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この手はなんの為についている……?(賭博黙示録カイジ第57話より抜粋)

どうも専務佐藤でございます。

「ブログ読んでますよ。面白かった!」

先日、お客様からこうおっしゃってくださいました。

大なり小なり、ご反応していただきますのは嬉しいかぎりです。

ただどうにも遅筆でして。

あまり期待しないでください。特に今回はあまりにもニッチで。



7,8年前くらいですかね。3人組でお泊まりになられた60代の男性のお客様からこう尋ねられました。

「お兄ちゃん、麻雀したいんだけど卓と牌ある?」

私「自動卓はありませんので手積みになりますが、ございますよ。ご用意いたしましょうか?」

お客様「手積みで構わんよ。ありがとう。」

そうして倉庫に眠っていた麻雀卓と牌を引っ張り出し、きれいに磨き上げ、お食事の間に麻雀の準備をしておりました。

実は私も麻雀はたしなんでおりまして…。

(注)もうここから先は麻雀してる人間しか分からない言葉がいっぱい出てきます。悪しからず。

せっかくなのでお客様がスッとゲームに入れるように山までは積んでおこうと用意しておりました。

お客様は3人なので三人麻雀用に萬子の二萬~八萬を外して山を用意しました。

点棒も35000点ずつ振り分けてご用意しておりました。

ここまでセットしたなら大丈夫。何も文句は言われない。そう確信して通常業務に戻りました。

その3人組のお客様がお食事を終え、お部屋にお戻りになり10分後ぐらいでしょうか?そのお客様のお部屋から内線のお電話がかかってきました。


ざわ……


お客様「もしもし。あの…この卓を用意した人いますか?」

私「はい、私ですが…(あれ、何かしくじったか?)」

お客様「やっぱり兄ちゃんか。いやホントは4人で麻雀したかったのよ。これ並べたんなら兄ちゃん打てるんやろ?仕事終わってからでいいから参加してくれんか?」

ざわ…ざわ…

これは。


             圧 倒 的 勧 誘!!!


なんてこった。今、俺は麻雀に誘われている。

私は返答に迷いました。

なぜなら身重の妻が私の帰りを待っている。初めての妊娠ということもあり不安だろう。

しかし3秒後には…



悪魔的な誘いだぜっ!


私「かしこまりました。あとでお伺いします。」

電話を切った時点で私はもう福本先生が描いたんじゃないかってくらいに鼻は高くとんがってた…気がする。

なんだったら、もう藤原竜也みたいな口調になってたかもしれない。

翌日の朝食の準備をするため、冷蔵庫のなかの卵を引っ張り出す時に

「キンキンに冷えてやがる!」

とかほざいた気がする。

私はそそくさと片付け、朝食の準備も済ませ一時間後くらいにお客様の待つ客室へと向かった。

客室の名前は「さくら」の間。

しかし私には「さくら」の間が「エスポワール号」にしか見えなかった。

ざわ…ざわ……ざわ……

扉をノックする。

私「失礼いたします。」

お客様「鍵開いてるから入って!」

エスポワールの扉を開けるとすでに3人で麻雀に興じていた。

お客様「これ今、南3だからもう終わるからちょっと待ってて。」

私「かしこまりました。」

私は、後ろからお客様の麻雀を見学させてもらった。


驚いた。

早い!早すぎる!

まだ上家は切っていないのに下家がツモっている。さらにその下家もツモっている。

考えるスピードも与えないのか?

そして小手返しの早さ!

今入れ替えたのか?それともツモ切ったのか?どっちだ。

そこで気付いた。

俺は仲間内で麻雀することはあっても、初対面の人と麻雀したことは無かった。この場に来たのは失敗したのかもしれない。


そしてある疑念が生まれた。


「もしかしたらこれは帝愛グループの罠なのではないか?」


明日、高所鉄骨渡りをしている自分が頭に浮かんだ。

こうなると目の前の3人のお客様がもう利根川、黒月、そして班長大槻にしか見えなくなってきた。

ざわざわざわざわざわ……ざわざわざわざわざわ


圧倒的後悔!!!

