映画『TENET テネット』ネタバレ解説&考察
※この記事は映画『TENET テネット』のネタバレが含まれます。まだご覧になっていない方はご注意ください。
2020年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の映画『TENET テネット』。クリストファー・ノーラン監督といえば、映画『メメント』や『インセプション』、『インターステラー』など、物語の中に難解な部分を盛り込むことでも有名です。ストーリー自体はシンプルなものが多いのですが、そこにCGや実写による幻想的な映像美や難解な「モノ」が加わることで複雑な映画になっています。
物語が佳境に近付けば近付く程、「分からない」と感じるでしょう。しかし、最後には目の前がパッと開くように、綺麗に情報が整理されます!クリストファー・ノーラン監督はまるで魔法使いのようです。
とは言え、1から10まですべて説明してくれるわけではありません。あれは一体なんだったのか?あそこでは何が起きていたのか?考察する隙があります。ここでは数多くある考察の1つをご紹介します。
映画『TENET テネット』解説
解説①【回転トビラ】
あの回転トビラは時間を『逆行』することができます。ただし、タイムマシンではありません。ドラえもんのタイムマシンなら、機械に乗ってものの5分くらいで100年後にいけますし、1万年前にも行けます。しかし、この回転トビラにはそんなことはできません。時間を逆にできるだけです。
もし10年前に行こうと思ったら『逆行』の世界で10年過ごす必要があります。10年後に行こうと思ったら、「順行」の世界で10年すごせば良いのです。この回転トビラは時間の逆行は出来ても、時間のカットが出来ないという点がタイムトラベルとの大きな違いでしょう。
解説②【名もなき男の時系列】
ストーリーを整理するため、名もなき男とニールの2人の行動を時系列順に並べます。
① オペラ劇場
元海軍特殊部隊出身でCIAの優秀なエージェントである名もなき男は、キエフのオペラ劇場で要人と要人の持つ「プルトニウム241」の回収を命じられる。作戦は失敗し、ロシア人たちに拷問された名もなき男。情報を漏らして助かるよりも、自殺し敵に情報を与えない道を選んだ。
② 海上
死んだと思っていた名もなき男は、味方によって助けられていた。当局は「自分の命よりも誰かの命を選べる正義感を持つ者」を探していたのだ。海上風力発電所での養生後、名もなき男はある研究所を訪れる。
③ ニールとの出会い
現在、未来からの攻撃を受けており「第三次世界大戦」を防がなくてはならないと知る。『逆行』する弾がインド産であると判明したため、名もなき男はニールと名乗る男性とインドの武器商人と会うことに。
④ セイターに近付くミッション
武器商人プリヤからの情報を元に、名もなき男たちは、ロシアの武器商人セイターに近付くことに。だが、大物の武器商人に簡単に近付くことはできない。セイターの妻キャットに、セイターから解放してやることを条件にセイターとの仲介を依頼する。
⑤ オスロ空港、未来人との戦闘
キャットはセイターに弱みを握られている。その弱みはオスロ空港内の施設にある「絵」だ。名もなき男たちは盗み出すために侵入するが、内部にあったのは、未来と現在を繋ぐ「回転トビラ」だった。そこから現れた2人の人物と戦闘になる名もなき男とニール。あともう一歩というところで逃げられてしまう。
⑥ ヨット
キャットに仲介してもらい、名もなき男はセイターと会うことが出来た。ヨットの中を詮索していると、セイターが『逆行』する武器を取り引きしていることを知る。セイターこそが現在と未来の仲介人だったのだ。そこで、名もなき男はセイターに「プルトニウム」を入手してやる、と取引を持ちかける。
⑦ 高速道路
「プルトニウム」を入手するが、セイターに奪われてしまう。『逆行』と「順行」の世界の仕組みに慣れているセイターの方が上手だったのだ。キャットは『逆行』の弾で撃たれて重傷だ。キャットを助け、セイターから「プルトニウム」を奪うために名もなき男たちは『逆行』の世界へ入る。
⑧ 『逆行』高速道路
セイターからの「ブルトニウム」奪還作戦は失敗に終わる。このままでは終われない。とにかく今はキャットの治療をしながら、「順行」の世界に戻らなければ。
⑨ 『逆行』オスロ空港
「順行」の世界に戻るため、オスロ空港にある回転トビラへ。だが、名もなき男はそこで過去の自分と対峙してしまう。逆の動きをする自分と戦闘し、回転トビラを通って今度はニールと対峙する。過去に、オスロ空港で出会った2人の未来人は名もなき男自身だったのだ。
⑩ 海上
「順行」の世界に戻ってきた名もなき男たち。「プルトニウム」の正体は、世界を終わらせる力をもつ「アルゴリズム」だった。もし「アルゴリズム」が発動されたら、この世界は終わってしまう。だがキャットのおかげで、いつどこで発動するのかは判明した。
2週間『逆行』部隊と「順行」部隊による挟み撃ち作戦を決行する。
⑪ スタルスク12
「アルゴリズム」が起動する10分前から攻撃する「順行部隊」と、起動してから10分遡りながら攻撃する『逆行部隊』に分かれて挟み撃ち作戦開始。名もなき男は「順行部隊」に参加する
⑫ スタルスク12の地下
セイターの部下が「アルゴリズム」を持って地下へ行くところを目撃。地下の場所へ行くがフェンスに鍵がかかっていて入れない。だが突然フェンスの中にある死体が動き、撃たれる前に鍵を開けてくれる。おかげで「アルゴニズム」の起動を止めることができた。
⑬ スタルスク12の地下からの脱出
その後、ニールが爆発から救ってくれる。そして「アルゴニズム」は回収され、再び世界のどこかに隠された。
