千代田区は日弁連のガイドラインに基づく第三者調査委員会を直ちに設置すべき-官製談合事件の真相究明のために-
千代田区では、昨年1月24日に当時の区議会議員と元職員が官製談合防止法違反容疑で逮捕されました。同日、警視庁が千代田区役所に家宅捜索、関係書類を押収しました。これは多くの区民に衝撃を与えました(※1)。
東京地裁は、2024年6月13日、元職員に対して有罪判決を言い渡しました。また、同年7月16日には元区議会議員に対して有罪判決が言い渡されました。これは氷山の一角で、千代田区では長年にわたり議員・区・業者の癒着が常態化しているとの報道もされていました(※2 ※3 ※4)。
その後も「「あれは組織的犯行だった」“小池百合子氏の側近”樋口区長(42)が隠蔽する談合疑惑と“職員の死”《千代田区元職員が実名告発》」との記事が出ています(※5)。
特に重要なのは、有罪となった元職員が「元副区長の指示だった」と組織性を強調している点です(※6)。
東京地方裁判所は、元職員に対する判決文の中で「被告人は、上司からの指示・命令や共犯者である区議からの依頼があって、断りづらい状況にはあった」と認定しています(※7)。元職員が部長職だったことや元職員の公判での供述から「上司」は副区長(当時)を指すことがわかります。判決文で量刑理由に記載する事実は証拠に基づき裁判所が認定した事実です。東京地方裁判所が「上司からの指示・命令」があったと認定したのです。
政治とカネの問題が国政でも注目される中、千代田区でも利権構造を明らかにして区政の大改革が期待されました。しかし、再発防止策を検討する委員会は、外部の第三者委員会ではなく、トップは副区長で区内部のメンバーが検討主体となる庁内に置かれたものでした(※8)。組織内部の問題を外部の視点から厳正に見直すべき場面で、検討に客観性や透明性に欠ける懸念があります。
有識者会議も設置されましたが、独自の調査権限は持たず、主に意見聴取の役割にとどまっています(※9)。報告書には、最も重要な元区議に対するヒアリング調査の記載がなく、他に不正があったか否かを徹底的に調査したものではありませんでした(※10)。組織改革の具体的なスケジュールや実行計画も示されておらず、抜本的な改革には程遠い状態です。
政官業の癒着による汚職が発覚した千代田区が真に生まれ変わるためには区民の視点に立ったガバナンスの再構築が不可欠です。そのためには独立性の高い第三者調査委員会による調査が不可欠です。日本弁護士連合会(日弁連)は地方公共団体における第三者調査委員会にガイドラインを2021年に策定し、公表しています(※11)。
第三者調査委員会による調査は、適法かつ適正な行政の執行を確保するため、公正・中立な立場から、関係法令等を踏まえ、対象事案につき原因を含む事実関係を究明・把握・認定し、必要に応じて再発防止策等に関する意見を形成し、報告することを目的としています。区長が決めれば、すぐに第三者調査委員会の設置に向けて動くことができます。樋口高顕区長は、区役所に家宅捜索が入るような重大な政官業癒着の汚職事件があったにもかかわらず、第三者調査委員会を設置しませんでした。これでは外部の厳正な調査を避けて幕引きを図ろうとした樋口区長が批判されてもやむを得ません。
フジテレビは、多くの批判を受け、社長と会長が辞任し、日弁連のガイドラインに基づく第三者調査委員会の設置を決めました。2月2日は千代田区長選挙の投票日です。新しい区長には直ちに日弁連のガイドラインに基づく第三者調査委員会を設置し、官製談合汚職事件の真相究明をしてもらいたいと期待しています。
文責 弁護士 大城聡
※1 「警視庁が千代田区役所を家宅捜索 官製談合防止法違反の疑い」(毎日新聞2024年1月24日)
※2 「ゴルフもエアコン代も、金品授受常態化か 元千代田区議あっせん収賄」(朝日新聞2024年3月9日)
※3 「千代田区立お茶の水小学校・幼稚園をめぐる官製談合事件で 新たに区役所元部長や元課長ら3人を書類送検 警視庁」(日テレ2024年4月4日)
※4 「「千代田ムラ」浮かぶ政官業の癒着 元区部長、元課長ら3人書類送検」(朝日新聞2024年4月5日)
※5 「「あれは組織的犯行だった」“小池百合子氏の側近”樋口区長(42)が隠蔽する談合疑惑と“職員の死”《千代田区元職員が実名告発》」(週刊文春2025年1月29日)
※6 「千代田区官製談合が結審 情報漏えいした元部長「元副区長の指示だった」と組織性を強調 判決は6月13日」(東京新聞2024年5月14日)
※7 東京地方裁判所令和6年6月13日判決(令和6特(わ)276 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反(裁判所ホームページ))
※8 入札不正行為に関する調査及び再発防止対策検討委員会(千代田区ホームページ)
※9 入札不正行為に関する再発防止対策有識者会議(千代田区ホームページ)
※10 「千代田区入札不正行為等再発防止検討報告書 2024(令和6)年7月」(千代田区ホームページ)