私は本当に後悔し始めていた。すると。

利根川「兄ちゃん終わったぞ。さ、打とう。」

私「ひゃ、ひゃい!」

さっきまでの藤原竜也が温水洋一みたいになった。

もう後には引けない。

こうなったら場を壊さないように徹する。そう心に決めた。

とにかく明るく朗らかに。

班長大槻「兄ちゃんも明日早いだろうから半チャン2回にしとこうか。」

私「いや、大丈夫です。お客様に合わせます。( ^o^)ノ!」




……俺は…馬鹿じゃないのか。

何で思ってもないことを口にしちゃうのか。半チャン2回ならすぐ終わるのに。こんなこと言ったらエンドレスになるぞ。

もう。自分の社交性が憎い。しかし思わぬ助け船が。

利根川「ならとりあえず半チャン2回で。」


助かった…。利根川ナイス!


そうこうしてルールの確認をして第一戦が始まった。


私は場の雰囲気を壊さないようにしゃべりかけてみた。

私「皆さん、仲がよろしいですよね。よくご一緒にご旅行されるんですか?」

利根川「年一回、集まってこうやって旅行してるんだよ。あっ、兄ちゃんそのリャンピン、ロン。8000点。」

私「あっ、はい。」

私「皆さん、ご同僚さんとかですか?」

黒月「いや大学の同級生。大学の時からの遊び仲間。あっ。兄ちゃんそのウーソウ、ロン12000点。」

私「あっ、はい。」

私「麻雀もよくされるんですか?」

班長大槻「学生のときは毎日していたけどね。こうやって旅行とかで集まった時だけだね。あっ兄ちゃんその【東】ロン。12000点。」

私「あっ、はい。あの…すいません。ハコりました…」


私は気付いたらものの20分ほどで箱を割っていた。ふっ。流れが出来上がってやがる。いきなりだぜ。


恐るべし帝愛グループ。

あれ?どこで計算が狂った?いや狂っているのは自分自身なのか?

パニックに陥った私は目の前の3人がお客様なのか、リンスインシャンプーなのかさえも区別がつかなくなっていた。

しかし帝愛グループはまだ許してくれない。

利根川「じゃあラス半行こうか。」

私はこの半チャンで終わるという安堵感。しかしこのままでは終われない。という反骨心を燃やしながら第二戦に臨んだ。ちょっと泣いてた。

迎えた東3局。親は私。

神が微笑んだ。

配牌を開けると、思わず息を飲んだ。

上がってください!と言わんばかりの珠玉の14枚。しかも高得点が狙える。

【白】が2枚、【中】が2枚、【發】が2枚。

キター!!!大三元が狙える。小三元でも満貫確定だ。

もらった。これはもらった。これはチャンス。役満でも出したらみんなビックリするだろう。

もう頭のなかではヒーローインタビューの文言を用意していた。

「配牌に恵まれました。」

利根川達から質問されたらこう言おう!

そう考えていた私は多分ニヤニヤしていた。

そうこうしているうちに対面から【中】がでてきた。

おっと危ない。見逃すところだったぜ。

私「ポン!」

今は集中しなければいけない。

しかしいいのか?この場で役満など出したら雰囲気をぶち壊してしまうのでないか?いやそんな事言ってもしょうがない。

そんなモヤモヤを抱えていると下家から【發】が出てきた。

私「ポン!」

思わず鳴いてしまった。

余った牌を河に捨てる。

もうここまで来たのならしょうがない。狙うしかない。大三元。

黒月「おいおい、まさか白持ってるんじゃないのかい?」

もうバレバレだ。

いや仕方ない。こうなったら自力で持ってくるしかない。

ふと自分の手牌に目を落とした。白が2枚。そして未完成の面子候補が6枚。


…ん?

あれ。何で8枚あるの?

