外観要件の規定(広島高等裁判所の7月10日の決定)について
トランス女性の当事者が身近にいる方へ、ひとりの当事者からのメッセージ|らっちa.k.a.めぐみん เม่กูมัง (note.com)
上記のnote記事を読んでいて、速報としては調べる切っ掛けにもなったので助かりましたが、記事内容に対する同意(スキ)の傾向を推測するに問題があるように感じられた(違和感を覚えた)というのが正直なところで、違和感について整理してみようと思いしました。
そもそもこの件については広島高等裁判所に差し戻す際に、『本件は、生物学的な性別は男性であるが心理的な性別は女性である抗告人が、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」とい う。)3条1項の規定に基づき、性別の取扱いの変更の審判を申し立てた事案である。』という事、および『特例法は、2条において、性同一性障害者について、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものと定義し(以下、「性同一性障害者」というときは、この定義によるものをいう。)、3条1項において、家庭裁判所は、性同一性障害者であって同項各号のいずれにも該当するものについて、性別の取扱いの変更の審判(以下「性別変更審判」という。)をすることができる旨を規定している。』と、「本件事案」や「特例法」や「性同一性障害者」についての定義が確認されています。
令和2年(ク)第993号は、特例法3条1項4号の生殖腺の規定について『本件規定に該当するためには、抗がん剤の投与等によって生殖腺の機能全般が永続的に失われているなどの事情のない限り生殖腺除去手術(内性器である精巣又は卵巣の摘出術)を受ける必要があると解される。』という部分が争われた裁判です。
逆にこのことから「抗がん剤の投与等によって生殖腺の機能全般が永続的に失われているなどの事情」はこれまでも考慮する事とされてきたということが伺われます。外観要件の規定についても同様の事が言えて、外観要件の撤廃について話し合われていたのではなく、「常に手術が必要であると解釈すれば違憲の疑いがあると言わざるを得ない」という部分が裁判の争点だったのであり、手術に依らないが外観要件の適用基準に則しているという高裁による判断の方が外観要件の規定の仕方としては正しいと言えるのではないかという事ではないのでしょうか。
(参考・引用文献 【決定全文】最高裁はなぜ、性別変更の生殖機能をなくす要件を「違憲」としたのか | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp) https://www.huffingtonpost.jp/entry/japan-supreme-court-gender-change-rule-unconstitutional_jp_6538bcb5e4b0783c4b9f005a )
なので以下のInfossekの記事で述べられている事は一部で判決の判断理由あるいは判断理由の解釈として則していない部分があるのではないでしょうか。
記事で紹介されている『群馬大学の准教授で、トランスジェンダーについての著書も多い高井ゆと里氏は、「拡散希望」と題し、「5号(外観)要件を適用しない形での戸籍変更が高裁で認められました。これを機に、しばらくのあいだ混乱した情報が飛び交うことが予想されます。(もうすでに、飛び交っています)」とつづり、正しい知識を啓蒙するポストをしました。』について、『5号(外観)要件を適用しない形で』なのかに疑義があると私は思います。そもそも『5号について審理すべく高裁に差し戻し』されたのが切っ掛けでしょう。
記事内容の『5号規定がなかったとしても、性同一性障害者の公衆浴場等の利用に関して社会生活上の混乱が生ずることは、極めてまれなことであると考えられる』というのを『性別違和の人が原因で社会に混乱が起こることは“極めてまれ”』と解釈するのは拡大解釈であると感じました。
性別違和があるならば性別違和に耐えたり抗ったりするものでは無く性別違和がある人というカテゴリーとして扱われるべきだということを受け入れなさいという捉え方はInfossekの記事内容における性同一性障害者に対する理解に基づく考え方であり、本件事案は性同一性障害者として特例法により判断がされたものであり本件事案における性同一性障害者に対する理解というものに偏った捉え方と相いれないものでは無いのかもしれませんが、性別違和の人に対する捉え方としては不十分に感じました。
