牡馬クラシック 冠の軽重を問う その3


概要

前回までの記事では中央牡馬三冠競走の後、
クラシックの成績と(古馬での)競走能力を比較してみました。
ダービー馬が意外とふるわなかったり、その後GI勝ちが多いのは菊花賞馬だったり、皐月ダービー二冠馬の引退が超早かったり、三冠馬がヤバかったりしたわけですが
一般に牡馬三冠競走の範となったイギリスクラシックは繁殖能力選定(と、競走馬生の本編となる古馬長距離路線へのステップ)のための競走でした。
現実、必ずしもそうとはかぎりませんがクラシック馬は種牡馬適正が高いはず、じゃあどの競走を勝った馬が優秀なんだ?

ということで比較してみましょう

対象競争

前回、前々回と同じく対象にしたのは1983年以降のクラシック競走です
面倒なので表は据え置きですが、まだ種牡馬成績云々する段階ではない馬は除外します。具体的には全部揃っているのは2015年世代まで、その後はディーマジェスティ、サトノダイヤモンド、アルアインまでとします。

JRA牡馬クラシック勝馬(1983~2023)

種牡馬成績を比較する

はい、じゃあ例によってAEI,CPI,AEI/CPI,産駒数(血統登録数)を出してみましょう
数字の出所はJBIS、収集時期は2週ほど前なので現役種牡馬は若干変わっている(更に言えば今後変わる)可能性があります

種牡馬成績一覧

対象馬は71頭、うちAEI≧1が21頭、AEI>CPI≧1が8頭。古馬成績でも感じましたが厳しい世界っすわ。

競走別に見てみましょう
皐月賞
産駒が全然振るわないパターンでなければ200頭前後は見てもらえる模様
一冠で1000頭超えたのはアグネスタキオンとダイワメジャーのみ
AEIでもこの2頭がツートップ
あまり種牡馬として成功したと言える馬がおらず、チャンスは割と貰えるけどあまり結果が良くない傾向があると言えそうです
TMオペラオーなんかは社台SS入りしていたらもう少しチャンスがありましたかね?(同じオペラハウス産駒の二冠馬メイショウサムソンは社台SSから)

ダービー
こちらはかなり厳しい成績でも200頭前後はもらえるようで、皐月賞馬よりも更にチャンスがもらえる傾向にあります。
一冠馬でもフサイチコンコルド、スペシャルウィーク、ジャングルポケット、タニノギムレット、キングカメハメハ(変則2冠ですが)は産駒が1000頭超えており大種牡馬と言っていいと思います
1990年以前を見てもダイナガリバーを中心に比較的産駒数が多いですね
その他、アドマイヤベガ(4シーズンで早世)、キズナ(現役)など割と打率は高い傾向にあると思われます。

菊花賞
種牡馬入りしていない馬が複数いるのが目につきますね
サクラスターオー(87)、ライスシャワー(92)はさておき、デルタブルース(04)、ビッグウィーク(10)が種牡馬入り「できていない」…
種牡馬入りしていても二冠馬含め産駒100以下が9頭もいます(エアシャカールは初年放牧中事故死なので数に入れていいかわからんが)
皐月ダービーから有力視されていたけど、結果的に菊花賞だけになったようなパターン(ダンスインザダーク、エピファネイア)
古馬GI複数勝って種牡馬としてもようやった(マヤノトップガン、マンハッタンカフェ、キタサンブラック(?))は成功と言ってよさそうですが、かなり見切られるのが早い傾向があります
トーホウジャッカル辺りはもう少しチャンスがあってもいいと思うんですが…

二冠馬
ミホノブルボン、サニーブライアン、セイウンスカイあたりはかなり露骨に少産駒数、低CPIで生産側の評価(産駒誕生前後ともに)
いずれも血統背景的に苦しいところがあるのと、逃げ馬なのでスピードの絶対値が低いという評価でしょうか。
内国産種牡馬不遇時代のミホシンザンは別として他は期待されてそれなりに応えている感触はありますが、ダービー馬辺りと比べるとそんなに差はないかな、という感触(特にAEI/CPI)

