営業職はお客様と飲みに行くべき?
営業職はお客様とお酒を飲みに行くべきなのだろうか?そして、この手法は有効なのだろうか、それとも古くて効果の薄い手法なのだろうか?今回は多くの営業職が一度は抱く疑問に答えたいと思う。
飲みに行くのは実は最強の営業活動
少し前の話だが、あるベテラン営業マンFさんと談笑していた時の話だ。
Fさん「川端さん、最近の若い営業マンは全然お客さんと飲みに行ったりしないですね。まあ僕たちとすらほとんど行かないからお客さんとはもっと行かないでしょうけど。最近でこそコロナで全然行けませんけど、僕なんか若い頃からしょっちゅうお客さんと飲みに行ってましたけどね。お客さんと飲みに行くなんてもう古いんですかね?」
川端「古いか新しいかは分かりませんけど、事実として、お客様とお酒を飲みに行くのは恐らく古今東西最強の営業活動だと思いますよ。」
Fさん「えっ?最強の営業活動?なんか意外です。川端さんみたいに緻密な人の口から飲みが最強なんて聞くとは思っていませんでした。」
飲みに行くのが最強の営業活動である理由
これは私が本当に思っていることである。
何故なら、【営業職にとっての営業活動とはお客様との人間関係を構築し、いかにえいこひいきを誘発するかという戦い】だからである。お客様と人間関係を構築し、お客様が営業職の話に耳を傾けてくれる状態になってから、じっくりと商品やサービスの説明をすればいい。これが双方にとって最も無駄とズレのない理想の展開である。
しかし、多くの場合は営業職とお客様という立場にそれぞれ立っているため、互いに時間の無駄であるとどこか認識しながらも営業職は商品のPRという建前から入り、お客様は購買担当者としてその話を聞くという局面からまずは向かい合うことになる。そして、様々なやり取りをする中で、徐々に関係が深まっていく。そして、契約に近付いていく。これが通常の営業から契約になる場合の大まかな流れである。
このプロセスを一気にショートカットしてしまうのが「お客様とお酒を飲みに行く」という選択肢である。
はっきり言ってしまえば、お客様と仲良くなるには何度も何度も商談を交わすより、2時間お酒を飲んだ方がはるかに効果的であり、効率的である。これは友人関係と本質的には何も変わらない。実にシンプルな話である。古くてアナログなやり方だと思い込んでいる方も多いが、テクニックやスキルもほとんど必要なく、これほど合理的なやり方はない。もしライバル会社の営業職とはほとんど飲みに行かないお客様がお相手なら、一気に有利になることだってある。こんなに短時間でお客様と懇意になれる可能性を秘めている手法は他にない。だからこそ、古今東西最強の営業活動であると私が考えているのである。
だが一方で、Fさんのように『お客様とお酒を飲みに行くなんて最早古い手法なのかな?』と思い始めている方が増えたのも事実だろう。また、データ上の裏付けがないのでお客様とお酒を飲みに行く営業職が減ったのかどうかは分からない。また、若い年代にその傾向が顕著であるかどうかも断言はできない。
しかし、この事は多くのビジネスパーソンが疑問を抱いていることではないだろうか?
私自身の恥ずかしい話
一つの例として、私自身の話をしよう。実は私自身も営業マンデビューした20年前にFさんと同じことを感じていた。お客様と飲みに行ったり、ゴルフに行ったりする先輩や同僚営業職に対して「営業としての仕事を全うしているという自信がないから、飲みに行ったり、ゴルフのコンペに顔を出したりしているのだろう。全く古くて、くだらないやり方だ」と内心相当馬鹿にしていた。
それから時が流れて2社目に転職して新しい上司のM所長からこうアドバイスを受けた。
「川端ちゃん、営業は結局人間関係だ。それ以外ない。酒を飲みに行ったり、ゴルフ行ったりするのも必要ってことは憶えておいた方がいいぞ」
今思えば、M所長は私に足りない部分を指摘してくれたのだろう。しかし、一度だけでもお客様と飲みに行ってみようかなとは微塵も思わなかった。その後私の異動でM所長の元を離れ、異動先で実績を残していく中で自信満々だったのもあったと思う。一方で「これだけ結果を出している俺にも知らない営業の世界があるのかな」とずっと引っ掛かっていたのも正直なところである。
M所長を尊敬していたこと、そして自分を否定されたような気持ちで聞いていたこともあり、この言葉は今でも深く記憶に刻み込まれている。
私がその言葉の意味を理解したのは、3社目ですらない。4社目(最後にサラリーマンとして働いた会社)である。この会社はとても小さな製造業のメーカーで営業職も私を含めて二人しかいなかった。当然、都内近郊しかフォローや訪問活動を展開できていなかった。そこで、PRの為に名古屋や静岡などにも度々行く事になった。特に製造業において名古屋は大商圏であり、ほとんどのメーカーは名古屋に営業所などの出先があり、私のように東京から出張で来るメーカーの営業は珍しかったようだ。度々お客様から「泊りなら夜、お酒でも飲みに行こうよ」とお誘いを頂いた。それまでお客様とお酒を飲みに行くことなどほとんど無かった私だが、実際一人で夜過ごすのは退屈であり、何だか勿体ない気がしていた。そんな時、何度かお誘いを頂いていた得意先の営業部長から「名古屋支店のメンバーに声をかけておくから、飲みに行こうよ」と言って頂き、その飲み会に参加した。そこで私は知ることになる。「お客様とお酒を飲むことの意味と威力」をである。
飲み会に参加したその得意先の社員は日中と全く違う顔を見せ、日中の様子からは想像できない本音を語ってくれた。この時の恥ずかしさと焦りは今も忘れられない。
自分のことを相当に優秀だと思い込んでいたのに「こんな簡単なことに気付くのに16年かかってしまっていた事に気付いたからである。
そして同時に気付いたのである。私がこのことに気付かなかった16年間、私が知らないだけで、私のライバル会社の営業職がお客様と酒席を共にし、私の受注状況が見えないところで悪化したことは相当数あったはずだということに、である。
人間には立場や建前がある。ビジネスパーソンなら会社の意向や方針に縛られるのも当然のことである。日中や事務所の中ではそれが全開の状態だろう。でも、それが休憩中だったり、昼食時になれば少しはリラックスするはずである。このように話す場所や場面が変わるだけで建前とは違う一人の人間としての本音を聞かせてくれ、またこちらも話すことができ、結果として人間関係はより深まっていく。
そして、その最高の場が「夜、お酒を一緒に飲んで食事を共にすること」である。
これが古いかどうかは最早関係ない。このやり方が古いか新しいか、時代にマッチしているのか、そぐわないのかという視点で考えること自体が最早古いと言えるのではないか?