Infossekの記事の解釈が性同一性障害者に対してだけでなく性別違和の人々についても広く同様に言えるという理解の仕方については、性同一性障害者らしくない性別違和の人に対して「性同一性障害者らしくありなさい」という規範として解釈され得るという懸念を持ちました。
(参考・引用文献 手術なしで性別変更報道に投げ掛けられるデマや差別。裁判所がきっぱり否定“合理的な理由なし”|Infoseekニュース https://news.infoseek.co.jp/article/allabout_109474/#goog_rewarded )
一方、読売新聞の記事では『申立人がホルモン療法を受けたことにより、性同一性障害特例法が定める変更の要件のうち「変更後の性別と近い性器の外観」(外観要件)を満たすと判断した。』とされています。
また、『高裁は決定で、外観要件について、性器が他者の目に触れる公衆浴場などで起きる社会生活上の混乱を回避するために正当だと指摘』しつつ一方で、『高裁は外観要件について「常に手術が必要であると解釈すれば違憲の疑いがあると言わざるを得ない」とも言及した。』とされています。つまり特例法に対する今回の判決から言える一つ目のことは手術の必要性に関する高裁の判断という事です。
なので問題は二つ目の方だと思うんですが、『ホルモン療法を継続的に受けることで、性器の形状に変化が生じることは医学的に確認されており』というのも程度の問題で分からなくはないし、『「手術なしでも外観要件は満たされる」との考えを示した』というのも分からなくはないのだが、『医師による診断でも女性的な体になっているとし、性別変更を認めた。』という事については、本件における申し立て人における何らかの症状の合併によるものなのかについてはこの私の記事では私は深く追求しないものであるとしたうえで、一般論を述べるのであれば「ホルモン療法を継続的に受けることで、医師による診断でも女性的な体になっている」というのは程度の問題であり、『『違憲の疑い』という表現にとどめ、ホルモン療法が必須なのか、どのような外観であれば性別変更が認められるのかといった基準が示されず、不透明感も残った。』という京都産業大・渡辺泰彦教授(家族法)の意見に私は同意です。
つまり「何らかの症状の合併によるもの」を考慮に入れるのであれば、「手術なしでも外観要件は満たされるとの考え」は正しいと言えると思うのですが、その「外観要件」については「医師による診断」が根拠となっていると記されていますが、今回の判決からは今のところ明確な基準が示されているという記事や判例および判決文として私は見つけられていないので、「変更後の性別と近い性器の外観」(外観要件)を満たすと判断されたことについて「医師による診断の内容」という要件があったという事についてしか判断および推測の域を出られないと私は感じました。
(参考・引用文献 性別変更の外観要件、ホルモン療法で満たすと判断…広島高裁が手術なしで変更認める決定 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) https://www.yomiuri.co.jp/national/20240710-OYT1T50224/ )
なのでこれらをふまえた私の立場から、らっちa.k.a.めぐみん เม่กูมังさんの記事に対して私から言えることは拙速な判断の部分があるように感じられたり私とは解釈の相違があったりするように感じられる部分があったという事だけです。
まず私は、性同一性障害者の全てが女性の尊厳を顧みていないという訳では無いと思っています。それはこの記事で言われているところのトランス女性についても同様で、トランス女性の全てが女性の尊厳を顧みていないという訳では無いと私は捉えています。
なので以下の文、『女性の尊厳を顧みない、トランス女性や、その支援者とやらに、本当に当事者を守れるのだろうか。』という表現の句読点の打ち方に違和感を覚えます。
一部には「女性の尊厳を顧みないトランス女性」というのも居ると思いますが、トランス女性の全体が「女性の尊厳を顧みない、トランス女性」という訳では無いと私は捉えています。
また、「当事者を守れるのだろうか」の当事者とは誰の事を指しているのでしょうか。この「当事者」の部分に関する解釈が「生物学的な性別による女性」を指しているのか、「シスジェンダー及び性同一性障害者を含めた法律上の性別を女性として扱うものとされてきている人々、すなわち法律上の既存の女性」を指しているのか、あるいは「シスジェンダー及び性同一性障害者を含めた法律上の既存の女性ならびに記事の著者が言うところのトランス女性を含めた当事者全体」を指しているのか、によっては意味合いがそれぞれ大きく異なってくると感じています。
