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フリーランス法施行(2024年11月1日)と企業に求められること

1 フリーランス法の概要

(1)2024年11月1日スタートの新しい法律

 フリーランス法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。政府は「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と呼んでいます。フリーランス法は、2023年4月28日に成立、同年5月12日に交付され、2024年11月1日から施行されます。

 フリーランス法の目的は、①フリーランスと発注事業者との間の取引の適正化②フリーランスの就業環境の整備です。取引の適正化を図るため、発注事業者に対し、フリーランスに業務委託した際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止しています。また、就業環境の整備を図るため、発注事業者に対し、フリーランスの育児介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付けています。
 特設ページやパンフレットで詳しく説明がなされていますが(※1)、本稿ではフリーランス法の全体像とポイント、そして企業に求められることを解説します。

(2)「フリーランス」とは~だれに適用される法律なのか

①フリーランスとは従業員を使用していない事業者

 フリーランス法の対象となる「フリーランス」とは、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものです(2条1項)。なお、法律上は「特定受託事業者」「特定受託業務従事者」ですが、本稿では「フリーランス」と言います。個人事業主で従業員を使用しない人だけではなく、法人でも従業員を使用しておらず他に役員がいない場合も「フリーランス」に該当します(2条2項)。
 一般的な用語では、従業員を使用している場合もフリーランスと呼びますが、この法律では「フリーランス」には該当しません。
 なお、フリーランス法の「従業員」には短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません。具体的には、「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」が「従業員」にあたります。

②発注事業者との「業務委託」取引が対象

 この法律で対象となるのは、フリーランスと発注事業者の間の「業務委託」です(2条3項)。「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいいます。そのため、例えば売買契約は対象外です。また、フリーランスの取引相手が事業者ではなく消費者の場合にはフリーランス法の対象となりません。

③従業員を使用している発注事業者が対象

 フリーランス法で主に義務を負うのは、従業員を使用する発注事業者です(2条6項)。フリーランス法では「特定業務委託事業者」ですが、本稿ではわかりやすく「発注事業者」と言います。

(3)フリーランスと取引する発注事業者の7つの義務

①書面等による取引条件の明示(3条)

 発注事業者は、フリーランスに対して業務委託をした場合、書面等により、直ちに、次の取引条件を明示することが義務づけられています。フリーランス法ではこの義務だけが従業員を使用しない事業者にも課されています。そのため、フリーランスがフリーランスに対して業務委託した場合にも書面等による取引条件の明示が求められます。
 書面等にはSNSや電子メールも含まれます。メッセージの本文に明示事項を記載する方法だけではなく、明示事項が掲載されたウェブページのURLをメッセージに記載する方法やメッセージにPDF等の電子ファイルを添付して送る方法も認められます。

<明示すべき取引条件>
「業務の内容」「報酬の額」「支払期日」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした日」「給付を受領/役務提供を受ける日」「給付を受領/役務提供を受ける場所」「(検査を行う場合)検査完了日」「(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項」

②報酬支払期日の設定・期日内の支払(4条)

 発注事業者は、発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払う義務を負います。また、発注事業者が、他の者から受けた業務委託をフリーランスに再委託する場合は、他の者から発注事業者への報酬の支払期日から起算して30日の期間内に、発注事業者からフリーランスへの報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければならないこととしています。

③禁止行為(5条)

 発注事業者は、フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、次の7つの行為をしてはならないと定められています。

・「受領拒否」
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否することです。発注の取消し、納期の延期などで納品物を受け取らない場合も受領拒否に当たります。
・「報酬の減額」
フリーランスに責任がないのに、発注時に決定した報酬を発注後に減額することです。協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、こうした減額行為が禁止されています。
・「返品」
フリーランスに責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品することです。
・「買いたたき」
発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬を不当に定めることです。通常支払われる対価とは、同種又は類似品等の市価です。
・「購入・利用強制」
フリーランスに発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険、リース等)を強制して購入、利用させることです。
・「不当な経済上の利益の提供要請」
発注事業者が自己のために、フリーランスに金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させることです。報酬の支払とは独立して行われる、協賛金などの要請が該当します。
・「不当な給付内容の変更、やり直し」
フリーランスに責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、受領した後にやり直しや追加作業を行わせる場合に、フリーランスが作業に当たって負担する費用を発注事業者が負担しないことです。

出典:内閣官房HP「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」9ページ

④募集情報の的確表示(12条)

 発注事業者は、広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならず、 内容を正確かつ最新のものに保たなければなりません。意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示することや実際に募集を行う企業と別の企業の名前で募集を行うことは虚偽表示にあたります。また、報酬額の表示が、あくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示することは誤解を生じさせる表示になると考えられます。

⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮(13条)

 発注事業者は、6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならないとされています。例えば、政府の作成したリーフレットでは「子の急病により予定していた作業時間の確保が難しくなったため、納期を短期間繰り下げたい」との申出に対して納期を変更すること、「介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したい」との申出に対して一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整することなどがあげられています。

⑥ハラスメント対策に係る体制整備(14条)

 発注事業者は、フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならないと定められています。性的な言動に関するハラスメント、妊娠、出産に関するハラスメント、優越的な地位を背景とするハラスメントによって就業環境が害されないようにするための対策が発注事業者に求められます。対策の具体的な内容は、次のように想定されています。

ⅰ ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、従業員に対してその方針を周知・啓発すること(対応例:社内報の配布、従業員に対する研修の実施)
ⅱ ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制の整備(対応例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託する)
ⅲ ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応(対応例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置)

