私の未完のプロジェクト
それは幸福茶房に行くことでした。
そこで、岩盾さんに色々なお話を伺いました。
書店修行の始まりは第一書林だった話。
「当時は30坪程度の店でも、文庫担当、雑誌担当、実用書担当、とそれぞれ 1人が担当し、学参は2人いて、経理は3人いて、外商も別にいて、といった具合でそれが全部、正社員だったんだですよ。だからそのくらいの規模の店でも10数人が正社員で食べられてた」「ヘェ〜!なんか今では想像できないくらい本が売れていたんですね〜」「今なら社員は1人2人くらいだよね」
不勉強で知らなかったですが南長崎店が幸福書房の1号店だった話。
「オープンが1977年、今はシャッターが目立つけど、当時は人がわんさかいた商店街でね。ここでなら商売になると確信するくらいに」「なんか人が集まるスポットとかがあったんですか?学校とか、ターミナルとか?」「いや昔は商店街自体が人を呼ぶ時代だったの。そこに行けば何でも揃うから。当時はスーパーなんか無くて、それこそコンビニは無いし」「そうかぁ、商店街自体が今のイオンみたいな感じだったんですね、ヘェ〜」「当時はトキワ荘なんかも別に今ほど有名でもなくて、古くなったから壊しちゃおう、という感じで誰も反対なんかしませんでしたよ(笑)」
そして、その3年後の1980年に私が知っている幸福書房代々木上原店がオープン。
「本屋の仕事で一番楽しかったのは本を「買う」ことでしたね~」「えっ、本を売るじゃなくて???仕入れ?」「そう、昔はそれこそ店売が沢山あったでしょ、神田村とかトーハン、日販もそれぞれデカい店売があって、まぁ回るのも大変だったけど」「私のイメージだと店売ってベストセラーの配本が少ない書店さんが、追加分を抜きに行く場所みたいな感じかと思ってましたけど」「ウチは別にそんなベストセラーを売る店でもなかったから、それより単品を普通に自分が本屋で本を買うような感覚で店売に行ってたんですよ。」「なるほど、それは楽しいですね、半分趣味というか」「そう、でもそれが出来たのは後ろにお客さんがいたからなんですけど。「この本だったらあのお客さん絶対買うな」とかを想像して。」「脳内顧客データベースみたいなものですね~」
そして2018年2月の閉店の話。
「最後の方は本当に苦しかった。月末、振り込みとかじゃなくて、取次に直接入金しに行くんだけど、良かった時は請求の8割くらいの手形を切って持って行けば「じゃ残りはまた来月ね」みたいな感じだったけど、最後の頃は絶対全額になって「じゃ3日後に不足分持って来て下さい」と。月末に家賃も払って、給料も払って、もう手持ちはないんだけど、そうすると、そのあとの3日分の売上をそれに当てるしかなくて」「ということは翌月の売上を食っちゃうってことですか?」「そう」「それは辛いですね~、自転車というか。翌月は翌月で厳しいですしね~」「家賃契約の更新が5年ごとだったんだけど、もう5年とはいかなかったね~」
そして2018年10月に現南長崎店(店名は幸福茶房、店の幌は幸福書房のまま)をオープン。幸福書房南長崎店は代々木の店オープン後も20年弱は続けていて、奥さんが切り盛りしていた。1996年に一度閉じていた。
「代々木店の閉店後はしばらく遊んで暮らしてたんだけど、遊んでいるだけだとね、何か飽きてしまって、それで昔店舗だったココをね、少しずつ少しずつ、自分の手で」「そうなんですか。そう言えばよく見れば(笑)」「それこそニトリとか、島忠とかホームセンターに資材買いに行って、ゆっくり作ってオープンできたのが2018年の10月でね」
「なるほど~」「でも今回の騒動で少しは当てにしていたトキワ荘ミュージアムのオープンも先延ばしになってしまって」「そうですよね、さっき見てきましたが、3月22日オープン予定でしたよね」「でも別に今は売上がそんな無くても、土地代は払い終わってるし、人件費は夫婦だけなので0だし、コーヒーはすごく上がりがいいので、一杯売って●円儲かるから、●円の本、3冊分だからね。それで近くの友人で毎日コーヒーを2杯飲んでくれる人がいて、それだけで光熱費出るからね。まぁそれ以上がおこづかいだね」
でも「昔みたいには楽しく無いね」とも仰って、
「やっぱり新刊が来て、それを捌きながら、お客さんの顔を思い浮かべて、コレいる、コレいらない、コレもっと。コレがここで、コレはこの本横に入れておけば、あの人が買うだろうとか、やっぱりそういう動きが楽しいんだろうね」「流動的な物流を捌いて捌いて店づくりするダイナミズムみたいな」「そうだね~」
と一段落して、私からの提案。
「今、御書印というのがありまして、参加規定とかよく分からないんですけど「和楽」が中心となってやってて、だからハンコは小学館が作ってくれて、御書印帖は多分タダだし、御書印代は200円くらい貰えて、第一書林もやっているので聞いてみたらいかがですか?」「面白そうだね、今度千葉に行くから聞いてみますよ」
御書印参加店の長崎次郎書店を見て
「昔、代々木の店にいたら、いきなり棚のサイズとか勝手にメジャーで測りだした人がいて、店でも乗っとるつもりかと、まぁその頃は乗っとって欲しいくらいだったけど、で測り終わったら挨拶しに来て、それが長崎社長で「実家に帰って、店をリニューアルするんです。」と、学生時代によく店を利用していただいていたみたいで」
と本当、話は尽きない。
コーヒーをごちそうになったので、くすみ書房のこちらを購入。
皆さんも是非お店に行って書店談議に花を咲かせてみてはいかがでしょうか。御書印があれば少しはその動機付けが上がるかなと思った次第です。桜満開のトキワ荘公園のベンチでこの記事を書き上げ、アイホンの充電がなくなってきたので帰ります。
ちなみに幸福書房の年表は『本屋の雑誌』のものが非常に参考になりました。
以上で、私の未完のプロジェクトと完了です。
(撮影・奥様)
岩楯さん、本当に楽しい時間をありがとうございました!
(執筆秘話)
昨日の中井からの帰り道に実は寄っていました。
お店は閉まっていたのですが、お店を見てしまうと、どうしても会いたくなって、変態魂でインターホンを押してしまいました。奥様はいたのですが、ご不在で「明日は昼からいます」とのことでの今日でした。必然の訪問です。ちなみに、特に取材とかではなく、アポなしで雑談しに行った物を『本屋の雑誌』の年表を元に、脳内レコーダーで再構成したものなので、私小説ならぬ他人による彼小説くらいに受け取っていただければ幸いです。ちなみに平日の午前中は近くの小学校の用務員をされているとのことです。
よく、ちなむ男・佐藤学
「完成したヘビについ足を足したくなる、足どころか角、立髪って足してくよな過程がとにかく好き♪」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?