都市伝説 メリーさんの電話。
私の娘が大事にしている人形があった。
一歳の誕生日にプレゼントで買ってあげたものだ。
娘はこの人形に「メリーさん」と名前をつけてとても可愛がっていた。
一緒にお出かけをして、一緒にお風呂に入り、一緒にベッドで寝て。
しかし最近、私には気になる事があった。
夜になると何やら動く人の気配がする。さらには朝になると娘の隣で寝ていたはずの「メリーさん」が違う場所にいる。そして、メリーさんから酒の匂いがするのだ。
そんなある日私は見てしまったのだ。
飲み過ぎた私が床に付いているとガサゴソガサゴソと音がする。
ふと音のする方を見ると。
冷蔵庫を開けて私のビールに手を出すメリーさんを。
酔っていたがあれは幻では無かった。
どうりで最近私のビールの減る量が早かった筈だ。
この人形は危険だ。一刻も早く処分しなければ…。
そう思った私は、娘には内緒でこのメリーさんをゴミと一緒に捨てた。
これで平和な日常が戻ってくる。もう私のビールも取られる事は無い。
私はホッとしていた。
しかし、この時の私は気付いていなかった。
これが悪夢の始まりだったことに…。
翌日、宿に電話がかかってきた。
プルルル。プルルル。プルルル。ガチャッ。
私「はい、お電話ありがとうございます。おおぎ荘でございます。」
「私、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの。今からあなたのところへ行くわね。」
私「何ですか?イタズラ電話ですか?もうこんなイタズラしないでくださいね!」
ガチャッ!
とんだ悪質なイタズラだ。どこの迷惑系YouTuberの仕業だ。
すると私のスマホにLINEが届いた。差し出し人の名前は「メリーさん」。
こんな知り合いはいない。恐る恐るLINEを開いて添付してある写真を見た。
ん?これは昨日メリーさんを捨てたゴミ捨て場では無いか?
私は一瞬で理解した。
あのメリーさんだ!メリーさんが捨てた事に怒っている!
するとまた宿の電話がなった。
「私、メリーさん。理解した?今、あなたのところへ向かっているから。ちなみにあなたが寝ている間にあなたのLINEのQRコード読みとっていたから。フフフフフ。」
私のLINEにまたもや写真が届いた。
見た事のある景色だ。メリーさんは確実に向かってきている。
車で。
ヤバい!これはヤバい!彼女は捨てた事に怒っている!確実に私は呪われてしまう!下手したら殺されてしまう!
私はパニックに陥った。
するとまた宿の電話が鳴った。
「私、メリーさん。少し遅くなるかもしれない。」ガチャッ。
電話の向こうではガヤガヤ音がしていて聞き取りづらかったが遅れるとの電話だった。
そしてまたもや写真が届いた。
何てこった!
パチンコしてやがる!海物語に興じてやがる!
メリーさんがマリンちゃんと戯れてやがる!
私は少しメリーさんに親近感が湧いてきた。
30分後、またもや電話が鳴った。
「私メリーさん。クソッ!今から店を出る。もうお前を呪う!」
またもや写真が届いた。
ヤバい!どうやらパチンコに負けてイラだっている!
完全に八つ当たりモードに入っている。
ヤバい!ヤバい!ヤバい!
するとまたもや写真が届いた。
すぐさま電話が鳴った。
「私メリーさん。これどっち?」
私「あっ、これ右ですね!」
「私メリーさん。ありがとう。」ガチャッ。
私は思わず道案内をしてしまった。
ピコ〜ン
LINEでまたもや写真が届いた。
ヤバい!!!ヤバい!!!メリーさんは確実に近付いてきている!!!
