中二病の宇宙論 第四章

第四章 ダークエネルギーの正体って何なの?

この章ではこれまでの内容から一歩離れて、宇宙誕生の謎についてせまりたいと思います。この章だけ読んでも楽しめると思います。


観測可能な宇宙とは何?

宇宙の果てが気になりませんか?僕たちが生まれたこの宇宙のことは最近になってかなり詳細にまでわかるようになってきたと天文学者は言います。
この宇宙のことを観測可能な宇宙というのですが、それができたのは正確に137億2000万年前だというところまでわかっています。そして地球から観測可能なもっとも遠い宇宙の果てまでの距離は465億光年だということです。これは半径に相当するので観測可能な宇宙の大きさは直径930億光年の球体だということになります。
ではその先はどうなっているのでしょうか?科学者という仕事には立場があるらしくて、その外がどうなっているのかは議論をしないようです。その理由は「検証できないから」。もちろんマルチバース論のようにその外側の可能性については語る学者さんもいるのですが、それが正しいかどうかは永遠に検証できない。観測可能な宇宙のその外側の光は地球に届かないため、真実は一切知ることができないのです。
だから主流の宇宙物理学者は宇宙の外について基本的に語らない。けれども僕は中二脳なのでそんなことは言わずに、この章では「気になる宇宙の外側」についても考えてみたいと思うのです。
さて、ここで先に進む前にちょっと待ってください。ひょっとするとここまでの説明について数字が気になった人がいるんじゃないでしょうか。
宇宙の歴史は約137億年。地球から観測できる一番遠い場所は465億光年の先。だとしたらそれって矛盾していないのか?と思った人のことです。
465億光年先の光が地球に届くのには465億年かかるわけで、それがわずか137億年で届いたということはその光は光速の3.4倍で地球にやってきたことになるように思えるじゃないですか。
なあんて自分で問題提起しておいて自分で種明かしするマッチポンプみたいな話なのですが、この話にはトリックがあって、僕たちのいるこの宇宙空間は光の速さよりもずっと速いスピードで膨張しているというのが現代宇宙物理学の定説です。
今地球で観測できる一番遠いところから来た光は宇宙マイクロ波背景放射というもので、これはビッグバンから38万年後たった時に光った宇宙の光なのですが、わかりやすく表現するとそれは当時、地球から3600万光年離れた宇宙空間にあった光で、それが137億年の時間をかけて地球に届いたのです。
なぜ時間が余計にかかったのかというと、その光のもともとあった場所と地球の間の宇宙空間が光速の3.4倍のスピードで膨張したからです。もといた場所がどんどん地球から離れていったということが起きました。
だから38万年前に地球から3600万光年離れたところで光った光は3600万年かけて光速で旅を続けても地球には到達できない。これはまるでずるずるとすべる斜面を固定されたロープの代わりにくるくる回るトイレットペーパーを手がかりに登るようなもので、登っても登ってもほんの少ししか山頂に近づけない。
どんどんその場所と地球の距離が広がっていくので光はなかなか地球に近づけず、結局、地球に届くまでに137億年の時間がかかったということです。
そしてその場所は今では地球から465億光年離れたところにある。だからそこで今この瞬間に光った光はもはや地球に届くことはできません。その場所に137億年前にあった光だから観測できる。観測可能な宇宙とは果てに行けば果てにいくほどその過去の状態だけがわかる宇宙で、しかも将来観測可能な宇宙はどんどん縮小していく。このまま膨張していけば今から2兆年後にはわたしたちが観測できる宇宙は銀河系だけになってしまうのです。


標準的なビッグバン宇宙論とは?