出典:内閣官房HP「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」14ページ

 これらは、発注事業者が、雇用主として労働関係法令(男女雇用機会均等法等)に基づき講じることとされている従業員のハラスメント対策と同様の内容です。そのため、労働関係法令に基づき整備した社内の相談体制やツール等を活用することで対応も考えられます。

⑦中途解約等の事前予告・理由開示(16条)

 発注事業者は、6か月以上の業務委託をした場合、中途解除したり、更新しないこととしたりするときには、原則として30日前までに予告しなければなりません。また、予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければならないとされています。ただし、災害等でやむを得ない場合は例外的に予告義務を負いません。この規定は、一定期間継続する取引において、発注事業者からの契約の中途解除や不更新をフリーランスに予め知らせ、フリーランスが次の取引に円滑に移行できるようにすることを目的としたものです。

2  企業・業界に求められる対応

(1)尊厳ある個人として尊重すること

 フリーランス法で発注事業者となる企業にはコンプライアンスの観点から同法への迅速な対応が必要になります。
 政府の実態調査(※2)では、発注事業者と業務委託を受けるフリーランスの方の取引において、「一方的に発注が取り消された」、「発注事業者からの報酬が支払期日までに支払われなかった」、「発注事業者からハラスメントを受けた」などの取引上のトラブルが生じていることが明らかになっています。

 この背景には、一人の「個人」として業務委託を受けるフリーランスと、「組織」として業務委託を行う発注事業者との間には、交渉力やその前提となる情報収集力の格差が生じやすいことがあると考えられます。
 このような状況を改善するために新しく包括的な法律ができたことは大きな意味があります。適正な取引の実現に関する事項は公正取引員会と中小企業庁が所管し、ハラスメント防止などの就業環境の整備は厚生労働省が所管しています。内閣官房が中心となって省庁横断的に取り組む政府の姿勢も評価できます。

 近年、企業においては、ハラスメント防止など従業員の就業環境を整備することが求められています。直接雇用関係にないフリーランスに対してもその配慮を広げていくことが、このフリーランス法の眼目です。

 これらは国連の提唱する「ビジネスと人権」(※3)に合致するものであり、SDGsにおける「目標8 すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」(※4)と目指すところは同じです。ディーセント・ワークは、働きがいのある人間らしい仕事という意味です。

 いずれも日本国憲法13条で謳う「個人の尊重」が根底にあります。組織の中の従業員であっても、組織のない個人としてのフリーランスであっても個人として尊重し、一人の尊厳ある人間として接することが求められるのです。これがあらゆるハラスメントを防止するもっとも大事なポイントです。

<日本国憲法13条>
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(2)企業の枠を超えて取り組みとして広げていくこと

 フリーランス法は、法律としては発注事業者、つまり各企業に責任を課す形をとっています。しかし、広く問題を解決していくためには、企業の枠を超えてそれぞれの業界での取り組みを進めることも大切です。
 2024年9月8日、日本ペンクラブ女性作家委員会はあらゆる差別、精神・肉体・性へのいかなる暴力、いかなるハラスメントも許されるものではないと考え、根絶に取り組んでいくことを目指して「性加害のない世界を目指して」という宣言を出しました。賛同団体には一般社団法人日本ペンクラブ、公益社団法人日本文藝家協会、一般社団法人日本SF作家クラブ、日本歴史時代作家協会、出版社の編集部などが幅広く名を連ねています(※5)。

 「声なき声がかき消されない」ためには、企業の枠を越えて取り組みを進めていくことも必要であり、フリーランス法の施行によって他の業界にも広がることを期待したいと思います。

       【日本ペンクラブ女性作家委員会宣言】
         「性加害のない世界を目指して」

 私たち、文芸・ジャーナリズム・アカデミズム等の世界で表現・創作・出版活動にたずさわる者たちは、社会通念や人々の意識が大きく変わった現代において、あらゆる差別、精神・肉体・性へのいかなる暴力、いかなるハラスメントも許されるものではないと考え、根絶に取り組んでいくことを宣言します。
 宣言を実効性のあるものにするためには、日本の出版ビジネスも、人権を尊重する意識や仕組みを、国際基準を満たすレベルに引き上げることが急務と考えます。国連ビジネスと人権作業部会の報告書をはじめ、訪日調査で得られた結果や課題の解決に向け、国内人権機関設立などの可能性を見据え、日本社会が具体的な一歩を踏み出す必要があると考えます。
 そのためにも、まずは文芸・ジャーナリズム・アカデミズム等の世界が、構造的に生じうる自らの加害性にも目を向け、声なき声がかき消されない、よりよい社会を目指し、未来に手渡す努力をし続けます。

出典:一般社団法人日本ペンクラブ


※1 
公正取引委員会フリーランス法特設ページ
フリーランス法パンフレット
フリーランス・事業者間取引適正化等法リーフレット
内閣官房「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)等に係る取組について」

※2
令和3年度フリーランス実態調査結果
令和4年度フリーランス実態調査結果

※3
法務省「ビジネスと人権」

※4
国際連合広報センター「SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字」

SDGs目標8 


※5
一般社団法人日本ペンクラブ

朝日新聞「「声なき声がかき消されない、性加害のない世界を」女性作家らが宣言」(2024年9月10日)
NHK「性暴力やハラスメントのない社会を 作家らがシンポジウム 東京」(2024年9月8日)


以上


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