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文通相手のおばあさん
私は手紙を書くのが好きだ。最近は無精になっているが、友人に手紙を書くときには便箋やシール、切手にも気を配れるときには配って手紙を送る。
昔、文通をしていたおばあさんがいる。学部生時代、寮生活をしていた時期に、当時コミュ障だった私は同年代の人と最初上手くなじめず、休みの日には近所を散歩したりして過ごしていた。その時に出会ったおばあさんだ。
おばあさんは、藤棚の下のベンチに座っていた。熊蜂のような蜂がブンブンと藤棚を覆っていて怖かったけれど、私はなんとなしにおばあさんの隣に座った。「暑くなってきましたね」と私が話しかけると「そうですねえ」とおばあさんは返す。「蜂、怖くないですか」と尋ねると「大丈夫、こちらが何かしなければ何もしてこないからね」と仰った。
元々おばあちゃん子だった私はお年を召した方に気に入られることがままあって、藤棚の下でひとしきりのんびりと話をした後、「よかったらうちでお茶でもどうですか」と誘われた。
私は実の祖母によく花をプレゼントしていたから、そのおばあさんにも花を、と思い、花と手紙を持って、ご自宅の玄関に置いておくこともあった。そのおばあさんは切手集めが趣味で、自分で押し花はがきを作ることも趣味にしていて、私たちの文通は相当な枚数に及んだ。たまにお茶に招かれることもあった。
「私はねえ、心臓に人工弁が入っているの」
「もし息子がまだ嫁をもらっていなかったら、お嫁さんに欲しかったくらいよ」
おばあさんはいつも優しく私に話しかけてくれた。
最後に会ったのは、旦那様がいらっしゃったときで、一緒に写真を撮ってほしい、とお願いされたときだった。旦那様には「娘みたいなものよ」と言ってくださった。その直後に私が病気になってしまったから、どうされているかはわからない。
あの藤棚で、遠くをみつめながらひとりぽつねんとしているおばあさんに、私はどれだけ励まされただろうと思う。
もう天国にいっていらっしゃるかもしれないけれど、どうかご大切に。