さて、標準的なビッグバン宇宙論というものがあります。一応異論もありながら、多くの宇宙物理学者はそれに近いことがおきたのだと主張しているのですが、ここではその説明と中学二年生の視点で見たそのおかしなところを指摘してみたいと思います。
今から137億2000万年前に何もない点が突然大爆発を起こします。これがビッグバンです。宇宙論ではその何もない点の外側に何があったのかとか、それ以前の宇宙はどうなっていたのかは論じないのですが、中二病的にはまずそこが気になるものです。
ビッグバンはなぜ起きたのか、何がビッグバンを引き起こしたのか?ということがビッグバン理論の最初の突っ込みどころです。そして興味深いことにビッグバン宇宙論の教科書には「それは謎である」とだけ書かれています。
なぜその一番謎な部分を謎にしても理論が成立するのかというと、そもそもビッグバン宇宙論は現在の宇宙観測結果を逆算して構築された理論だからです。
1929年にエドウィン・ハッブルがほとんどの銀河は地球から遠ざかっていることを発見しました。それも遠くにある銀河ほど速いスピードで地球から遠ざかっている。すべての方向の銀河が距離に比例する速度で後退していることからハッブルは宇宙が膨張していると結論づけました。
現在宇宙が膨張しているということは、逆に時間を遡ると宇宙はどんどん集まってきて、宇宙の始まりには小さな点だったことになる。そこでジョージ・ガモフは宇宙はかつて高密度高エネルギーのかたまりで、それが爆発的に膨張したというビッグバン理論を主張します。このビッグバン理論は多くの観測事実と、多くの理論物理学者によって裏付けられ、現在では主流の宇宙論になっています。
そこでさきほどの宇宙の始まりに話が戻るのですが、ここが奇妙な話で、中二の頭で自然に考えると、そうやって時間をさかのぼって宇宙の始まりを考えると、宇宙のはじまりは当然、巨大なブラックホールだったはずです。なのになぜか主流の天文学者たちは宇宙のはじまりは何もない点から始まるという前提で理論を組み立てている。そこが中二病的には釈然としないふたつめの疑問点です。
なぜそのような主張がされているのか、その背景としてはブラックホールが大爆発する理論を作ることができないことが最大の理由でしょう。一方でブラックホールの代わりに「高エネルギー状態の偽真空」という状態を考えると、それが空間の相転移によって大きく膨らむ理論は作れる。だからなにもない空間から宇宙が始まったというのが現在の主力の学説になっているようです。
次にビッグバンの直後の10の何十乗分の1秒という非常に短い時間に宇宙は点からグレープフルーツぐらいの大きさに爆発的なスピードで膨張します。インフレーション宇宙論というもので、このときの宇宙空間の膨張速度は光速の3.4倍どころか、幾何級数的に大きな速さで膨らみました。このインフレーションがないと現在の宇宙ができないことが主流の宇宙物理学理論ではわかっています。
このインフレーション宇宙論は宇宙の成り立ちをひじょうによく説明するのですが、ここでも何がそれだけのインフレーションを引き起こしたのかはわかっていません。科学者は便宜的にインフラトンという仮説上の物質がこの時期に形成され、そのインフラトンがインフレーションをひきおこしたのだと説明しています。ここが三番目の謎です。
そこから先はもっと多くの科学者からのコンセンサスになっています。ヒッグス粒子が出現して、宇宙の晴れ上がりがおきて、38万年後以降、宇宙は現在存在するような陽子、電子、中性子、光子といったおなじみの物質で構成されるようになります。


宇宙空間を膨張させている力は何なの?

そして宇宙空間はそこから平均して光速の3.4倍のスピードで膨張して、137億2000万年の時間をかけて現在の大きさの宇宙に至ります。
ビッグバン理論の4番目、そして最大の不思議は実はこの空間の膨張にあります。普通の中学生はビッグバンは宇宙の材料が爆発して宇宙空間に広がっていく現象だと思っています。爆発物が飛び散ったからそれが無限の宇宙に広がっていくというのは確かにビッグバンをイメージしやすいのですが実際は物質だけではなく空間自体が広がっています。
いまでも宇宙物理学者はこのあたりをちゃんと説明してはくれていません。天の川銀河と遠い銀河の間の空間は現在でも光速よりも速いスピードで膨張しているようですが、どのような物理原理が働くとその膨張が起きるのかについては説明した科学書を読んだことがありません。
同時に天の川銀河の内部では空間の膨張は観測されていません。なぜ銀河の内部では空間は膨張しないのでしょう?空間の膨張についてはその現象は起きていると観測されているのに、その原因は説明されていないのです。
ではなぜ今でも宇宙では空間自体が膨張しているのでしょう。銀河や恒星のような「モノ」が飛び散ることで空間が膨張しているのか?ここは重要なポイントで、空間が膨張する原因が「モノ」にあるのか、それとも違う原因で空間が膨張してそこにあった「モノ」が空間と一緒に飛び散っているのか?このふたつは大きく違う現象の捉え方です。
そして僕は真実は後者ではないかと疑っています。理由は科学者が「観測できない宇宙の外側については議論をしない」という態度をとっていることといまだに空間膨張の原因がきれいに説明されていないという事実からです。
論理思考にこの縛りをかけてしまうと、宇宙空間が膨張する原因はビッグバンで物体ないしはエネルギーが飛び散ったことでおきるとしか説明できません。でもこの縛りを解くと宇宙空間はその外側の力で膨張することが考えられるようになります。宇宙空間が膨張する結果銀河が遠ざかることになるという新しい説明ができるようになります。
そして因果関係をこのように逆に仮定することで、この章で後述するように今の宇宙はもっと自然に説明できるようになるのです。
ひとつ重要な指摘をしておくと、空間が光速の3倍で伸びるような物理現象が別の理論の中で存在します。その空間が伸びる現象とはブラックホールの内部についてのアインシュタインの一般相対論の説明の際に登場する現象です。
ブラックホールに宇宙船が落ちる説明がよく物理の教科書に登場しますよね。シュバルツシルト半径とよばれる重力の地平線を超えてブラックホールに落ち込んだ物体からは、たとえ光を発信してもその光はブラックホールの重力でシュバツルシルト半径の外に出ることはできなくなります。
光は常に光速で外に向かうのにもかかわらずなぜ光がブラックホール内部から出られないのでしょうか。アインシュタインの説明ではブラックホールの内部では空間が光速よりも早いスピードでブラックホールの中心に向かって落ちている。宇宙船から発した光の立場で見ると外に向かう空間がブラックホールの中心に向けて光速より速く膨張しているのです。
つまりブラックホール内部に落ちた宇宙船から光を発信してもその先の空間自体がどんどん伸びてブラックホールの中心へと落ちていくため、光は前に進めない。つまり一般相対論の世界では巨大な重力は空間を引き伸ばすのです。