なお、「生物学的な女性の尊厳や安全を顧みず、そこを侵害してくる人」に対しては厳格に対処が求められるところですが、本件の申し立て人に対して「生物学的な女性の尊厳や安全を顧みず、そこを侵害してくる人」という判断をしたりそういう存在であると言い切ったりするのは拙速な判断であると言えると思います。なので、本件の申し立て人が『生物学的な女性の尊厳や安全を顧みず、そこを侵害してくる』そういう人であることが前提とされているかのように受け取れる話の進め方にはそういう話しの進め方が罷り通って良いのかとの懸念を覚えました。
また、『性自認が女性であるというならば、女性の尊厳や恐怖を理解して、寄り添えるのが当然ではないだろうか』というのは、そうであってほしいという希望は個人のお気持ちとしては受け入れられますが、一般論としてそれは性規範の一種であると私は捉えています。性規範であるからこそ問題が起きるんですけれどもね。
私は「性自認が女性であるというならば、女性の尊厳や恐怖を理解して、寄り添えるのが当然ではないだろうか」という性規範を他者に押し付けることに関しては反対の立場です。法律や場合によっては施設管理者の判断によって運用方針が決定されるべきところで、個々人によって差異が生じ得る性規範を押し付ける事によって解決が図られる事があるべきではないと私は確信しています。
それは「単に性自認が最優先されるべきだという信念」が公共の場で受け入れられないのと同様に、個々人によって差異が生じ得る性規範を押し付ける事は法律や施設管理者の判断による運用方針に時として反し得るでしょうという事です。
もっと詳しく言えば、「生物学的性別こそが最優先されるべきだという信念」という性規範を他者に押し付けることによって特例法が毀損される事があってはならないというのと同様であると私は捉えているからです。
また、『性自認、私は本音としては、そんなものが性別として定義されることなど、オカルトやかつて地動説を嗤った宗教家たちのように、全く筋違いであると考える。』に対して、私は特例法とは法律上の性別の取扱いの変更について扱われているものであり「性自認を性別として定義しているものである」とは捉えていません。むしろ私は性同一性障害者の法律上の性別の扱いを生物学的性別としての性別の定義における女性や男性の範疇に含めることは同様に性別の『定義の暴走による分断』と私は捉えています。
特例法については、特例法が定義しているのは法律上の性別の扱いである、あるいは性自認についても同様に特例法において「法律上の性別の取扱いの変更」において考慮されているものである、というくらいに捉えて頂けることが最良だと現段階において私は捉えています。
むしろ特例法は性同一性障害者を定義するうえで性別の取扱いの変更の審判を申し立てた人の性別について、「性同一性障害者について、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものと定義」と述べているのではなかったでしょうか。
なので、『女性の安全を侵害したり、女性へ恐怖心を与える男性とやらが、女性であるなど言語道断であるべき』という意見なり発言なりについても「女性の安全を侵害したり、女性へ恐怖心を与える」事が即ち『男性とやら』の定義とされるべきではないと私は考えます、それは男性の定義への冒涜です。
本件について私は「生物学的な性別は男性であるが心理的な性別は女性である抗告人が、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき、性別の取扱いの変更の審判を申し立てた事案である。」として捉えていますが、「生物学的な性別が何であるか及び法律上の性別の取扱いが何であるか」という事は記事の著者が言うトランス女性についても特例法適用者についてもあるいは既存の法律上の性別を男性として扱うものとされてきている人々すなわち法律上の既存の男性についても同様に特例法あるいはその他の法律の基準によって判断されているものだと私は認識していますが、「法律上の既存の女性の安全を侵害したり、法律上の既存の女性へ恐怖心を与えたりする人」に対して『女性であるなど言語道断であるべき』というような考え方という著者の解釈と私の解釈には相違があるという事でしょうか。「女性にも犯罪者となる人々が存在する」という観点から、その考え方に対してはシスジェンダーを含む法律上の既存の女性とされている人々に対する『定義の暴走による分断』ともなりかねない考え方であると私は捉え危惧しています。
