パフスリーブ
(今年のポイントはお袖だな)
流行に疎い私にも判るほど、この夏の女性上着は、袖に多くの変化がある。
ドロップショルダースリーブをはじめ、ラッフルスリーブ、ノースリーブ、ドルマンスリーブ、パフスリーブなどに加え、肩山だけが大きくカットされたものなど種類が多い。
素材に合わせて優雅なものや、奇抜なもの、
キュートさを強調したり、スポーティーで若さが溢れているものなど、千差万別である。
袖の横中央に切り替えを入れ、レースを挟んだものは昔も、あるにはあった。しかし、今はレースや刺繍が以前に比べみな豪華になり、それだけでブラウスの質や、おしゃれ度を高めている。
(洗濯をすれば、レースだけがちぢんだりしないのかしら?)
と心配になるが、今はちぢみや変色なしの糸で造られていると聞く。そのうえ洗濯機対応も可能だとか。
繊細で、豪華なレースがそれほど強靭なものに進化しているとは、、、、驚きだ。
ラッフルスリーブには色々の形があり、目を見張る。ゆったりとドレープを入れた長めのものはエレガントで、着ている人はみな夏の暑さを楽しんでいるように見える。動く度にフリルが揺れ、
腕を撫でつつ風を運んでくるのではないだろうか、とさえ思う。
襟ぐりがなく、脇線の延長に、太い目の袖を付けたドロップショルダースリーブは、
ゆったりとして涼しげだ。袖口にレースのフリルをつけたり、リボンやゴムで軽く絞ったりしている。襟ぐりはやや大きく、着丈はウェストラインで切って袖口と同じく広めのフリルが付いているだけなのにとても可愛いい。
たったこれだけのことでドレッシーなブラウスにかわるのだから、デザイナーの仕事は、さぞや楽しいだろうと想像する。
多くの種類があるなかで、あまり見かけないのが提灯袖だ。袖の上下にギャザーをとり、カウスでまとめた提灯型の袖である。両腕に膨らみがあると肩幅が広く見え、太ったイメージがつながるから流行らないのだろうか。ローンや、ジョーゼット、オーガンディーのような素材では形が崩れてちょうちん袖になりにくい。張りがあり、そのうえ
洗濯しても皺にならない適当な生地がないのかもしれない。
高校生のころ、白のブロード生地て提灯袖に服を作ってもらった覚えがある。ブロードは洗うと多くの皺ができ、かならずアイロン掛けが必要であった。ギャザーの多い提灯袖のアイロン掛けに難儀したのを思い出すと、やはりこの袖は敬遠されても仕方がないのでは、と思ったりする。
パフスリーブと言えば、モンゴメリ著、村岡花子訳の『赤毛のアン』を思い出す。
ちょっとした手違いから、グリン・ゲイブルスの老兄妹に引き取られた孤児『アン』
最初は迷惑があった2人であったが、明るく、
聡明なアンを愛し始める。プリンス・エドワード島の美しい自然の中で、見事に成長していく少女の物語である。
そのなかで、主人公アンがある年のクリスマスに、義父マシュウから贈られたプレゼントがパフスリーブのドレスであった。
『ーーーこんな素晴らしいのってないわ。
あぁ、どんなにお礼を言っても言い足りないわ。まあ、この袖を見て!パフスリーブよ。あんまり嬉しくて夢の中にいるようだわ』
『赤毛のアン』より
幼少期を孤児院で過ごしたアンにとって、
パフスリーブは想像の世界のものであったのだろう。この袖の服を見かけると今もなお、アンの
歓喜する姿がよみがえる私である。