標準的な宇宙理論が成立するためには?

一方でビッグバンが実際に起きたとされる証拠はいくつかあります。その中でもエレガントな証拠だといわれているものがふたつあって、ひとつはその38万年前に宇宙が発した光が理論通りマイクロ波に波長が伸びた形で宇宙のあらゆる場所から観測されるという宇宙背景放射現象があります。
もうひとつは宇宙を構成する原子の比率です。ビッグバン宇宙論からは水素、ヘリウム、リチウムといった基本的な原子が形成される比率が理論的に計算されているのですが、それが銀河の観測数値とぴたりと合う。だからビッグバン理論は科学者に支持されているのです。
くりかえしになりますがこのビッグバンで形成された僕たちの宇宙は観測できる領域が465億光年というだけで、実際の大きさはそれよりも大きいと想像されます。けれどもその実際の大きさはどれくらいなのかは観測できないため、その本当の大きさについても科学者は考えないことにしているわけです。
さて、このようにビッグバン理論で宇宙がちゃんと説明できるように見えるのですが、それではつじつまが合わないことから科学者が頭を悩ませているものがまだふたつあります。ダークマターとダークエネルギーです。
実は銀河の観測結果からわかることは、もし銀河が観測できる物質だけで形成されていたとしたら軽すぎて現在のような形を維持することができないのです。
これは1970年代から議論がはじまったことなのですが、天の川銀河やアンドロメダ銀河が美しい渦巻状を形成するためには銀河全体の質量が6.5倍くらいなければその形にならないということがわかってきました。銀河が形成されるためには原子以外にも質量のある物質があって、しかもその量は原子よりもずっと多い(5.5倍多い)ということです。
さらにその質量は観測しづらい銀河の中心部に偏っていてもだめで、銀河の中央部から端のほうまでまんべんなく分布していなければいけないのです。それを科学者は仮説上の暗黒物質、つまりダークマターと呼んでいて、これは光学的に発見できない物質だと説明されているのです。
でも中二病的に言えば「ちょまてよ!」ですよね。そんなにたくさんの物質が銀河の中にまんべんなくあるのだとしたら、太陽系の中だってダークマターが充満しているはずです。いったいそれは何で、なぜ僕たちはダークマターを見つけられないのか、釈然としないものを感じるわけです。
1998年には別の発見がありました。宇宙はただ膨張しているのではなく加速膨張しているのです。そして観測されるような銀河同士の膨張が起きるためにはダークエネルギーというまた別の謎のエネルギーないしは物質の存在を仮定することが必要だとされるようになりました。
今の宇宙の状況を説明するためには宇宙全体のエネルギーおよび質量の構成は、原子が4.9%、ダークマターが26.8%、ダークエネルギーが68.3%だと非常にうまく説明がつくとされています。
しかしここでも「ちょまてよ!」です。仮にそれがそうだとして時間を遡らせて宇宙が始まる137億年前を想像してみるとおかしくなります。なぜ以前の計算前提よりも物質やエネルギーがはるかに多いにもかかわらず、宇宙背景放射の波長はダークマターやダークエネルギーが信じられていなかったときと同じ観測結果なのでしょう。
なぜ20倍もの質量やエネルギーがあったのに、ビッグバン直後に形成される水素、ヘリウム、リチウムの比率は、ダークマターやダークエネルギーがなかった前提のときの計算と同じ数値になるのでしょう。
そう考えるとダークマターやダークエネルギーって本当にあるのか?ないしはあるのだとしたらビッグバン標準理論って本当に正しいのか?と中学二年生の頭の中は疑念でいっぱいになります。


ダークエネルギーってエーテルと同じじゃないの?

