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13時10分の虹〜GACKTツアーオーディションを終えて〜

2019年10月22日。東京砂漠は快晴。
いつも通り、楽器を担いで自宅を出発した。

スタジオに到着したのは午後1時を回ったところ。
指定された時間までは少し余裕があった。

それにしても、秋晴れが本当に気持ち良い。

これまで生きてきて一番じゃないかなってくらい、晴れやかな青空。
どこかに虹が架かっていないか、高層ビルや高架の隙間を探した。

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この日はGACKT「KHAOS」ツアーメンバーオーディション。

こういったオーディションは、ミュージシャンという職業、そして音楽業界の性質もあって、資格試験や企業の入社面接のように定期的に開催されるわけではない。

個人的には、2013年に開催されたGACKT「BEST OF THE BEST」ツアーのオーディション以来。約7年ぶり、2度目のエントリーとなった。

機材片手にスタジオ入りして、オーディション会場を探した。

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バンド脱退の翌朝、かかってきた一本の電話

楽器を始めた学生の頃から、とにかくバンドに憧れて、バンドが大好きで音楽をやってきた。

バンド結成、上京、メジャーデビュー、アニメのタイアップ、という当時の「売れるバンドの王道」らしきルートを歩むも、想像していたような結果は出せなかった。バンドは好きだが続けることに未来を見出せない、そんな矛盾のなかで悩む時期が続いた。

2012年の秋、当時やっていたバンドと所属事務所から離れることを決意し、バンドメンバーやスタッフに脱退の意思を伝えた。

先のことは何も決まっていなかったが、惰性で続けることもできなかった。自分で決めたこととはいえ、そのミーティングの帰り道に味わった喪失感を今でも覚えている。


その翌朝、僕はGACKTツアーオーディションに合格したという電話を受けた。

まさに寝耳に水、急転直下。当時はバンドで活動することが全てだったし、正直、自分が合格するなんて微塵も思っていなかった。

何が起こったのか、そしてこれから何が起こるのか。当時の自分は事態を把握しきれなかったが、バンドはともかく、音楽自体はまだ続けなさいっていうメッセージとして受け取った。

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"GACKT JOB"というハードモード

バンドを辞めたという感傷に浸る間もなく、ツアーのリハーサルが始まった。

自分でこんな言い方をするのもどうかと思うけれど、自分の土俵でしか相撲を取ってこなかった田舎のバンドマンが、第一線のプロのバックバンドにいきなり放り込まれたわけである。文字通り、怒濤の日々となった。

これは後で知ったことだが、GACKT兄さんの現場、いわゆる"GACKT JOB"は、この音楽業界で1、2を争う厳しさとも云われている。

演奏などはできて当たり前。それに加え、アリーナの一番後ろの席までパフォーマンスを届けられる表現力、時には3〜4時間にも及ぶ過酷なコンサートに耐えられる肉体作り、会場に集まった大勢のファンを楽しませる話術など、バンドメンバーやバックダンサーに求められることの幅も質も、想像をはるかに超えるものだった。

「ミュージシャンが楽器を上手に弾けるのは当たり前、ダンサーがダンスを上手く踊れるのは当たり前。それ以外に何を持っているかだよ。」
GACKT兄さんがバンドメンバーやダンサーによく伝えてくれた言葉の一つだ。

常に緊張感を持って、自分で自分を律し続けるというのは本当に難しい。
僕が語るべきことではないかも知れないが、あらゆる面において、GACKT兄さん本人が誰よりも厳しいハードルをご自身に課している。口にせずとも、チームの誰もがそれをひしと感じつつ、それぞれが各々の課題に取り組む。
僕はバンドを離れて独りになったが、しっかりと背中で語ってくれる兄と、痛みまで分かち合える新しい仲間ができた。

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肉体改造から始まる激動の日々

コンサートツアー中などは毎公演もれなく、本番前に数時間の合同トレーニングが行われる。ギターや音響機材と共に、トレーニングマシンが山のように運び込まれるコンサート現場。僕は他に聞いたことがない(笑)。

