどころか、本当に気にしていないふうだった。
着主であるこのおっさんの、食生活や運動不足についていくつか愚痴を聞かされたあと、僕はお礼を言ってチェックシャツと別れた。なんだか、少し晴れやかな気分になった。
よし、帰ったらユニクロの新作をチェックしよう
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