さて、中二脳だとなぜ科学の最先端であるダークマターの存在や、ダークエネルギーの存在に疑問を持つのでしょうか?ないしはインフラトンのようなインフレーション宇宙論の基盤となる仮説上の粒子の存在に疑問符をつけるのでしょうか。
それには理由があります。過去にも同じような論争が起きてきたことを科学の教科書で知っているからです。それは宇宙物理学者たちが捜し求めたエーテルと惑星バルカンの故事からの発想です。
エーテルは西暦1900年頃の科学者たちが真剣に探していた宇宙を満たしているはずの物質です。なぜ科学者がエーテルを探していたかというと光が波だということがわかったからです。
当時の物理学の常識では波は何らかの媒介物がなければ伝わりません。水があるから水面を波が移動していきますし、空気があるから音波が伝わる。だとすれば光という波は宇宙空間を何らかの物質を媒介して伝わっているはずだという考えです。そこで科学者はこの仮説上の宇宙を満たす媒体をエーテルと名づけ、それを発見しようとしたのです。
しかしこのエーテルには不思議な性質があることが科学者の頭を悩ませました。宇宙がエーテルで満たされているとしたら地球の進行方向から来る光は進行方向の反対側から来る光よりも速度が速くなるはずです。なのに光速はどちらの方向から測定しても速度はいつも同じ。これは謎でした。
そこに登場したのがアインシュタインの特殊相対論で、そもそも光は空間を伝わるものでその速度は物体がどのような速度で動いていても常に同じ速度であるという理論を打ち立てたのです。その結果、エーテルは存在しなくてもこれまで謎だとされた問題は矛盾なく説明できるようになったのです。
惑星バルカンも同じ頃、水星軌道の観測結果がニュートン力学と合致しない問題から観測が始まりました。同じようにニュートン力学と合致しない天王星の軌道の観測結果から計算された場所に天文学者は海王星を発見しました。だとすれば水星軌道の観測結果のずれも、水星よりも内側の軌道を回る別の惑星の存在で説明できます。
このバルカンは太陽に非常に近いため望遠鏡でも観測できないと思われていたのですが、アインシュタインの一般相対論の発表により水星軌道のずれは太陽の巨大な重力によって空間がゆがむ重力レンズ効果だと説明がなされ、同時にバルカンがどうしても見つからない理由も明らかになりました。バルカンが見つからない理由はバルカンが存在しなかったからです。
そういった科学の歴史を知っている中学二年生から見れば、現代の科学者たちが仮説上の素粒子としてダークマターやダークエネルギー、インフラトンなどの存在を提唱している状況は、エーテルやバルカンの議論の再来のように見えて仕方ありません。
捜しても見つからない謎の物質というものは「最初からそんなものはなかった」という答が一番シンプルでありエレガントなものですから。


宇宙論についての謎をまとめてみる

ここまで話してきた現代宇宙論についての中二病の観点からの疑問をまとめてみたいと思います。
① 宇宙の外側には何があるのか?
② 宇宙の始まりは巨大なブラックホールだったのではないのか?
③ ビッグバンはなぜ始まったのか?なにがビッグバンを引き起こしたのか?
④ なにがビッグバン直後の宇宙にインフレーションを引き起こしたのか?仮説上の粒子インフラトンの正体は何なのか?
⑤ なぜ宇宙空間は光速の3倍のスピードで空間自体が膨張しているのか?何が空間を膨張させるのか?
⑥ 宇宙空間はどのようなエネルギーで加速膨張しているのか?加速膨張をもたらしている仮説上のダークエネルギーとは何なのか?
⑦ なぜ銀河は現在のような形状でまとまっているのか?まとめている仮説上のダークマターとは何なのか?
こういった問いに科学者はまだ答を提供してくれていません。中二脳で考えると、答が提供できない理由は、科学者が宇宙の外側について考えることをしないことが理由だと思えるという話をしました。
つまり中学二年生レベルの発想で「ビッグバンが起きた原因」を考えると、「宇宙の外側で何かの力が働いたから」と考えるほうが自然な気がするのです。それを「検証できないから」という理由で禁じ手にしてしまったとたん、科学者が考える標準的ビッグバンモデルは複雑で変な形をとらざるをえない状況になったということではないでしょうか。
逆に言えば、この禁じ手にずけずけと踏み込んでいくと中学生レベルの物理学知識でシンプルにこれらの問題が解決するのです。これから僕の説を紹介してみたいと思います。
そのために宇宙について、以下のように定義しておきたいと思います。
A  観測可能な宇宙: 半径465億光年のわれわれが知っている宇宙のことです
B  わたしたちの宇宙全体: 観測可能な宇宙を含むビッグバンで誕生した宇宙全体のことです。現在の大きさは観測可能な宇宙の数倍かもしれませんし、数十倍ないしは数百倍かもしれません。いずれにしてもビッグバン当初はこのレベルの宇宙全体もほぼほぼひとつの点に集まっていたわけです。
C  外側の宇宙: わたしたちの宇宙全体の外側に広がる宇宙です。これから展開する議論では外側の宇宙もわたしたちの宇宙全体と同じ物理法則が通用する宇宙だと仮定して議論を展開します。
つまりこれまで僕たちが知っている物理法則であくまで議論を展開するということを前提に、ただし外側の宇宙も考えながら議論を組み立てようというのが僕の提案です。
では話を始めてみましょう。


