蹴球邂逅録 〜郷土愛 (マドゥラ島🇮🇩)〜
優勝争いを繰り広げる宿敵との、一進一退の激闘を制し、
歓喜と昂奮と安堵が充満する、試合後のロッカールーム。
そこへ、満面の笑みを浮かべながら、クラブのオーナーが入ってきた。
ベンチに腰を下ろしていた選手・スタッフは立ち上がり、すぐさま彼を取り囲む。オーナーは、選手たちに二言三言、柔和に語りかけたのち、
徐ろにポケットから分厚い財布を抜き出し、高らかに叫んだのだった。
「今日のボーナス、上積みするぜーー!!!」と。
刹那、ゴール直後のごとく、選手たちの咆哮がこだました。
伝統的な雄牛レースで知られる、インドネシアのマドゥラ島。
彼の地をホームタウンとする、マドゥラ・ユナイテッド。
若かりし日に日系企業で働いたのち、自ら会社を興し、
ジャカルタで財を成した島出身のオーナー、クォサシ氏は、
愛する郷土のサッカークラブに、惜しげもなく私財を投じ続け、
今やリーグ優勝を狙えるほどのチームに育て上げた。
そんな彼を、島民誰もが敬愛している。
とかく、オーナークラブというと、
現場介入や独善的な人事権の行使等、ネガティブなイメージもなくはない。
しかし、このクラブは明らかに違う。
選手もスタッフもサポーターも、島の人みんな、一丸なのだ。
こんなオーナークラブもあるのだなと、、、
長らく故郷のプロヴィンチア(地方市民クラブ)に携わっていた僕は、
ロッカールーム内で、ひとり、しみじみと思うのであった…。