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500文字の建築試考「映画『パラサイト』モノクロVer.を観て、感じた『色』と『空間』」

久々に映画館が営業再開し始めたということもあり、映画館で上映中の映画を調べていたのだが、なんと『パラサイト』のモノクロVer.を映画館で観ることができるとわかった。コレは観るしかないと思い、そのことを知った翌日には映画館に向かった。

一言で言うと、圧巻だった。
色の有無でこんなにも世界観が変わり、見える視点と対象が変わるのかと思った。
終盤に向けてだんだん増していく恐怖感が、色がないことで強調されて、まるで過去のような、夢のような、現実じゃない世界を見ている感覚だった。

と感想を述べていくと、ただの映画の批評になってしまうのでここからは建築的視点で述べる。

色がない世界でもっとも変化したものは「空間の奥行き」だった。

色がない世界では「空間」が失われる。
映画の世界の中のもの全てが、平面であるスクリーンに張り付いて見える。
あんなにも広く見えた富裕層の邸宅は、空間の広がりを失った。

ひとつ例を挙げると、パラサイトのメインシーンとして、庭に面した広いリビングである2人が踊っているシーンがある。
カラー版では、奥に木々の緑が見え、差し込んだ光の中で、恍惚の表情を浮かべながら踊り、この優雅な時間の流れに身を委ねる享楽を表現していたかのように見えた。
しかし、モノクロになると木々も光も姿を消した。
あんなにも雄大だった空間は一瞬にして失われ、観客の視線の焦点は2人が踊っているその表情に向けられる。
周囲の空間を失った2人の表情をみると、なんとも無情であった。

各シーンごとに切り取られた狭い世界が次々と移り変わることにより、映画が展開されていくので、周囲の空間よりも、各シーンにおける細かい描写や人間像・表情・空気など繊細な部分に目がいく。
このことがモノクロVer.の最大の魅力だと思った。

色は「空間」を生み出し、「表情」をぼかす。
色の無い世界は「空間」を失い、「表情」に目を向ける。

現代人は色のない世界をほとんど体験しない。
街は夜でも色をもち、寝る5分前まで色をもった画面を眺めている。
それによって見逃している「表情」がものすごく多いのではないか、と感じた映画鑑賞だった。

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