僕自身、まともな運動経験は小〜中学生の頃まで習っていた剣道くらいで、筋トレに関してはほぼゼロからのスタート。日々のトレーニングはキツかったが、自分の身体の変化が目に見えてわかるのは面白かった。
長年悩まされていた坐骨神経痛を克服できたほか、食事など体調管理に関する学びも多く、正直、20代の頃より40歳を前にした現在のほうが身体の調子が良い。

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とはいえ、それ以外の演奏やパフォーマンスといった肝心な部分で、自分の力不足をとことん思い知ることとなった。

強烈なプレッシャーの中、課題は常に山積み。精神的にギリギリまで追い込まれる場面が続いた。だからといって「できない」と言うわけにはいかない。先輩や仲間に支えてもらいながら、どうにかこうにか、必死に食らいついていった。

それから7年。GACKT兄さんやファミリーの皆と、たくさんの時間をご一緒させてもらってきた。楽しかったとか、しんどかったとか、ひと言では到底語り切れるものではないけれどー

本当に、矢のように日々は過ぎ去っていった。

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オーディションという7年振りのスタート地点で感じたこと

そして今回、GACKT兄さんのデビュー20周年記念として行われる「KHAOS」ツアーのメンバーオーディションが開催された。

いつかのオーディションからちょうど7年。僕も再び、いち候補者として参加することを決めた。

言ってしまえば、必死に闘ってきた「自分のポジション」を失いかけているというのに、何というか、オーディションというスタート地点に帰ってきたことへの懐かしさや感慨深さがあった。

何より、7年ぶりの再挑戦は妙にワクワクした。

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会場の楽屋には一次選考を通過したミュージシャンが集まっていて、顔見知りをチラホラ見かけつつも、独特の緊張感が漂っていた。楽屋で出番を待ちながら、前回はどんな心境で臨んでたんだっけって、いつかの自分を探した。

オーディションは粛々と進行していった。
簡単な自己紹介や質疑応答、そして課題曲演奏による実技審査。ベーシストとドラマーはランダムにパートナーが割り当てられ、リズム隊として一緒に演奏を行う。

他の候補者の出番にも立ち合わせてもらいながら、自分の出番を待った。

演奏前に長所をアピールしてハードルを上げながらも、堂々とプレイするドラマーに感動したり。
「今日のオーディションに人生賭けてます」と、熱い気持ちを滲ませるシャイなベーシストに自分を重ねたり。
「トークは苦手ですが酒は気合入れて飲みます」と語るアラフォーもいたり(←私)。

人それぞれのプレイスタイルやサウンド、佇まい、表情、人柄。色んな人生が交錯していて、とても興味深い時間だった。

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午後3時10分をまわった頃、自分の出番がやってきた。

どんな演奏、パフォーマンスをするかは深く考えなかった。
今まで積み上げてきたものをそのまま出すだけだ。

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自分の変化・成長に気づけるという喜び

出番以外の時間は、楽屋で緊張してる若いプレイヤーに声をかけてみたり、ベーシストの僕とペアを組むドラマーと積極的にコミュニケーションを取ったりした。

また、オーディション会場にいるスタッフや関係者とも一人ひとり、笑顔で挨拶を交わした。皆、ツアーなどで苦楽を共にした人たちばかりだ。

些細な話かも知れないけど、7年前のオーディション会場にいた自分はこんなこと考えもしなかった。

この日は自分の演奏やパフォーマンス、審査に臨む心境、視界に入ってくるものなど、自分の変化に自分で気づく、そんな瞬間の連続だった。

もちろん、僕はまだまだ発展途上の身だ。それでも少しは遠くまで来れてるんだなって感じた。

そんな気づきの一つひとつは、僕にとっての誇りであり、GACKT兄さんや仲間達から受け取ったギフトであり、見守ってくれているファンと分かち合いたい幸せであり、そして誰かに繋いでゆくバトンでもあると思っている。