ドキドキしているとまたもや電話が鳴った。
「私メリーさん。この道でいい?」
私「あっ、大丈夫です。そのままずっと真っ直ぐ行ってください。」
「私メリーさん。了解!」
またもや思わず道案内をした。どうやらメリーさんに私の人格も奪われてしまったようだ。頭では逃げ出したくても口では道案内をしている。
5分後またもや写真が届いた。
またもや電話が鳴った。
「私メリーさん。今ここ。真っ直ぐでいい?」
私「あっ、大丈夫です。真っ直ぐ行ってください。真っ直ぐ行ったら左手側にちょっと珍しいお風呂があるんですよ。」
「私メリーさん。何それ、ちょっと気になる。」ガチャッ。
2分後にまたもや写真が届いた。
すぐに電話が鳴った。
「私メリーさん。今、川風呂。これ?珍しいお風呂って?」
私「そうなんですよ。日本一恥ずかしい露天風呂って言われてて芸能人の方とかもたまに取材に来るんですよ!僕もここで勝俣州和さんとかはるな愛さんとか会って握手してもらったんですよー!」
「私メリーさん。うわーマジで?私もはるな愛ちゃん見たかったしー!いいなー!」
私「ホント綺麗でしたよ!あっ、もうそのまま道なりに行ってください。そしたら着きますから。」
「私メリーさん。サンクス!」ガチャッ。
もうメリーさんに会いたくなってきた。
するとまたもや写真が届いた。
電話が鳴った。
「私メリーさん。こっち?」
私「いやそっち違う道ですよー!そっち行くと反対方向ですよ!」
「私メリーさん。ウソッ!?さっき真っ直ぐって言ったじゃん!ちょっとどうすればいいの?」
私「そのまま真っ直ぐ行ってどこかでUターンして戻ってください。」
「私メリーさん。は…く…ってよ。ま…ぐ…じゃ…」
私「メリーさん!携帯キャリア何ですか?そこあたりから電波悪くなるんですよ!」
「わ…リーさん。ら…る…」 …ツーツーツー…。
電話が途切れてしまった。
するとまたもや写真が届いた。
電話がかかってきた。
「私、楽天モバイル。ちょっとここどこよ。」
私「あー、それ立岩水源入り口ですね。そこのお水めっちゃ美味しいですよ。」
「私、メリーさん。ちょっと汲んでいく。」
私「そのまま引き返してさっきの二手に別れるところを左に行ってください。」
「私メリーさん。恩に着る。」
10分後、またもや写真が届いた。
そして電話がかかってきた。
「私メリーさん。今ここまで戻ってきた。こっち?」
私「こっちです。そのまま行ってください。」
「私メリーさん。呪ってやる。フフフフフ。」ガチャッ。
忘れていた。メリーさんは捨てた私を呪いに来ていたのだった。恐怖が蘇る。
またもや写真が届いた。
来ている。間違いなく来ている。
しかし電話はかかって来ない。もう圏外に入ったのだろう。
またもや写真が届いた。
私は呆然とした。
メリーさん…そっちじゃない!!!
そっちに行ってもあるのは山だけだ !もしくはウスネギリって言う昔、隠れキリシタンが殺害された場所だけだ!
どこへ行くんだメリーさん。
しばらくして電話がかかってきた。先程の電話とは違う電話番号からだ。
電話に出ると明るい声が聞こえた。
「私、私!近くのおばちゃんたい。何か道に迷ったとかでメリーさんっちゅう人が電話してくれって言ってきて今おおぎ荘に電話したところったい。ちょっとメリーさんに変わるね。」
「グスッ。グスッ。私…グスッ。メリーさん…グスっ。今ここどこ?グスッ。行っても行っても山の中。電話も圏外だし。グスッ。」
私「メリーさん、お車は何ですか?カーナビありますか?あるなら『おおぎ荘』て入力したら案内してくれますよ!」
「私ダイハツタント。分かった。グスッ。お電話お返しします。ありがとうございます。」
メリーさんは丁重におばちゃんに電話を返している。どうやら礼儀正しい子のようだ。
私はこのドジっ子でツンデレなメリーさんに恋をしてしまったのかもしれない。
一刻も早く会いたくなってしまった。
またもや写真が届いた。
すぐそばだ。あと100メートルほどだ。
しかしまだ着かない。
また写真が届いた。
私は伝えるのを忘れていた。
カーナビでは『おおぎ荘』は少し誤差があって『おおぎ荘』と書いてあるところには畑しかない。メリーさんは少し行き過ぎてしまっている。
電話が鳴った。
「私メリーさん着いたわ。」
私「メリーさん違う違う違う!そこじゃないの!戻って!!!」
「私メリーさん。ウソッ!!!カーナビでここになってるよ!!!」
私「ちょっとカーナビだと誤差あるの!」
メリーさん「はよ言えやっ!!!」ガチャッ!
写真が届いた。
もう間違いない。メリーさんは着いたんだ。
私はいても立ってもいられず外に飛び出した。
捨てたりしてごめんよ。俺が悪かった。早く会いたい。
しかしメリーさんは現れない。どうしたメリー。
するとまたもやLINEで写真が届いた。
私メリーさん今あなたの後ろにいるの。
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