(過去の連載を転記しています)セクハラを受けたらどうする? 「セクハラ罪」はなくても、出来ることはたくさんある。

2018.05.17 00:05 初出:wezzy(株式会社サイゾー)
 佐藤正子(@SATOMasako)です。こんにちは。

 2カ月ぶりの登場になってしまいました。4月は進学・進級の季節でしたね。子どもが通っている保育所の担任の先生が転勤されて、親子ともどもすっかりナーバスになっていました。4月当初から熱を出した子どもを看病しているうちに、怒濤のGW前の進行となって、あっという間に4月が終わりました。

 その間、セクシュアルハラスメントなどの性犯罪が世間を賑わせていました。福田淳一元財務事務次官によるセクハラによる懲戒、元TOKIO山口達也氏の強制わいせつ事件(処分はしないことで終了したようです)……昨年の秋頃からこうした性暴力に関する話題が事欠きません。

 現在、麻生太郎財務相の「セクハラ罪っていう罪はない」という発言が注目されています。そこで今回はセクハラ、特に職場においてのセクハラについて取り上げます。

セクハラが刑事事件になることもある

 そもそもセクハラとはなんでしょうか。厚生労働省は男女雇用機会均等法における「職場におけるセクシュアルハラスメント」を以下のように説明しています

 職場におけるセクシユアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることです。

 つまり「性的な言動」によって職場の環境が悪化したり、それへの対応で被害者も問題を起こしたとみなされ、それにより評価が下がることなどを職場における「セクハラ」としているわけです。

 なお、セクハラは男性が加害者で、女が被害者というケースだけではなく、両方が加害者/被害者になりますし、同性同士でも十分起こります。女性上司が男性部下に行うこともあれば、女性同士、男性同士でもありえます。

ここではあまり言葉のひとつひとつに立ち入りませんが、取引先との飲の場であっても職務の延長と考えられるものは「職場」にあたります。福田元事務次官にセクハラを受けたことを告発した女性社員は、社外と思われる場所で、数々のセクハラにあたるだろう発言を浴びせられていました。公表されている音声データには、女性社員が財務省と森友学園などについて福田元事務次官に質問している様子が収められていましたので、「職場」と考えられるものだと思います。

 また、性的な言動には、言葉だけではなく、ふるまいも含まれます。先ほどの厚労省の資料にもあるとおり、セクハラの内容によっては強制わいせつ罪や強制性交等罪(以前の強姦罪)に問われることもあります。たとえば職場で強制的に性交されたとしましょう。これはれっきとしたセクハラであり、強制性交等罪という犯罪です。つまり、セクハラ罪という法律はなくても、セクハラが刑事事件になることがあるわけです。いやがる人に無理にキスをしたとしても、強制わいせつにあたる可能性がありますので、セクハラというだけで軽いと受け止められることは間違いです。

 一方、性的な発言で嫌な思いをさせることを罪とするような、「セクハラ罪」を新しく作るのがよいのかどうか、今のところ私はあまり積極的には考えていません。言った人は長期間逮捕され、場合によっては裁判を受けることになりますし、立証するために証拠を集めるということは、監視社会を加速化させることも予想されるからです。それは、みなが求める社会なのでしょうか? 職場で常にカメラやICレコーダーがまわっていて、誰がなにをして、なにを言っていたか録音録画されている方がよいのでしょうか?

 気軽に「言われたことはセクハラですからやめてください」と言えるような職場の方がよくないですか? セクハラが起こりにくい社会作りと監視社会はあまり相性がよくない気がします。

セクハラを受けたらなにが出来る?

 では、セクハラを受けた場合、どうすればよいのでしょうか。

 私が弁護士として相談を受けた場合、適切な手段をいくつか提示し、相談者に決めてもらうことになります。必ず裁判をするわけではありません。

 相手に内容証明郵便などを送り、交渉で謝罪や慰謝料を受け取ることもあります。その際に、必要がありそうなら、精神科の受診などを勧めることもあります。弁護士へ相談する前にすでに受診している場合もありますが、その通院費用も請求可能です。ですから、受診するならかならず領収書や明細書を残しておいてください。病名がつくなら診断書を取ってきてもらうと、慰謝料を増やす証拠として使用できることもあります。費用がかかるので、必要かどうかは弁護士に相談してから書いてもらうことを勧めます。

 また、会社には、セクハラがあってはならないとする方針を立て、周知する義務がありますし、苦情窓口をあらかじめ決め、適切な対応をしなければなりません。セクハラを防止する対策をなにもしていないなどの過失があれば、会社に謝罪や慰謝料の請求ができるときがありますし、また、配置換えなどもその際に交渉できます。

 交渉で解決しない場合は、裁判所で解決を求めることもできます。裁判所は裁判だけをしている場所ではなく、様々な制度が用意されています。例えば、労働審判という制度を利用すると、裁判官に加えて会社側・労働者側双方の一般人(秘密は守られます)が助言などを行い、解決への手段を検討してくれます。原則3回までしか行われませんので、裁判するより比較的短期間で解決が望めます。審判の場には、相談者が依頼した弁護士が立会いますし、打ち合わせ等で弁護士が適宜アドバイスしていくことにもなります。労働審判は非公開で行われるものですので、自身が受けたセクハラの内容などが関係者以外に知られるという心配はありません。

 もちろん裁判することもできます。裁判は公開ですが、実際には、相談者の話を聞いた弁護士が書類を作成し、弁護士はそれをもって裁判所に行くだけなので、相談者のプライバシーは守られています。なお、セクハラ内容なども書かれている書類を公開の裁判所で読み上げることはほとんどありません。尋問ということになれば相談者が裁判所に行かなければなりませんが、尋問が行われるまでに合意ができて解決すれば行く必要はないということもあります。

 強制わいせつなどの罪にあたる可能性がある場合は、刑事事件として警察へ告訴することも考えられます。上記の交渉や裁判所での解決とはまた別の手続ですが、両方行うこともあります。

大切なのはセクハラが起こらないこと

 確かに日には「セクハラ罪」という罪はありませんが、いま述べたように、様々な形でセクハラ加害者に対して謝罪や慰謝料を請求することが可能です。

 セクハラを、毎日、あるいはしょっちゅう行く場所である職場で受けたときのストレス度はたいへん高いものだと思います。セクハラ被害に対して、どうするか決めるのはもちろん被害に遭った人です。これから毎日セクハラを受けることになるのか、セクハラ被害を訴えた上司がまともに取り合ってくれるのか、職場がぎくしゃくしてしまうのではないか……などの不安も覚えるかもしれません。被害を受けたことだけでなく、様々な負担がかかるわけで、その告発には相当なハードルがあります。たとえ様々な手段で請求できるといってもそのことに変わりはありません。

 大切なことは、セクハラが起こらないことであり、セクハラしないことです。職場の啓発活動に弁護士として私が講師をしたこともありますが、そういうときに男女問わず、積極的に参加してもらえるととてもありがたいです。 被害者が泣き寝入りしたいためにも、そして加害者にもならないために。

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