麻雀とは14枚の牌を組み合わせて上がるゲームだ。

鳴いて【中】と【發】がさらして6枚。

そして手元の手牌が8枚。

ツモ番が回ってきて、1枚ツモって15枚。



俺は横に置いてあるコーヒーを口に含んだ。

そしてもう一度、落ち着いて手牌を確認してみた。

もう間違い無い。



多牌してやがる。




う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!


俺の心の中の藤原竜也がひざまずいて泣き喚いている。

な゛ん゛で だ よ゛ーーーーーーーーーーー!!!
と゛お゛し゛て゛だ よ゛ーーーーーーーー!!!


天国から地獄とはまさにこの事だ。

多牌は見つかったら即チョンボ。

しかも自分は親だ。もれなく子の3人に4000点ずつ支払わなければならない。

妻のお腹のなかにいる赤ちゃんよりも先にこのおっさん達のお父さんになっている。

40ほども年上のこの3人の子どもにチョンボという名のプレゼントを渡さなければいけない。

自分の点数を確認してみた。

残りは11000点ほど。


圧倒的点数不足!!!


思わず一番左に並べてあった一筒を左手で力強く握りしめた。

昔、恩師に教えていただいた言葉。

『何事も強く念じれば叶う!』『やればできる!』

私は強く念じた。

(左手のなかの一筒よ!消えろ!)


いや当たり前だが、消える訳なく。

そのまま左手のなかで隠して続行した。いけない事と分かりつつも。

大槻班長「兄ちゃん、役満ツモっちゃえよ!」

私「どうせならツモりたいですね(^_−)−☆」

(いや、どっちかと言うとこの左手のなかの一筒をツブしたい。)

もう誰か上がってくれ!なるべく安手で、ノミ手で上がってくれ!

そのとき、利根川が口を開いた。

利根川「実はさ…。」

私(やばい、バレた?)

利根川「去年までもう一人、仲間がいてさ。こうやって4人で旅行してたのよ。けど病気で亡くなって今年は3人で旅行になってしまった。4人でよく麻雀したもんな。」

私「…そうだったんですね。それは…寂しいですね。」

私は左手のなかの一筒をどうしようか悩んでいた。

利根川「まあ60越えたらいろいろ病気も出てくるしな。俺らもいつどうなるか分からないしな。」

私「そんな寂しい事言わないでくださいよ。」

私は左手のなかの一筒をどうしようかまだ悩んでいた。

利根川「ここは温泉も良いし静かだし、また来るな。」

私「ありがとうございます!その時は是非またこんな感じでお誘いください。」

私は左手のなかの一筒をどうしようかずっと悩んでいた。

利根川「その時は兄ちゃんもうちょっと強くなっとけよ!ハッハッハッ!」

私「いやー、勘弁してくださいよー!ハッハッハッ!」

私は左手のなかの一筒を隠し通す事に決めた。

その後、誰も上がる事なくほどなくして流局。

利根川「【白】持って来ちゃったから行けなくなっちゃったよ!」

私「えー、出してくださいよー!」

…いや出されてもどうしようも無かった。

その後ソッと左手のなかの一筒は混ぜるふりして放流した。

ホッとした。心からホッとした。

ホッとしすぎて次の局で放銃してまたハコった。

その後、丁重に御礼を言いお客様のお部屋をあとにした。

翌朝、朝食の時に改めて御礼に行くと

「兄ちゃん、昨日ありがとうな。」

そして一言。

ざわざわざわざわざわざわ

「多牌、分かってたよwww。」

「【中】鳴いたあと切ってなかったもんwww。」



…ちょっと、今から高所鉄骨渡りしてきます。

ではでは。

※7〜8年前の事ですのでうろ覚えの所も多くかなーり脚色しております。ですがお客様と麻雀に興じた事、多牌した事、隠そうとした事はノンフィクションです。
その後、皆様またいらっしゃってくださいました。
利根川とか言っちゃってごめんなさい。そこはもうご愛嬌って事で。










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