「オウヤマ予想」によるビッグバンのメカニズム

僕、王山覚によるビッグバン理論はとてもシンプルです。まだ検証されていないけれども天文学や理論物理学の専門家が検証すればおそらくそれが実証できるだろうということからこの説を「オウヤマ予想」と名づけさせていただきます。

オウヤマ予想によるビッグバンのメカニズム
「ビッグバンはかつて巨大なブラックホールだったわたしたちの宇宙が、さらに巨大なブラックホールに落ちたことで起きた」

ビッグバンが始まる前の「わたしたちの宇宙全体」は巨大なブラックホールだったと仮定するところから議論を始めてみましょう。「観測可能な宇宙」には銀河が全部で1兆個ほど存在しているといわれています。「わたしたちの宇宙全体」はその数倍から数百倍の大きさだと仮定します。ビッグバン以前はそれもふくめて物質もエネルギーも空間も非常に小さいひとつの点に集まっていました。観測可能な宇宙の中では考えられないほどの大規模なブラックホールが宇宙の始まりには存在したと考えるのです。
ブラックホールの大きさについては特異点、つまり大きさはゼロだと仮定する古典的な物理理論がありますが、僕は最新流行の超ひも理論が提唱する最小単位であるひもの大きさに「わたしたちの宇宙全体」の要素がすべてまとまっている状態だと仮定します。つまりブラックホールの大きさは非常に小さいけれどもゼロではなく有限だと仮定するのです。これは将来の超ひも理論によるシナリオ検証にあわせた前提だと考えてください。
さらにここで「外側の宇宙」についても仮定を設定します。外側の宇宙はさらに広い宇宙空間で、そこは一般相対論で言う「閉じた宇宙」でありかつ、外側の宇宙全体はビッグクランチ、つまり巨大な収縮による終焉に向かっている最中であると想定します。
つまり「外側の宇宙」全体は収縮を始めていて、その中にある「わたしたちの宇宙全体」はビッグバンの直前まで「外側の宇宙」の一部が収縮した末に出来上がった、想像できないほど巨大なブラックホールだったと仮定するわけです。
さてここからビッグバンを起こしてみましょう。
「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」が、膨大な「外側の宇宙」空間において別のさらに巨大なブラックホールに引き寄せられます。別のさらに巨大なブラックホールの大きさですが「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」のさらに数十倍から数千倍だったとイメージしてください。
これはそれほど特殊な前提ではありません。なにしろビッグクランチに向かう宇宙ですからそこにはわたしたちの宇宙よりもはるかに大きな質量やエネルギーが集積したブラックホールが宇宙空間の各所に存在しているのは不思議ではないでしょう。「外側の宇宙」にはとにかくいたるところ巨大なブラックホールだらけで、あとはそれらのブラックホールがすべて一ヶ所に集まればビッグクランチは終結します。
その過程で「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」がさらに巨大な別のブラックホールに落ちていくことになったと考えるのです。
その落ち方にもいろいろなケースやシナリオが想定できますが、一番単純なモデルとして、ふたつのブラックホールは光速に近いスピードでほぼ正面衝突のような形でぶつかる状況を想定してみます。
よくブラックホールに一度吸い込まれたら光でも二度とそこから出ることができないといいます。計算上ブラックホールの中心から巨大な重力によって光が出られなくなる地点までの距離をシュバルツシルト半径といいます。ブラックホールの中心からシュバルツシルト半径で描いた球の表面を「事象の地平面」といって、そこから先の世界は外側からみることができなくなります。
過去のある時点、これは137億年前よりもずっと前、たとえば300億年から500億年前ぐらい、ひょっとすると1000億年以上昔の出来事です。「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」はそうやってさらに巨大な別のブラックホールのシュバルツシルト半径の中に入っていきます。
このブラックホールはあまりに巨大なので、シュバルツシルト半径もたとえば1000億光年といった想像もできない大きさの空間を占めていたと考えてみましょう。もしかすると1兆光年ぐらいの大きさかもしれませんが、いったんそのように仮定してみましょう。
