(過去の連載を転記しています)不倫に慰謝料分の価値はある? 肉体関係の有無が重要な「不貞行為」と証拠集めのコツ。
2017.10.02 18:00 初出:wezzy(株式会社サイゾー)
弁護士の佐藤正子です。連載第4回目で取り上げるテーマは「不倫」です。
不倫報道がきっかけでCMを降板することになったり、政党を離脱したりと、芸能界・政界問わず、不倫は様々な場面で注目されています。法律相談でもよく問題になるテーマです。
ここでは、「不倫」のことを、「配偶者のいる男女が結婚相手以外と性的な関係をもつ」こととします。というのも「不倫」は法律用語ではないのです。法律上(民法上)、「不倫」に類似するものとしては、離婚原因の1つとして挙げられている「不貞行為」になるでしょう(民法770条1項1号)。まずはこの「不貞行為」とは何かを解説していきましょう。
離婚が認められるための不貞行為とはなんでしょう?
端的に言えば、結婚相手以外の人と性交(セックス)、あるいは性交類似行為を行うことが「不貞行為」に当たります。
そのため、肉体関係がなかったことを理由に「不貞行為はしていないから離婚はできない」と、配偶者から離婚を持ちかけられた側が反論するといったことがあります。この反論には一理あります。肉体関係がなければそうなのです。
ただし、実際に肉体関係を持っている動画がなければ、肉体関係の有無が証明できない、というわけではありません。
確かに手をつないでいるだけではダメかもしれません。しかし、「ホテル街で手をつないでいたり、車の中で腕枕をして寝ている写真がある」。あるいは「肉体関係があることが前提のメールやLINEが大量にある」、「どちらかの名前でふたりでホテルに一部屋で泊まった証拠がある」などで肉体関係が強く疑われれば、結果として裁判の際に不貞行為があると認められることはあります。もしも、配偶者が不倫しているという疑いがあるのであれば、これらの強力な証拠を集めるようにしてください。証拠となるものについては、後半に改めてまとめておきましたので、こちらもチェックしてください。
ちなみに、男性側がする言い訳として「風俗は不貞行為ではない」というのもあります。しかし、セックスをしていなくても、性器を云々しているだけでも性的関係を持ったことになりますので、配偶者がいる人が風俗を利用した場合も、法律上は不貞行為をしたことになります。
おおよそ不貞行為がどういうものか、そしてどのように証明されるかがおわかりいただけたでしょうか。ここからは、弁護士が不倫についてよく相談される内容について、Aさん(既婚・夫)、Bさん(既婚・Aの妻)、Cさん(未婚でAと恋愛中)を例に紹介したいと思います。
■Cさんからの質問「(不倫相手の)Aが別れたいと言っている。Aから慰謝料をとれるか」
とれません。Aさんが未婚を装っていた場合はともかく、既婚であることを知った上での不倫であれば、Cさんにも責任があります。
A・Bさんには、結婚した以上、「互いに他の人と肉体関係を持たない」という貞操義務があります。Cさんは、Aさんの貞操義務違反に加担したことになります。むしろ、Bさんに慰謝料を支払う立場にあります。A・B夫婦が不倫をきっかけに離婚した場合、Bさんから数百万円の請求が来てもおかしくないです。
■Bさんからの質問「夫(A)の不倫相手・Cから慰謝料をとれますか?」
AさんとCさんに肉体関係(性交やそれに近い行為)がある場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
ただしAさんと離婚するか否か、不倫期間、結婚期間の長さで請求できる金額は変わります。最近は相場が下がっていると言われています。結婚の価値が下がっているのでしょうか……? 裁判官が辟易しているという噂もあります。
■Bさん「離婚を考えています。まだはっきりとまでは決めていないのですが、どうすればよいですか?」
後から離婚を決意したときのために、AさんがCさんと不倫している証拠を集めてください。
一般的に、裁判では証拠が大事です。証拠がなければどんなに説得力のある主張をしても最終的には認めてもらえないでしょう。
証拠として使われることが多いのは、上にもあげたLINEやメールが多いです。
ホテル代を支払ったカードの明細書も大事です。もちろん現金払いの領収書でもOKです。ホテル前での親密そうな写真(キスシーン)などがあれば証拠としての価値は高いのですが、そこまで手堅いものがなくても、ホテルに入っていることがわかるだけでも、肉体関係があったと認定されることは多いでしょう。
弁護士がホテルに問い合わせすることもできます。ただ、何年分もの問い合わせは現実的に難しいので、いつ頃のことを問い合わせるのかは、最終的には問い合わせする側(Bさん)が決めなくてはなりません。配偶者が怪しい行動をしていた時期をメモして残しておきましょう。
問い詰めた後にAさんが不倫を認めたとしても、後から「言った、言わない」と争うことになる可能性もあります。
離婚自体を目指していなくても、「私は、いつころからいつまで誰と不貞行為をしていました。今後はしません。相手とももう会いません。」と書いてもらうことはときどき聞きます。実際に、それでお互いに信頼が回復できる手段にもなるかもしれません。もちろん、離婚したいのなら、離婚届を書いてもらえば一番良いでしょう。ただ、相手の署名押印があるものを持っていても提出するときに相手の気が変わっていたら出しても離婚が認められないことはあります。
離婚には時効がありません。一度目の不貞行為が発覚して数十年も経っていた場合、それだけを理由に離婚するのは難しいですが、何度も何度も不貞行為が発覚してもう耐えられない! という相談はよくあります(法律相談に来る方はむしろそういう方が多いのです)。そのとき、最初に不貞行為がわかった時期は大事な事実ですし、それをおさえておく意味はあります。むしろ長年の裏切りは離婚原因として重要です。生活さえ安定しているなら数カ月間くらい、証拠を集めながら、どういう決着をつけるか、ゆっくり考えればよいのです。なお、慰謝料すら、不倫している事実と、その相手がわかってから請求できるまでに3年も時効があります。
何度も言いますが、証拠が大事です。相手が支払いや離婚をいやがったら裁判で証拠をつきつけるのです。嫌な思い出だから……はやく忘れたいから……といって自ら証拠を捨てるようなことはしないようにしてください。
不倫はあまりに多くのものを失う
身近に不倫の話題が溢れすぎているあまり、赤信号無視のように「バレなきゃいいでしょ」と考えている人が多いかもしれません。しかし実際には経済的にも家族関係にも大事になりかねないことです。不倫がバレると、多くのものを失うことになります。あなたが不倫している相手は、それだけの価値に見合う人なのでしょうか? 離婚してから、あるいは相手が離婚するのを待ってから交際するのではダメなのでしょうか?
先日、ある国会議員が不倫を疑われていました。ドライブ程度ではともかく、ホテルに入っていて朝まで一緒にふたりでいたなら、裁判所ではやはり不貞行為(不倫)していたと認められる可能性があります。もちろん、話題になっていた国会議員が、実際に不倫していたといっているのではありません。あらぬ疑いをかけられないためにも、ホテルで本当に勉強会や打ち合わせをするなら、誰かに立ち会ってもらうことを心から勧めます。
大切なことなので、もう一度聞きたいと思います。その既婚彼氏/彼女、ほんとに数百万の価値がありますか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?