納豆を8個食べた日

 私はめったに給食を残さない子どもだった。しかし、一度だけ盛大に給食を残してしまった日がある。

 中学生の時、給食に出る納豆は、臭いとかなんとか言われてみんなに不評だった。私は別に好きだったので、誰かがくれると言ったらもらって食べていた。いつしか私が納豆好きという情報がクラス中に知れ渡り、その日、なぜか私に納豆をあげることが流行った。

 みんなして「私もあげる」、「俺もあげる」と言いながら、私に納豆を貢いでくれた。

 机の上に、次々と積まれてゆく納豆。あっとゆう間に、私の机の上には、納豆の防波堤が出来上がった。

 今考えれば新手のいじめか、と思われるかもしれないが、当時の私はみんなが納豆をくれたのがうれしくて、納豆を食べまくった。
 みんなの期待に答えなければ。という思いもどこかにあった。

 プチパックといえども、私は8個の納豆を食べた。しかし、給食時間のタイムリミットは、容赦なく来た。

 納豆はまだ残っていた。そして納豆ばかり食べていたせいで、他のおかず(たしか、豆が入ったシチューみたいなスープ)も残っていた。

 私はそれにショックを受けた。こんなに給食を残す自分なんて、自分じゃない。

 納豆を、8個食べたことよりも、残した納豆とおかずのことを今でも思い出す。みんなの期待に、答えられなかった自分。みんなの期待に答えるために、自分を見失っていた自分。
 そして偏る栄養。

 でも多分、みんなはそんなこと気にしていない。こいつ、8個も納豆食ったぞ。くらいにしか、思っていない。