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13時10分、虹は架かっていた

自分の全力を尽くしても足りない、というのは本当に苦しい。

でも、自分が全力を尽くしたいと思える何かと、心から夢中になれる瞬間と、残りの人生でどれだけ出会えるのだろうか。

こうして挑戦させてもらえたこと。
今の自分を堂々と披露できたこと。
他の誰でもない、過去の自分を超えてこられたこと。

今回の結果がどうなったとしても、悔いは一切無し。
この会場に入る前、青空を見上げたときからずっとそんな気持ちだった。

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オーディションと時を同じくして「即位礼正殿の儀」が行われていた。新天皇の御即位、つまり日本の新時代の幕開けが公に宣明される日だ。

そんな儀式の最中、突然雨が上がり、大きな虹が東京を包んでいたことを後から知った。

これまで生きてきて一番じゃないかなってくらい、晴れやかな青空。
やっぱり、どこかに虹が架かってるような気がしたんだ。
 
本当に、感謝と喜びに満ちた一日だった。






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オーディション翌日、思い立って沖縄へ飛んだ。

10月末の沖縄。
少し風は強いけど、太陽は顔を出してくれていた。

波の音が聴こえる海辺の小さな宿で、僕はこの文章を書きはじめた。

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旅の終わりと始まりの真ん中で思うこと

沖縄滞在2日目。
日が落ち始めたころ、GACKT兄さんに電話した。
メッセージのやり取りはしていたけれど、直接、伝えたいことがあった。

「ほーい。どうした?元気か?」
ほんの数分、穏やかな会話だった。

笑顔で電話を切り、部屋に篭って言葉を綴り続けた。
思いは止めどなく溢れてきて、気がつくと夜が明けていた。

一つの旅の終わりと、新しい旅の始まり。
朝焼けのグラデーションを眺めながら、自分は今、そのちょうど真ん中にいるんだなって思った。

この日、兄さんからもらった言葉を僕はずっと忘れないだろう。

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沖縄に滞在している間、嬉しいニュースがもう一件届いた。

仲間のベーシスト・DAICHIくんから、今回のツアーオーディションに合格したという報告をもらったのだ。自分のことのように嬉しくて、那覇の繁華街のど真ん中で一人、ニヤニヤしたのを覚えている。

後日、東京で再会することが叶った。
ツアーリハーサルを控えた彼は、すでに闘う男の顔つきをしていた。

僕が偉そうに言えることなど何もない。
なぜなら、彼らには彼らの闘いがあるから。
でも陰ながら、心からのリスペクトとエールを贈りたい。

帰り際に自分のピックを託したことは、ちょっとカッコつけすぎたなと反省している。

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そして僕には僕の、新しい旅がすでに始まっている。
ここまでの素晴らしき旅を振り返って、今この瞬間も、自分の中からエネルギーがフツフツと湧いてきている。

今後はもう、オーディションの時のように「いつかの自分」を探している暇などない。
環境は変われど、先に書いた「自分が全力を尽くしたいと思える何か、心から夢中になれる瞬間」と出会えるように、そして、それが誰かの笑顔にも繋がるように。いつか恩返しができるように、自分のお役目を果たしていくだけだ。

それなりに年も重ねてきて、最近では「可愛いチェックのパジャマを着てクマさんにキスする写真」の撮影、そんなお役目もあったりするものだ。もちろん、萌え袖にするのもお役目のうち。外せない重要ポイントだ。

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さて、先日いよいよGACKT兄さんの「KHAOS」ツアーが開幕した。

僕もどこかの公演にお邪魔したいと思っている。もちろん、プロテイン持参で合同トレーニングから(笑)。どんなステージを観られるのか、そしてGACKT兄さんや新しいチームの皆に会えることが本当に楽しみだ。僕も自分自身をしっかりアップデートさせて再会したい。

先に「一つの旅の終わり」と書いたけど、想いが消えない限り、きっと再会できる日が来る。

これまでと、これからの巡り合わせに感謝しながら、今回はこの辺りでペンを置こうと思う。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


愛と感謝にお茶を添えて
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Sato | サト
お気持ちありがとうございます。もしよければ、そのお金で貴方がお茶でもしばいてホッコリしてもらえたら、僕もホッコリできて嬉しいです。