(過去の連載を転記しています)大切なのは早期相談! 「誰のおかげでごはんが食べられてるのか」もDVになりうる。
2017.9.4 17:00 初出:wezzy(株式会社サイゾー)
弁護士の佐藤正子です。連載3回目は、DVについて取り上げます。
DV(ドメスティックバイオレンス)はすでに世間に浸透している言葉だと思いますが、メディアでは「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いです。
一方「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」、いわゆるDV法では、DVを「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」とかなり限定された定義をしています。
またDV法は、配偶者(事実婚を含む)を保護するものであって、恋人は対象になっていません。いわゆる「デートDV」といった恋人や友人などの暴力・言動は含まないんですね。ただ、他の法律で保護されることはあるので安心してください。
なお、よくDVについて「女だけが保護されている、男は損」という話も聞きますが、保護される人は「配偶者」ですから、当然男性も含みます。どちらか片方に有利/不利な法律にはなっていません。
さらにちょっとややこしいのですが、DV法で保護されるのは、身体的な暴力だけではなく、「心身に有害な影響を及ぼす“言動”」も含まれます。これは暴言や脅迫的な態度など、精神的なDVのことを指しています。
以上がざっくりとしたDV法の説明です。ただし今回は、DV法が対象とはしていないけれど、たとえば、離婚や婚約破棄などの関係が破壊されたときに問題になるかもしれないものを取り上げようと思います。というのも、この記事が「これされるの、いやだな……」と感じたり、「(やっちゃった、言っちゃったけど)まずいかな……」と思う人が、(法律相談にかかわらず)誰かに相談したり、対応策を考える、自身の言動を軌道修正するといったきっかけになって欲しいからです。
DV法が認めている「暴力」以外でも、暴力や言動がいわゆるDVとして離婚や慰謝料の額を決めるときに問題になることはあります。今回は、(DV法が対象としているものも含め)どういったものがDVとして扱われる可能性があるか、「身体的」「精神的」「性的」の3つを取り上げます。内閣府のサイトを参考にしましたので、もっと急いで詳しいことが知りたい方はそちらをどうぞ(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/dv/02.html)。
1 身体的なもの
殴る、蹴るなどは、いわゆる典型的なDVとして想像されるものかと思います。どんな些細な暴力でもされた方のショックは大きいものです。もちろん、DVになりますし、夫婦の関係が壊れるもとです。「ちょっと叩かれたくらいで大げさだと言われるかも……」と躊躇している友人がいたら、「それはDVだよ」と教えてあげてください。
2 精神的なもの
例:「誰のおかげでごはんが食べられてるのか」「生活費を渡さないぞ」と怒鳴る
これもDVにあたることがあります。専業主婦やパートタイムなどで収入が少ない人にとって、むしろこれほど怖いことはないように私は思います。
実際に、生活費がもらえない専業主婦が生活費の支払いを求める調停を起こして相手に請求することも可能な場合が多いです。また相手と離婚したければ、生活費をくれないことを離婚の理由に挙げることも(収入がない、少ない場合は)可能です。
例:友達と連絡をとるのを制限する、友達とのメールを毎日見せるように言う
これもまたDVになりえます。あまりにも精神的に束縛されている状態で、私にはもはや拘束のように感じます……。ただ、これだけで離婚できるかどうかというと難しいところです。メールで浮気がばれたら別ですが。
なお少し脱線しますが、よく法律相談で「夫(妻)のメールをチェックしていたら浮気がわかりました。どうしたらいいですか?」と言われることがあります。
見られた方も(もし見られたことに気づけば)嫌な気持ちになりますし、そのあとどうしたいのか考えずに見るくらいなら、見ようとしない方がいいです。私は、夫婦でもお互いに言えないことがあるものだと思っています。知らない方がいいこともあるでしょう。精神的な安定は家庭生活円満のために一番大事ですよ、たぶん。ただ離婚したいなら、気づかれないようにメールチェックなどして証拠を集めておく必要があります。証拠を集めるのは法的にDVや離婚を対処する際にとても大切ですから、覚えておいてください。
3 性的なもの
例:避妊を頼んでも避妊しない
妊娠はもちろん、中絶、出産をすると、女性の身体に大きな負担がかかります。ドラマにもなった漫画『コウノドリ』(講談社)を見ればわかるとおり、現代でも出産の際に亡くなる人だっています。そして妊娠等で身体的な負担を負うのは女性だけです。避妊を頼んでいるのに、それを拒否して性行為をするのはDVに十分あたるでしょう。
私は、この仕事を通じて、DVがある家庭は子どもが多い、また中絶が多いと感じています。DVを受けていると、相手に「避妊してほしい」と要望したらなにをされるかわからないと恐れて、なかなか言えないのでしょうね。言っても無理矢理されたという話も聞きます。
DVが認められた場合、離婚や慰謝料も認められることがあります(以上挙げたものがひとつでもあれば、必ず離婚ができるというわけではないです、念のため)。また、DV法の対象であることが認められると、離婚とはまた別に、配偶者への接触が禁止されたり、家から半年出て行くなどの措置が取られることもあります。
結果としてDVを長期間受け続けると、精神的な自由を制限されることになり、いろいろな影響が受けた方にも出ます。今は、DVをしてしまう人に対する自助グループなどもあります。もし自分の言動にDVの要素があるかもしれないと思うのであれば、一度相談に行ってみるのもいいかもしれません。
どんなに円満な関係を築いていると思っていても、すれ違いは起きてしまうものです。それがDVとして認定されるような事態まで深刻化する前にお互いが「(こう言われた、されたとき)こうだった」と伝え合うことができるのが理想です。ただ、なかなか相手にそれを切りだせない場合は、身近な人に早めに相談したり、弁護士や専門機関に行ってみるなどの対応をとってください。
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