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蹴球邂逅録 〜アレ (マドゥラ島🇮🇩)〜


人は彼を、”アレ・ガウーショ”と呼ぶ。
ジャワ州東部ラモンガン出身の生粋のインドネシア人であるが、本名が難解な故、憧れのブラジルをイメージした名を自ら名乗り、周囲にもそう呼ばせている。
彼は、マドゥラ・ユナイテッドで強化部として、主に外国人選手の事務周りや
日常生活における世話係をしている。
自身も、オマーン2部リーグ等でプレーした経験があり、流暢な英語と独学で
身に付けたポルトガル語を操る。
そして、異国で暮らす選手たちへの気配りも抜かりない。

この日、彼は、オーナーが上積みした勝利ボーナスを、各外国人選手に振り分け、
口座に入金する業務を行なっていた。
アレは、胸を張る。
「今まで、多くのスタッフがちょろまかして、自分の懐に入れていたのさ。
 でも、オレは一切、そういうことはしない。オレほどちゃんとした人間は、
 この辺りじゃ、そうそういない。だから、クラブはオレを信頼しているんだ」
この日も、何度も何度も金額をチェックしたのち、銀行の窓口へと足を運んだ。

その傍ら、しばしば彼は、
選手から黒塗りのメルセデスを借り、我が物顔で乗り回している。
「多くの女性が羨望の眼差しで見てくれるんだ」とのこと。
たしかに、外国人選手が住んでいるホテルのフロントの女性も、入金に行った
銀行のカウンターの女性も、ウィンクして彼を迎え入れていたような…。

そんな彼のことを、『ドラえもん』を観て育ったインドネシア人選手たちは、
”スネ夫”とも呼んでいた。

アレはこの日、
マレーシアのクラブから新加入する、リベリア人選手の書類を作成していた。
リーグへ提出するこの書類に、万一、不備があったら、選手のデビューが遅れる
可能性も生じてしまう、責任重大な業務である。
彼は、いつになく真剣な眼差しで、リベリア人選手のプロフィールを見遣りつつ、
慎重に慎重に、リーグ発行の登録シートに書き込んでいった。

ひと段落したところで、ふと彼が呟いた。
「この作業をやっていると、新しい選手と出会える楽しみもあるけど、
 ちょっと寂しかったりもするんだよね…」

外国人選手の世話役でもある彼にとって、新たな選手に出会うということは、
今まで時間をともにしてきた選手との別れも意味する。
誤字や記入漏れが許されない事務作業の中で、彼の脳裏には、去りゆくスペイン人選手との日々がフラッシュバックしていたのかもしれない。

作業を終えた直後、
アレは、ひとつ、大きなため息をついた。

こうして、また一つ、クラブに新たな歴史が刻まれていくのだな、と思った…。

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