さて、シュバルツシルト半径の内側に入ってしまうともう「わたしたちの宇宙」は巨大ブラックホールから脱出することはできなくなります。しかしあまりに巨大なブラックホールの場合、シュバルツシルト半径の内部に入っても当初は何もおきません。後戻りできなくなったと気づかないまま、ただわたしたちのブラックホールは巨大ブラックホールの中心へと向かっていくのです。
そこから何十億年、いや何百億年たったでしょうか。あまりに巨大な重力圏のためわたしたちのブラックホールはまだ巨大ブラックホールに向かって落ち続けています。巨大ブラックホールに近づくにつれわたしたちのブラックホールには外部から巨大な重力が働きます。しかし「わたしたちの宇宙のブラックホール」の中心部はあまりに強固に結びついているので崩壊はしません。
私たちの周りにある物質は重力や電磁気力で結合しています。地球や太陽といった星々は重力で結合しています。その内部の原子核など素粒子の内部は強い力や弱い力と呼ばれる力で結合しています。これらの4つの力の中でも一番結合力が強いのが強い力です。
そしてブラックホールのように信じられないほどの高密度高エネルギーの世界になるとこれらの4つの力は統合されてひとつの力へと収束します。
「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」では素粒子は超ひもの単位にまで分解されこの統合された力で結合されているため、ちょっとやそっとの力でその結合が離れることはありません。がっしりとあたかもひとつの塊であるかのごとく、固く固く超ひもの集合体はまとまっているのです。
その間にもわたしたちのブラックホールは、巨大ブラックホールの中心に向けてさらに何百億年かけて落ちていきます。ふたつのブラックホールが近づくにつれお互いの重力はさらに強大な力となります。そして大きさがはるかに小さい「わたしたちの宇宙全体のブラックホール」のほうが強くその力の影響を受けることになります。
しかしわたしたちのブラックホールはそれでも強大なもうひとつのブラックホールの重力に耐えながらひたすらブラックホールの中心へと亜光速で落ちていく。そうして耐えて耐えて耐えて耐え続けていたある瞬間、それは超巨大なブラックホールのほぼ中心に近づいた瞬間だったかもしれません、わたしたちのブラックホールがあまりの強い重力に耐え切れず、ついにひも同士の結合を解いてしまいます。耐え切れずすべての結合がいっせいに。
それがビッグバンでした。
それまであまりに耐えに耐えてきた結果、結合が解けた瞬間の超ひもの空間は巨大な重力の中で本来置かれるべき空間へと急激にその位置をシフトします。これを外部から観察することができたとしたら、結合が解けた次の1秒間よりもずっとわずかな短い時間に、わたしたちのブラックホールは信じられないほどのスピードでその空間を膨張させるように見えます。インフレーションが起きるのです。
そうして崩壊したわたしたちの宇宙は、もうひとつの巨大ブラックホールの中心を慣性力で通りすぎて、あたかも重力にさからうように飛散しながらすれ違っていきます。
これは2018年にオウムアムアという太陽系外からやってきた天体が太陽に引き寄せられた後にたどった軌道と同じです。超高速で太陽に近づきそこでスイングバイをすると軌道を変えてさらに超高速でオウムアムアは太陽から遠ざかっていきました。
それと同じでもうひとつの巨大ブラックホールの中心近くでビッグバンという大崩壊を起こしながら「わたしたちの宇宙全体」は超巨大ブラックホールの重力で加速しながら遠ざかっていくのです。ただし一度、巨大ブラックホールのシュバルツシルト半径内に落ちたのが「わたしたちの宇宙全体」です。そこから外に脱出することはできません。巨大ブラックホールの内部で「わたしたちの宇宙全体」は崩壊し膨張しながらゆっくりと広がり、1000億光年もの大きさのシュバルツシルト半径のなかでその巨大ブラックホールの周りを回る衛星軌道をとるようになります。
その軌道は一周が3000億年かもしれませんしそれよりずっと永い時間がかかる周回軌道かもしれません。非常に長い軌道をまわる非常に巨大な空間へと137億年かけて私たちの宇宙は散乱していきます。
そしてその巨大な散乱した一部分、半径465億光年の球体の内側にわたしたちがよく知っている「観測可能な宇宙」があるのです。


「オウヤマ予想」のリアリティとは?