⑭ 世界のどこか
名もなき男は「順行」と『逆行』を繰り返しながら、あの「決戦の日」のための準備を進める。
解説③【ニールの時系列】
① 世界のどこか
部隊に入るが先が、出会うのが先か。どこかのタイミングで名もなき男と出会う。最初から自分のことを知っている彼ときっと何度も出会い、仲良くなっていく。
② インド
ついに自分の事を知らない彼と出会い、ミッションを遂行する。その間、過去に出会った未来の男の言う通り、何も知らない彼に情報は出さない。
③ 『逆行』スタルスク12
「決戦の日」ニールは名もなき男とは別の『逆行部隊』に入る。そして、名もなき男が地下に入ってセイターの部隊の罠にかかってしまうことを知った。そして、彼を助けようと地下に入って行く。
④ 『逆行』スタルスク12の地下
名もなき男は鍵のかかったフェンスのせいで「アルゴリズム」の起動を止められないでいる。絶体絶命の状況で、もう一人の自分が走っていることにニールは気付いた。全てを察したニールは、敵の回転トビラに入って行く。
⑤ 「順行」スタルスク12の地上
「順行」の世界でニールは外にある車に乗って、まだ地下へ辿りついていない名もなき男に警告しようとするが失敗。警告するのではなく、救出するために地下へロープを投げ入れる。
⑥ 作戦の終わり
名もなき男を助け、「アルゴリズム」も回収した。そして、名もなき男と永遠の別れを告げて、再び『逆行』する。ニールは地下のフェンスの鍵を開けて、セイターの部隊に殺される。
解説④【何度も出会う未来人】
クリストファー・ノーラン作品好きならオペラで助けてくれた未来人、オスロ空港の未来人が主人公なのでは?と気付く人もいるかもしれません。「過去の伏線が未来の自分のものだった」という展開が他のノーラン作品にもあるからです。しかし、オペラで助けてくれたのは過去のニール、オスロは2人とも未来の名もなき男、しかも回転トビラを使った仕掛け……とひねってあります。クリストファー・ノーラン監督ファンでも騙されてしまうかもしれません。
そして、「過去の伏線が未来の自分だった」というのはキャットの方でした。セイターに脅された後、キャットがヨットに戻ると知らない女性がヨットから海に飛び込む、回想シーンがあります。キャットはそんな自由な女性に嫉妬していました。飛び込む彼女は自由で羨ましかった……と言う通り、最後にキャットは自由になったのです。
映画『TENET テネット』考察
考察①【『逆行』の世界での治療】
『逆行』の世界のルールの1つに「人体は逆行の世界の干渉は受けない」と言うものがあります。空気でさえも「順行」の人間に干渉してくれません。だから決まった場所以外では呼吸器が必要になります。
なのになぜ、キャットの『逆行』の武器による怪我の治療をわざわざ『逆行』の世界でおこなったのでしょうか?しかも『逆行』の世界の干渉を受けないセーフティーゾーンで、キティの治療を行っています。『逆行』の世界の干渉を受けない場所で、『逆行』の力の干渉を利用して治療を?どうもおかしい気がします。
そういえば、名もなき男が物語序盤で拷問の治療を受けていたことにも疑問が残ります。名もなき男の歯を全て綺麗に元通りにできたのはなぜなのでしょう?
もしかすると名もなき男が「自殺用」だと思っていた銀のカプセルがキーだったのかもしれません。『逆行』の世界の干渉……または恩恵を一部受けられる仕組みがあるかのように思われます。だから、キャットの傷は治り、名もなき男の歯は元に戻ったのかもしれません。
この世界には説明されていないこと、説明できないことがまだまだありそうだ
考察②【別の時間軸】
厳密に言うと、逆行によって過去に戻っているわけではなさそうです。逆行することで、どんどん別の世界の時間軸へ移動しています。しかも、前の時間軸へ戻ることはできません。
考察③【名もなき男に教えない】
未来の名もなき男は、過去の名もなき男に真実を話さないよう口止めしています。それは、名もなき男がこのミッションを通じていろんな事を学び、それらの影響で自分の思考思想が変わったからなのでしょう。
名もなき男の学習能力は素晴らしく、『逆行』の世界との相性が良いと言えます。それが分かるのは空港での戦闘の様子。最初、順行の自分との戦闘では全く歯が立ちませんでした。しかし、戦いの最後の方では、完全に『逆行』を理解しています。自分の戦闘方法を思い出し、さらに逆再生で対応してみせたのです。
このように、結果だけを知らせるのでは意味がなく。彼が逆行の世界で体験し、自分で考えることが重要だったのでしょう。『逆行』や「順行」の仕組みだけでなく、彼の心情の変化に注目しながら本作を観ても面白いかもしれません。
考察④【ニールの正体】
そもそも、相棒に選ばれたニールは何者なのでしょう?数多くある説の一つに「キャットの息子マックスがニール」というものがあります。
「本編でマックスが出演することがほとんどないのに、キャットが息子を愛していることを何度も強調していること」「ニールがキャットとセイターとあまり関わろうとしないこと」等、明らかに不自然な点があるのも、この説が推される理由の1つです。
もし本当にニールがマックスなら、何年『逆行』したのでしょう。序盤に名もなき男と出会ったニールは30歳くらいに見えます。なら15歳程度の時に『逆行』を開始しなければいけません。そして「順行」も最小限にしなければ……。かなりの忍耐が必要になります。それもこれも父親、セイターを止めるため。そして、物語終盤でセイターが「子どもをつくったのは失敗だった」と言った通り、子どものせいでセイターの計画は失敗します。「ニール=マックス」なら、かなり熱い展開です!
