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【イギリスの妊娠・出産③】出産直後の避妊処置、自宅での早期中絶で、女性の心身と人生を守る

2021.10.22by 岡本 聡子

Hanakoママwebリニューアルにともない、私が取材・執筆した記事を、関係者の許諾を得て、こちらに転載しています。

前回までの2回の記事をとおして、イギリスの妊娠・出産からは、「女性が自分自身で決める」という印象を受けました。言われるがまま検査を受け、よくわからないけど我慢して従うということはイギリスではありえません。
イギリスは、世界130か国以上の「経口中絶薬の使用が認められている国」の一つです。しかも、郵送サービスを利用し、自宅で誰にも会わずに行えます。

妊娠・出産すべて、女性が自分自身で決める

イギリスの医療現場では「インフォームドコンセント」が根付いています。

これは「医療者が検討している医療行為について、患者・家族に十分説明・情報共有し、患者側が理解し、自ら選択し、最終的に皆で合意すること」です。受け入れるだけでなく、拒否することも患者の権利です。

健診でさえ、妊婦自身が必要ない、受けたくないといえば受ける必要はありません。

たとえ、自宅出産を勧められないハイリスク妊婦であっても、本人が自宅出産を希望するならば、助産師はその女性にリスクや可能性を説明し、本人が納得していることを確認したうえで自宅に出産をサポートします。

イギリスでは出産時のPCR検査が女性に勧められますが、拒否することも認められています。ただし、医療者の安全を守るのは地方自治体の義務として定められているため、医療者が防護服を着るなど対応をします。

日本での出産経験しかない私からすると、イギリスの妊婦さんはいささか自由すぎる気もしますが、長い年月をかけて「権利」を勝ち取ってきた歴史があるからでしょう。さすが、マグナカルタ(王の権利を制限)、権利章典(人権)の国です。

この「権利を尊重」「自ら決める」がよく表れているのが、今回のトピック「中絶」と「避妊」です。

経済的不安により35歳以上の中絶数が、近年増加(注1)

2020年のすべての年代をあわせたイギリスの中絶率は、人口1000人あたり18.2人でした。1967年に中絶法が制定されてから、もっとも高い数値です。 新型コロナウィルスの流行による経済的不安は、2020年の中絶の増加(特に30代後半の女性)の背景になっているとみられています。

実際、2019年から2020年にかけて、18歳以下の中絶率は、1000人あたり8.1人から6.9人に下がりました。逆に、35歳以上では1000人あたり9.7人から10.6人へと増加しています。

誰にも会わず、自宅で経口中絶薬(郵送)を服用できる

イギリスは、世界130か国以上の「経口中絶薬の使用が認められている国」の一つです。

電話問診、処方薬の郵送により、誰にも会わずに自宅で中絶することが可能です。このサービスは”Pills by Post”と呼ばれており、広く受け入れられているものです。

妊娠10週までは中絶相談に電話をかけて問診を受ければ、自宅に経口中絶薬が1~3日以内に届きます。費用はすべてNHSがカバーします。
この郵送物は内容が分からないように梱包されており、受け取りがあったか追跡は行われますが、受け取りのサインは不要です。

郵送には詳しい説明書が同封され、ウェブサイトには服用方法の説明動画やガイドイラストが載せられています。

経口中絶薬についての使用ガイド。 Reproduced with the permission of British Pregnancy Advisory Service (BPAS) and Gough Bailey Wright(関係機関からの使用許可を得ています)
ウェブサイトには、どのタイミングで服用するか、何%の確率でどんなリスクがあるか、何時間後に出血するか、などが細かく示されています。

通常は2回服用ですが、成果が見られない場合は5回まで服用できるそうです。後日、妊娠検査薬を自分で使用し、中絶できたかを確認します。

薬の服用中は、専門家に24時間電話相談できます。
「何かあるかもと不安でも、電話で親身に相談にのってくれる体制があるため、自宅での中絶に大多数の人が満足しています」
と、おざわさん。

この中絶薬郵送サービスの普及により、中絶ケアに早めにアクセスする女性が増え、平均中絶週数が減ったという調査もあります。これは女性の心身への負担を減らす重要な一歩です。
この薬の郵送サービス制度は、イギリスに限らずWHOも歓迎しています。

出産後すぐに避妊処置を行ってから退院

イギリスでは、出産直後に避妊処置を行ってから退院する人が多いそうです。新型コロナウィルス流行、イギリスの公的医療機構では出産後、入院中に女性に避妊処置を提供しています。

例えば、出産直後に子宮や膣にコイルやリングを挿入する腕に避妊用インプラントを埋め込む、注射、など。産後すぐに処置できない場合は、避妊のための受診を予約してから退院します。

前段で触れたように、中絶件数は増加傾向であり、女性の心身や人生設計に大きな影響を与えています。

おざわさんは語ります。
「人生の主役は自分自身です。避妊に前向き・自主的になることが、女性の自信につながります。『今は仕事や趣味を優先したい』『2人目は何年あけてからにしたい』など、皆さん考えますよね? やりたいことをやって、自分の人生を大切にしながら、計画的に避妊して、自分の身体・パートナーとの関係・妊娠・出産を思いきり満喫しましょう。自分の身体や人生のことは自分で決めよう、と女性達に伝えています」

コロナ禍の夏、子ども達は元気に公園で水遊び(ハーバートひとみさん提供)

(文:岡本聡子)

第1回はこちら
第2回はこちら

監修・取材協力:

おざわじゅんこさん
岡山県出身。1998年 文系大学卒業。イギリスへ渡航後、2007年助産師資格取得。以来 Imperial College Healthcare NHS Trust で助産師として勤務。 現在は時短で継続ケアチームに所属。特定妊婦の継続ケア(自宅出産も含む)を助産師チームで進めている。 目下の目標は、医療界のヒエラルキーをなくすこと。 夢は『世界平和』。

西川直子さん
イギリス在住。日本で助産師として勤務後、駐在に付き添い、タイ、イギリス、スペイン、イギリスと10年間を海外で過ごす。現地での日本人ママ向け子育て支援を経て、オンラインで世界中のママ達をサポートするfacebookグループ『世界のママが集まるオンラインカフェ(せかままcafe)』立ち上げや、「助産師オンライン24時間マラソン」を主催。

(注1)イギリス保健省:https://www.gov.uk/government/statistics/abortion-statistics-for-england-and-wales-2020/abortion-statistics-england-and-wales-2020

(この記事は、2021年9月1日時点のデータに基づいて執筆しました)

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