正確な医療情報の中心はどこだ!!
さあ、始めていきましょう!
往復書簡マガジン「俺たちは誤解の平原に立っていた」の第5回目です。
第3回目の私の記事では、医療情報の分布という話をして、正確な情報ほど重なりあうという話をしました。
前回のヤンデル先生の記事では、そこに2項対立の話を加えてくださって、不正確な情報を大事なものと勘違する理由を解説してもらいました。これは本当に大事なことです。
とても良い感じに、医療情報の見極め方が徐々に深められていると思います。
さて、今回の記事では、以前から使っている下の図を利用して、正確な情報の見つけ方を、もっと深く解説していきたいと思います。
この図では、正確な領域ほど多くの重なり合いが生まれることを表しています。これは、医療者が正確性の高い情報を好んで扱うため、そこに医療者は集まります。それに対して、不正確な情報はまばらで、それほど重なり合いません。
この図を見る限りでは真ん中の正確な情報を見つけることは簡単なようにも思えます。
しかし、実際はとても難しいです。
その理由は、情報が正確になればなるほど、わかりにくくなって、拡散されにくくなるためです。
正確な医療情報とは、白黒はっきりとしているものではなく、確率で表されるグレーな印象を与える情報です。「この治療を行なった場合の5年生存率は30%」「タバコをやめると発がん率を40%下げられる」などになります。0%にも100%にもならない。
それに対して、不正確な情報は「この食品を食べれば劇的に治る」などの、白黒はっきりとした、クリアカットな情報です。実際には、それは嘘だからわかりやすいのですが、それらは好まれて、良く拡散されます。
そこで、先ほど書いた図の実際は、随分と違う様相のものとなります。それが以下です。
なんだか随分と変わりましたね。違いがわかりますか?
まず、正確と不正確を見分ける色なんてなく、どれも同じように見えます。また、正確性の軸なんてものも見えません。どこが正確性の中心かはわかりません。
それと、中心部の正確な情報ほど、小さくなって見えにくくなっています。その代わりに、周辺にある不正確な情報がとても大きくなって、目を引くようになっています。
そう。これがネットで病気などを調べた時に、皆さんが置かれる感覚に似たものになります。
まさに、”誤解の平原にたたずむ人が見る景色”です。
あなたはこの中から、正確な情報の中心(コア)を見つけられますか?
闇雲に追いかけていては、正確な情報を見つけることは難しいです。ここで見つけるには色々なコツが必要です。
今回は、そのコツの中でも、とても重要なものの一つをご紹介します。
正確な情報の中心を見つけるコツ
実はこの正確性の中心点に必ず来る情報があるんです。それを意識してみると、中心は意外に早く見つかります。
コアに来る情報とは、「政府機関・国際機関が発する情報」です。
政府機関とは、厚生労働省や国立がん研究センターなどの政府が運営する組織です。これは各国にあって、米国だとアメリカ疾病予防管理センター(CDC)、国立がん研究所 (NCI)などがそうです。
国際機関は世界保健機関 (WHO)などの、グローバルに病気や社会問題について対応する機関のことです。
実はこれらの政府機関/国際機関は熱心に医療情報の発信を行っています。そして、これらの情報は極めて正確性が高いです。
そのため、実は多くの医師がこれらの政府機関/国際機関が発する医療情報を頼りにしています。
なぜ政府機関/国際機関の情報は正確なのか?
なぜ、政府機関/国際機関が発する医療情報は正確なのでしょうか?その理由は、多くの専門家を使って、正確性を高める努力をしているからです。それは我々のような個人の医療情報発信者が、全く真似できないレベルの作業を行っています。
例えば、CDCはどのように発信する情報をまとめているのか、実際の職員に聞いた話を紹介します。ちなみに、CDCは日本の厚生労働省に近い機関で、感染症などの公衆衛生の問題に対処する米国の政府機関です。
CDC内では、複数の専門家でチームを作って、発信する情報をまとめています。このチームには医師・看護師・基礎研究者・疫学者・統計家など(発する情報の種類によって構成は変わる)の、情報をまとめるために必要な多業種の専門家が集まっています。
その専門家チームは、過去に出ているデータを網羅的に集めてきて、膨大な量の情報を分析して、何が現時点で最も正確な情報かを、各専門家の意見を集めて検討して、発信する情報をまとめます。
まとめられた情報は、そこからさらに複数の他分野の専門家、情報の伝え方の専門家、時には法律の専門家などの目も入って、何重にも正確性の検証を行われます。そうして、最終的に世に出されます。
つまり、我々個人レベルで、論文を勉強して、まとめて、それを一人で書いて、世に出すとは次元の違う作業を、専門家集団で行っています。そこには膨大なお金と時間がかかっています。だからとても正確なのです。
コアから広げる
さあ、誤解の平原に立つあなたに伝えたい情報を書きます。
先ほどの図に戻りましょう。情報が広がっている中で、正確性のコアを見つけるためには、まず政府機関・国際機関が発する医療情報を探しましょう。
それは必ず正確性のコアに来ています。ここから情報収集を広げていきましょう。それと一致する情報を提供している人を見つけていきます。
例えば、個人ブログの記事の中に、
「この情報は厚生労働省のページから引用しました」
「引用元:国立がん研究センター」
「CDCが新たに発表した情報によると」
などと書いてあると、その情報は正確性のコアと同じ情報だというサインです。安心できる情報だとわかります。
そのようにして、政府機関・国際機関が発する情報と同じものを、わかりやすく解説している医療者や、テレビ、新聞、書籍を見つけて、そこから情報を広げていくと、正確な情報が広がっていきます。
政府機関・国際機関が発する情報を紹介する医療者の発信をフォローしていくと、その人が信頼している別の医療者に当たれる。そのようにしていくと、どんどんコアの重なり合いにいる人を見つけていけます。
逆に、CDCなんて嘘ばかりだ。国立がん研究センターなんて信用できない。そのようなトーンで情報を発信している医療者とは、ちょっと距離を置いた方が良いかもしれません。
政府を信用して良いの?
政府機関の情報がオススメですという話をすると、必ず聞かれることがあります。
「政府って信用できるの?」「政府なんて間違ったこといっぱいしているじゃない。信用なんてできないよ。」という方が必ずいます。
ここで気をつけてもらいたいのが、「政府(政治)」と「政府機関の医療情報」はイコールではないということです。
政治は政治家やお役人さんが決めるものです。政府機関の医療情報を作るのは、政治家でもお役人さんでもなく、医療の専門家たちです。日本だと政府機関から委託された外部の専門家たちであることが多いです。その元となるデータは、政治家の意見ではなくて、世に発表されている医学データです。
つまり、政府機関が発表している医学情報は政治家の意見ではなく、医療界のデータを医療の専門家が検討して生まれた情報です。
国という大きな箱でとらえてしまうと、全て同じと間違ってしまうことがありますが、政治とは離れたものであることを認識する必要があります。
今回はちょっと長めの記事になってしまいました。お疲れ様でした。ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。これで終わりにします。
ぜひ、政府機関・国際機関の発信する医療情報に注目して、それと同じ情報を発信する医療者達を探すという視点で、医療情報を見てもらいたいと思います。
では、今後の記事でまたお会いしましょう。ありがとうございました!