マガジンのカバー画像

毎年5月31日、私は決まっておすしを食べている。

17
3歳で原因不明の病に冒され20歳まで生きられないと言われた兄にまつわる数々のストーリーをvol.1~vol.14まで連載していきます。読んでくださる皆さんとひとつの作品に仕上げて…
運営しているクリエイター

#病院

Vol.1 おすし 【毎年5月31日、私は決まっておすしを食べている。】

兄の好物だった、おすし 。毎年5月31日、わたしは決まっておすしを食べている。 おすし発作が治まり、また束の間の穏やかな時間が流れ始めた。母は一息ついてソファに横になった。わたしはパイプ椅子に腰掛け、ぼんやりと兄を眺めている。いくら危篤と言われてもまるで実感がない。悲しくてその現実を受け入れられないのではない。きっとこの一時も笑い話のひとつになる日が来ると信じて疑わなかった。なまぬるい病院の個室に注ぐ柔らかな初夏の日差しが、平和な日常を思い出させてくれる。外はこんなに爽やか

Vol.12 旅立ち【毎年5月31日、私は決まっておすしを食べている。】

20歳まで生きれないと言われた兄にまつわる数々のストーリ。幼少期から順に連載しています。毎週土曜日更新中。 Vol.11 太陽 はこちら 最期の思い出姉が来てからは、交代で兄の容態を見守った。たとえ代わると言っても、結局母はうとうとするだけで兄のそばを離れることはなかった。 兄は時折体を左右に激しく揺さぶり、頭をベッドの柵に打ち付けて発作を起こした。発作の間、わたし達は彼の肩をベッドに力いっぱい押さえ付けた。どこにそんな力を蓄えていたのか不思議なくらい、彼は抵抗する。

Vol.11 太陽【毎年5月31日、私は決まっておすしを食べている。】

20歳まで生きれないと言われた兄にまつわる数々のストーリ。幼少期から順に連載しています。毎週土曜日更新中。​ Vol.10 インドはこちら ゴミゼロの日応急処置の手術をしてから約2年。あの手術は本当に必要だったのかと疑問さえも消えた頃、兄の容体は急変した。それでも、いくつもの危機を乗り越えてきた彼だから、当然また過去の武勇伝のひとつになるだろうと信じていた。 母とわたしが泊まり込みの看病を始めてからもう10日が経とうとしている。 ゴミゼロの日。それは付き合っていた彼氏