この「オウヤマ予想モデル」からビッグバンの説明を始めると最初に設定した疑問のうち①から④までの疑問がすんなりと説明できます。
① 宇宙の外側にはビッグクランチに向かう途中の巨大な宇宙があった
② わたしたちの宇宙は最初は巨大なブラックホールだった
③ そのわたしたちの宇宙全体のブラックホールがさらに数百倍から数万倍も大きいブラックホールに接近したことで重力崩壊を起こした。これがビッグバンである。
④ ビッグバン初期のインフレーションは重力崩壊直前まで超ひもの集合体が耐えに耐えてきた反作用で引き起こされた。インフラトンの正体は空間の反動である。
では⑤と⑥についてはどうでしょうか。
現在の宇宙論ではなぜ宇宙空間がいまだに光速の3.4倍のスピードで膨張しているのかを説明してくれていません。しかし「わたしたちの宇宙」が超巨大なブラックホールの内側にあって、すべての銀河がそのブラックホールの中心に向かう重力を受け公転しながら散乱しているのだと想定すれば、空間が伸びる原因が判明します。
つまりブラックホールの内部ではアインシュタインの一般相対論の中で説明されているように空間は光速よりも速いスピードで伸びる。これが⑤に関する説明です。
そして問題の⑥に相当する2013年になって発見された宇宙の加速膨張も説明できます。科学者はその仮説上の原因として宇宙の総質量の70%にも相当するダークエネルギーを想定しました。
しかし「オウヤマ予想」のシナリオどおりなら宇宙が加速膨張するにはダークエネルギーは必要ありません。加速膨張のエネルギー源としてそれよりもずっとシンプルでわかりやすい超巨大ブラックホールの重力による位置エネルギーが存在するからです。
直近の観測事実からの説明では観測可能な宇宙は70億年前までは収縮していたのですが、その後、膨張に転じたといいます。ひとつの可能性として考えると飛散した「わたしたちの宇宙」の重心が70億年前までは超巨大ブラックホールから遠ざかっていたのではないでしょうか。そして上に投げたボールが反転するようにそこから「わたしたちの宇宙」の重心は反転する。そして「観測可能な宇宙」は今、超巨大ブラックホールの公転軌道に乗りながら、その重力で全体的な空間が下方向にひっぱられるようになったのではないかというのが僕の説明です。
追加で説明すると私たちの銀河はグレートアトラクターというなぞの重力にひっぱられていることが天文学者による観測事実としてわかっています。グレートアトラクターは私たちの銀河から遥かに遠いところにある重力源です。
観測技術が進むにつれグレートアトラクターの重力に引っ張られているのは私たちの銀河だけでなく、天の川銀河を含む巨大なおとめ座超銀河団全体だということがわかってきました。
そしてさらに最近わかったことは、グレートアトラクターはおとめ座超銀河団だけではなくその上位構造であるラニアケア銀河団をもひきつけている巨大で非常に遠い場所にある重力源であることが判明しました。
つまりこの先、観測技術が進んでいけばやがてグレートアトラクターとは観測可能な宇宙の外にある巨大重力だとわかるときがくるのではないでしょうか。
つまり「オウヤマ予想」から導き出される帰結としては、
⑤ 「観測可能な宇宙」は膨張しながら今でも別の巨大なブラックホールの内部にとどまっている。「観測可能な宇宙の空間」は現在ではそのブラックホールの中心に向けて全体が引っ張られている。実際は「わたしたちの宇宙の空間全体」がひとつの方向にひっぱられているのだが、「観測可能な宇宙」はその一部にすぎないため、われわれから見ると宇宙空間全体がわれわれからみて一様に広がっているように見えている。
⑥ 宇宙が加速膨張している理由は巨大ブラックホールの重力が作用しているためだ。ダークエネルギーの正体は巨大ブラックホールの重力である。
さてどうでしょう。宇宙の外側を想像するという僕の試みは、ここまでのところビッグバンからはじまる「観測可能な宇宙」についてシンプルな形で説明できるように思えます。科学者が言う「検証することができない」という欠点についても、グレートアトラクターの観測などを通じていずれ科学的事実として何らかの裏づけがとられる可能性はあるかもしれません。


「オウヤマ予想」をどう検証することができるか?