三冠馬
2005年のあやつ以外はめっちゃ優秀なのは出てませんね
時期を考えるとシービーも皇帝も健闘しているとは思いますが…ブライアンは一子相伝(ロベルト系はよくある)前に亡くなったのが残念
オルフェーヴルはダート種牡馬だと判明するというまさかの展開がありこの先指標面では回復するような気がしますが、最上級馬のデカイ賞金は海外なのでAEIには反映されないような…

グラフで見る
項目を絞ってグラフ(散布図に)してみましょう

クラシック勝馬種牡馬成績 AEI
クラシック勝馬種牡馬成績 AEI/CPI
クラシック勝馬種牡馬成績 産駒数

あまり新しい気付きはありませんが
・1996以前がパッとしない
→マジでサンデー仔以降なんですね、内国産種牡馬がそれなりの期待度と実績を持って語れる水準になったの…というわかりと
それ以前の種牡馬入り勢はサンデーサイレンスと直接競合しているのがしんどい、ということがわかりますね。
・2005にヤベーのがいる
・2004ダービー馬、2015菊花賞馬もなかなか
・2006~2012辺りまでパッとしない
→AEIは全体平均1になる指標なので、2004,2005の大物の影響でこの辺りは明らかに割を食っていますね…
・最近(2013世代)あたりから盛り返し傾向
・AEI/CPIが0.5を切る(≒基本的に全然アカン)のも結構いるが、露骨に多いのは緑色(=菊花賞
ぐらいですかね

平均で比べてみる

さて、平均を取ってみましょう

クラシック勝種牡馬 勝ち競走別平均

「過重」とついている下三行についてちょっと説明します
元々、産駒一頭当たり獲得賞金の多寡で出す指標を種牡馬数で平均を取るとちょっとナニかなということで産駒数で重みづけをしています
なので「過重」がついている方は「産駒」という単位で見た時の成績、期待度、期待度に対する能力というような数字になります

ひとまずついていないほうを見ましょう
こちらは「種牡馬」という単位で見た場合の数字ですね

クラシック馬種牡馬成績 平均

まず産駒数とAEIとCPIを見てみましょう
明らかに 三冠 > 二冠(皐月・ダービー) ≧ ダービー >> 他です。
全部そうです。
ニワトリとタマゴの関係としてどちらが出発点なのかはよくわかりませんが、明らかにそういう成績傾向と期待傾向があります。

一方AEI/CPIになるとAEIとCPIは相殺されてあまり見て取れなくなります。一応
・他の一冠馬よりはダービーの方が筋がよさそう
・三冠馬はそれなりに信用できそう
ぐらいは言えますかね
また、皐月・菊二冠のAEI/CPIがよさそうに見えますが、CPIが倍違う状態でこの数字を語ることにあまり意味がないので、なんとも言えません
(この指標は極論AEI,CPI各1とAEI,CPI各5の種牡馬の価値を同じにしてしまうが、実際は後者の方が圧倒的に高価値)
ちなみに皐月・菊花二冠は露骨に産駒数が少ないんですが、これはエアシャカールの早期事故死と、セイウンスカイが雑草血統で極端に産駒が少なかったせいです

過重平均の方を見てみましょう

クラシック馬種牡馬成績 産駒過重平均

単純平均と比べるとかなりならした傾向になりましたね。要するに能力と人気の低い種牡馬の影響度が減って、能力と人気が高い種牡馬の影響度が増しているので、人気と能力と期待度はだいたい同じところに収束する、という話のような気がします。
一冠馬は大差、というわけではありませんがダービー>菊花>皐月という傾向がありますね。これまでも見えていた通りのところに収束したといえそうです。
二冠馬についてはおおざっぱには単純にダービー馬or菊花賞馬という理解でいいのかもしれません。結局傾向は似ているので…
なお、三冠馬がヤバいことになりましたね、一番産駒の多いあの馬の寄与度が高くなってそりゃこうなるな、と言うことです

まとめ

・種牡馬成績、期待度、人気は明らかに
三冠 > 二冠(皐月・ダービー) > ダービー > 他(皐月、菊花)
・一冠馬は
ダービー > 菊花 > 皐月
ただし、菊花賞馬は見切られるのが皐月賞馬よりも早い傾向がある

(古馬)競走能力と異なる傾向が出てきて面白かったですね
ダービー馬に早期引退が多いのも種牡馬価値がある程度担保されているから、と言えそうです。


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