また、法律上の既存の男性として扱われている人々に対して『あなた自身が、女性にとって恐怖を与える存在となり得ることが、理解できるかと。』いう事に対しては、同様に法律上の既存の女性が法律上の既存の男性および法律上の既存の女性に対しハラスメント等における行為をする存在と見做され得るということを前提としたうえで、常にではなくそうした場合が発生し得ることを認める事は出来るが、常にそうした存在として扱われ続ける事(例えば常に性犯罪者の様に扱われ続ける事)に関しては場合によってはそのように扱い続ける行為自体がハラスメントと受け取られることが出来なくもないのではないかと私は感じています。
(私の旧職場におけるゲイの同僚に対して上司が偏見に基づいた扱いを続けていたと私が感じさせられていたこと、およびそのような扱いをするよう上司から私が求められたことについて、私は私に対する上司のハラスメントでもあったと受け取っています。)
以上の事から、本件における申し立て人に対して、また一般論としてらっちa.k.a.めぐみん เม่กูมังさんの記事で言うところのトランス女性に対して『女性という勲章と、極論を言えば性加害できる免罪符が欲しいだけではないのだろうか』という判断ができるとは私個人としては言う事ができません。
(参考・引用文献 『トランス女性の当事者が身近にいる方へ、ひとりの当事者からのメッセージ|らっちa.k.a.めぐみん เม่กูมัง (note.com)』( https://note.com/lacci0905_meg/n/nb22f3c321fca )
また、以下の記事で逮捕されている人(まだ疑いの段階なので断言はできないけれど、本人の言い分あるいは本人の身分証明が認められなかったから逮捕されたんだろうと思うんだけれども、記事の表現からするとまさか法律上の性別が女性の方に対する誤認逮捕ですらないと思いますが)などの為に、また色々と言われるのではないかと思わされる事および関連する記事を書かなければならなくなる事態が発生し得ることに対して「もういいかげんめんどくさいぞ」と感じますが、通報があった為ちゃんと逮捕されていますという実例としては意味のある記事と言えるのでしょうか。
「心は女性だ」女湯に侵入した疑い 男(37)逮捕 女性客が申告「変な人がいる」 | 東海地方のニュース【CBC news】 | CBC web (1ページ) (tbs.co.jp)
以下、引用文献および参考文献一覧(有料記事の有料部分を除く)
【決定全文】最高裁はなぜ、性別変更の生殖機能をなくす要件を「違憲」としたのか | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
手術なしで性別変更報道に投げ掛けられるデマや差別。裁判所がきっぱり否定“合理的な理由なし”|Infoseekニュース
性別変更の外観要件、ホルモン療法で満たすと判断…広島高裁が手術なしで変更認める決定 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
トランス女性の当事者が身近にいる方へ、ひとりの当事者からのメッセージ|らっちa.k.a.めぐみん เม่กูมัง (note.com)
トランス女性の性別変更「手術なし」で認める 高裁、外観要件満たす:朝日新聞デジタル (asahi.com)
【決定要旨】「手術なし」で性別変更認める 高裁の判断理由は:朝日新聞デジタル (asahi.com)
男性から女性の性別変更、なお高い壁 識者「国会で冷静に議論を」 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
手術なしでの性別変更認める 外観要件満たしていると判断 高裁 | 毎日新聞 (mainichi.jp)
トランスジェンダー女性、「手術なし」での性別変更を認められる。高裁が判断 | ハフポスト NEWS (huffingtonpost.jp)
性別変更における外観要件:手術なしで認められた高裁の判決 - smileブログ (antaka.net)
「心は女性だ」女湯に侵入した疑い 男(37)逮捕 女性客が申告「変な人がいる」 | 東海地方のニュース【CBC news】 | CBC web (1ページ) (tbs.co.jp)