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500文字の建築試考「現象 in SeaLanch」

2020年9月21日。

アメリカ西海岸、サンフランシスコから北に100マイルずっと太平洋を眺めながら運転し、たどり着いたのがチャールズ・ムーア設計のシーランチ・コンドミニアムだった。

この建築に宿泊、しかも2泊できたことは、間違い無く人生における最高の建築体験の一つとなった。

では何が最高なのか。
雄大な景色か。
細部までこだわり抜かれた設計か。
巨匠が自ら作った別荘に泊まれたと言う歴史の重みか。
このどれもが最高たる所以だが、一言で表すと次の言葉だと思う。

地球への没入感。

この一言はこのシーランチ・コンドミニアムでの現象体験の全てを表している。

このコンドミニアムに到着したのは夕方だったが、部屋に入ると同時に西向きに置かれたソファと大きな窓の奥にちょうど夕陽が沈むところだった。
夕陽の色を映した太平洋と、橙と紫の混ざった空は1秒毎に表情を変えて時間の移ろいを豊かに示した。地球の時間を感じた。

軽く1時間以上、空と海に見入っていると、日は沈み、何も見えなくなった。
と同時に、空には満点の星空が浮かび上がり、暗い海からは荒くしぶきを上げる波の音が聞こえるようになった。今度は星と波に包まれるようだった。

朝を迎えると、もやがかかるシーランチの崖から、朝日が差し込み、岩や波がキラキラと光り始める。地上のすべての物質が光を待ちわびていたかのように表情を変えた。

本当はもっともっと地球に没入できる体験をしたのだが、500文字なのでここまで。

あのソファでもう一度、夕陽を眺め考えたい。

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