何故なら、お客様にそのやり方が古いかどうかなどは関係ないからである。
お酒を飲めない人も大丈夫
多くの方が思っているように、お酒の力を借りてお互い雄弁になるというだけではない。
食事をしながら会話をするだけでも、普段よりリラックスしお互いを知る良い機会になる。
だから、あなたがお酒を飲めないなら、無理に飲む必要も実はない。
私自身はお相手と同じお酒を同じようなペースで飲むのが好きであるが、そこまでやる必要も全くない。ソフトドリンクを飲んでいればいいのである。
(因みに、お客様とお酒を飲みに行くという事が有効であることを証明する簡単な方法がある。
あなたが営業職として、もしライバル会社の営業職がお客様の担当者と頻繁に飲みに行っていると聞いたらあなたはどう思うだろうか?
恐らく危機感や脅威を感じるのではないか。
お客様とお酒を飲むというのはそういうことなのである。)
こうした発想に立つと、様々なことがアイデアとして生まれるだろう。お客様と車で移動中であれば、コンビニに寄り、コンビニのカウンターコーヒーを一緒に飲みながら談笑するということも、実に効果的なコミュニケーション方法であると思う。
これは私の持論であるが「普段事務所で出来る話と、歩きながらできる話と、昼飯を食べながら出来る話と、車の中で出来る話と、コンビニでカウンターコーヒーを飲みながら出来る話と、夜お酒を飲みながら出来る話は全て違う」ということである。
若者の仕事のモチベーション、コミュニケーション能力が低いというのは偏見
冒頭の『今の若い方はお客様とあまり飲みに行かない』という話だが、この話には結論を出す意味も根拠も無いと思う。お客様と飲みに行かない、もっと言うなら先輩や上司と飲みに行かないことと他人とコミュニケーションが取れないことは全く別の話である。
私が社会人になった20年前は「会社の飲み会は仕事」と教えられた。だから、自分の意志で飲みに行かないという選択肢は事実上なかった。それが今は行かないという選択肢が認められ、誘う側もその点に留意する方が増えたというだけではないだろうか。
つまり、仮に若者がビジネスの現場で誰かと飲みに行かないことが本当だとしても、その理由はベテラン世代が勝手に抱いている仕事への情熱の欠如というより、行かなくても許される風潮が生まれたからに過ぎず、本質的には意味のないモノ、面白くないモノに時間とお金を掛けたくないというだけの話である。これは今も昔も何も変わっていない。
だから、楽しい、もしくは意味のあるモノであれば自分の意志で参加するだろうし、事実私がお客様のスタッフと飲みに行く時に参加する若者は決して少なくない。
若者が飲みに行かない⇒若者はコミュニケーションが取れないというのは何の根拠もないただの偏見だろうと思う。
まとめ
まとめよう。
お客様と人間関係を深めるのに、いつもと違う局面でのコミュニケーションは有効。
昼食を共にするでも、一緒にコーヒーを飲むでも何でもいい。
そして、その最高の場面が「夜、一緒にお酒を飲み食事を共にすること」
現在、コロナ禍において、お客様とお酒を飲みに行くのは難しいだろう。でも、それが出来る環境になったら、そういう気持ちで行ってみてはいかがだろうか。
または、そういう話を今からお客様としておいて、どんな店に飲みに行こうなんて話し合っておくというのもいいやり方なのではないだろうか。
こんなことは会わなくても、メールでも電話でも出来るはずである。
私はそれに気付くのに16年かかった。教えてくれる人はいくらでもいたのに、それに耳を傾けなかったからだ。
これを読んでいるあなたがどう思い、どう行動するかは勿論自由である。でも、もしこれを読んでいるあなたがこれまでお客様とお酒を飲みに行くことに否定的であったり、またはそんな発想すらなかったり、或いは飲みに行くことはあっても無意味であると思っているとしたら、この記事を読み新たな気持ちが芽生えたなら私は本当に嬉しい。
何故なら、そのことはあなたが営業という仕事がより一層面白くなる可能性を秘めているからである。