さてこの「オウヤマ予想」は中二脳の僕としてはとても気に入っているのですが完成形ではありません。宇宙物理学者に検証してほしいポイントがふたつあります。
これは実は若い大学院生などの方にとってチャンスですよ。だってもし検証できたら、検証してくれた人は宇宙論に名を残します。
だからオトナの偉い科学者が手を出さないうちに、現役の東大院生やハーバード大学院生の人にはぜひ試してみてほしいと思います。
ひとつはこれは一般相対論の知識が必要な検証ですが、ふたつのブラックホールが接近して片方が崩壊したと仮定する場合、お互いの質量がどれくらい巨大だったら、ここで想定したような崩壊から137億2000万年の時間がたってもまだ宇宙空間が膨張しながら飛散するような状況が起きるのか、その大きさの計算です。
コンピューターシミュレーションモデルを作らないと検証は難しいかもしれませんが、ビッグバンの137億年後に光速の3.4倍のスピードで空間が広がりながら超巨大ブラックホールの重力で宇宙空間が加速膨張をするようなモデルは、どれくらいのサイズの(ふたつの)宇宙を想定すれば再現できるのか。
たぶん既存の銀河誕生のシミュレーションモデルを改良すれば検証できると思うのです。それがどれくらいの大きさなのか、わたしもぜひその論文は読んでみたいものです。
そしてもうひとつは超ひも理論の知識が必要な検証です。「わたしたちの宇宙全体」のような巨大質量が高エネルギー高密度で超ひもレベルに分解しながら結合しているブラックホールの核の部分が、どれくらいの規模のさらなる巨大重力をもったもうひとつのブラックホールとどのようなプロセスで接近するとインフレーション型の崩壊を起こすのかの検証です。
この章で僕はふたつのブラックホールがすれ違いざまに重力崩壊をするモデルを提示しましたが、それだとかなり特殊なケースに思えます。もっと手前の時期に崩壊し「わたしたちの宇宙」はもうひとつのブラックホールから離れた場所を散乱しながら通過したのかもしれませんが、そうなのかどうかは量子論が専門ではない僕にはわかりません。
逆に重力だけでは崩壊エネルギーが足りないとした場合には、ひょっとするとかつて月が誕生したときのようにジャイアントインパクトと呼ばれるような衝突が起きて、原初の地球が別の微惑星とぶつかりその破片から地球と月が生まれたような出来事がブラックホール同士の間であったのかもしれません。
つまりビッグバンを起こしたのは重力ではなく衝突エネルギーだったという可能性も超ひも理論的にはありうる結論かもしれません。
どちらも検証が必要ですが、幸いなことにどちらも最新の物理学理論を適用させれば検証可能な内容です。
僕は中二脳なので純粋に結果を見てみたいと思うわけです。


最後に残る疑問

そうすると最後に残る疑問は⑦だけです。「じゃあダークマターってその正体は何なのだろう?」という疑問です。
しかし①から⑥までの説明とは別に⑦についてはすでにそれを解明する別の理論がちゃんとした科学者から提唱されています。それがホログラム宇宙論です。ホログラム宇宙論によればわたしたちの宇宙は本当は二次元で、そこで起きているさまざまな相互作用が三次元に投影されたものがわたしたちが認識している三次元空間だというものです。
そしてこの理論が正しければ、結論としてダークマターは存在しなくても現在の銀河は形成できることがわかっています。そしてこれが⑦の解決策になった場合でも、それはオウヤマ予想とは矛盾しません。
このようにして中二型のビッグバンモデルの検証が進み、一連の理論が妥当であることが判明すれば、インフラトンもダークマターもダークエネルギーもどれもなくてもわたしたちの宇宙について説明できます。ついでにグレートアトラクターの正体も判明します。
すると宇宙背景放射がマイクロ波の波長であることにも新しい理論は要りませんし、ビッグバンで誕生した水素原子とヘリウム原子とリチウム原子の比率がダークマターやダークエネルギー抜きの計算値に近いことも何の心配もなく説明がつきます。
つまり一番エレガントな説明は、観測可能な宇宙を含む僕たちの本当の宇宙全体は、もっと大きな閉じた宇宙の中のごく一部分の存在で、そのもっと大きな宇宙は冷えた宇宙でさらにビッグクランチに向かう過程にあったということ。そして僕たちの宇宙の原料だった巨大なブラックホールは、冷えた宇宙にあったもっとはるかに大きなブラックホールに落ちていく間に爆発した。それが天文学者がビッグバンと呼ぶ現象だと説明しようという考えです。
これでビッグバンが起きた原因も、ダークエネルギーの正体もすべてわかったことになるので、めでたしめでたしでしょうか。
実はそうでもありません。それでも最後にもうひとつ疑問は残ります。
「じゃあそのもっと大きな宇宙はそもそも、何から始まったんだい?」
というのがその最後の疑問なのです。もっと大きな宇宙は、さらにもっと大きなブラックホールに落ちて始まったとしたら、じゃあそのさらにもっと大きな?と話は永遠に続きそうです。

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