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500文字の建築試考「都市の輪郭」

わたしたちは都市の輪郭を意識しているだろうか。

東京、大阪、横浜、名古屋、わたしが住んでいる神戸などの都市では、昼と夜の景色がまるで異なる。

昼間は空が都市の輪郭を作る。
夜間は電気が都市の輪郭を作る。

昼間の都市の風景は空から注ぐ光によって輪郭が型取られる。
日光が屋根を照らし、壁を照らし、空はオフィスビルのガラスに映り込み、木の葉の間にチラチラ揺れて覗き、時間の移ろいとともに青や灰や橙に色を変えてその時限りの風景となる。

20世紀以降の電気の普及により、日光がない夜でも都市の輪郭を見られるようになった。
煌々と光るビル街、街灯、マンションの共用廊下から漏れる光、駅前の歓楽街の眩しいほどの看板の光。都市の建物はその輪郭がはっきり分かるほどの光量を携える。
都市の輪郭を24時間知覚できるようになったわたしたちは、光と時間に対する感覚を鈍らせてしまった。

昨年9月、ロサンゼルスの夜景を一望できるグリニッジ天文台を訪れた。

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都市の輪郭を作る光を実感した瞬間だった。

夜の光が面白くない風景かと言われるとそうではない。
本来人間が知覚できない夜の都市の輪郭を型取り、夜の霧と混じり、夜の温度を映し出す。
真っ暗なはずの空がぼんやりと光っているし、昼には存在しない色が都市の上空に漂っている。この風景は20世紀になって初めて人類が見た風景であったし、今後も見続けられるだろう。

では21世紀は何が風景を変えるだろう。
新しく見られる輪郭があるかもしれない。都市よりすごく大きなものか、都市よりすごく小さなもので。

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