この時間軸のキャットに「伝言」を残すように伝えたのだから、名もなき男はマックスとの縁はこの時からあったのかもしれません。
考察⑤【セイターの過去】
セイターとキャットはかなり年の差があるように見えます。俳優の年齢から推察するにセイターは60歳くらい、キャットは30歳くらいでしょうか?それでも結婚することもありますが、もしかすると結婚した時彼らは同年代だったのかもしれません。
セイターは「未来が分かる」と言っていたくらいですから、日常的に『逆行』と「順行」を繰り返していたと考えられます。そのせいで順行のこの世界から見ると年老いて見えているのかもしれません。
考察⑥【名もなき男のその後】
名もなき男はこの時間軸にいるキャットに会いにいき、自分の身に危険を感じたら「伝言」を残すように言います。だから、物語のラストに名もなき男はキャットを助けることが出来ました。名もなき男はこうして、これから「順行」と『逆行』を繰り返すのでしょう。
この先、名もなき男はニールと出会って仲良くなります。名もなき男が『逆行』してどこかの時点で折り返して「順行」するなら初対面のニールと仲を深めていくのでしょう。
しかし、名もなき男が『逆行』し続けるなら……。最初はニールの方が男のことを知っているでしょう。ニールは自分のことを段々知らなくなっていき、自分はもっとニールのことを知るようになります。そしてついにニールは初対面になる日がやってきます。それが名もなき男とニールの友情最後の日です。
そうなると、ニールと初対面になる日はもしかしたら名もなき男最期の日でもあるのかもしれません。ミッションの失敗で死ぬのかもしれないし、年老いて死ぬ可能性だってあります。名もなき男は順行と逆行を繰り返すと、順行の世界から見ると年を取るのが早く感じられるでしょう。名もなき男の戦いは孤独なのかも……と考えると少し切ないです。
考察⑦【キャットのその後】
さて、この時間軸に残された人物は名もなき男だけではありません。名もなき男やニールと一緒に時間を『逆行』し、セイターを殺したキャットも帰る場所がなくなりました。息子はこの時間軸にいるキャットと一緒にいるので、会うことだってできません。
本当に何のしがらみもなくなり「自由」になったキャット。今、彼女は名もなき男の隣にいるのかもしれません。
これから先「順行」と『逆行』を繰り返し孤独な戦いをするだろう名もなき男。彼の隣にキャットがいてくれるなら、とても素敵です。
まとめ
本作には説明されていない部分が多くあります。また、本編の中には矛盾もあるのです。だからこそ、観た人の数だけ考察があります。この記事では私の考察を書いてきましたが、この考察が正しいわけではありません。
ぜひ本作を観て、考察や矛盾を見つけてみてください!
おまけ
映画『TENET テネット』を考察するうえでヒントをくれそうなオススメの映画を5作品ご紹介します。
① 『メメント』
クリストファー・ノーラン監督作品。物語は「終わり」から始まります。なぜこの事件が起こるのか?遡ったり、回想が入ったり……複雑にストーリーは進みますが、最後には全てが判明します。
② 『インセプション』
クリストファー・ノーラン監督作品。人の頭の中に入って行くミッション。幻想的な映像に目を奪われます。意識の中に入って行けば入って行くほど、時間の流れも変わっていきます。
③ 『インターステラー』
クリストファー・ノーラン監督作品。死にゆく地球で、人類の滅亡はもう目の前まで迫っていた。そこで、主人公たちは移住可能な惑星を探しに宇宙へ飛び出す。惑星によって重力は違い、そのせいで時間の流れも違い……。
④ 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
デヴィッド・フィンチャー監督作品。老人の状態で生まれてきたベンジャミン・バトン。他の人と同じように楽しんだり苦しんだり恋をしながら生きていきます。しかし、友人たちとは違い、彼は一緒に「年を取る」事が出来ません。時間を逆行するように生きる主人公の数奇な人生が興味深い作品です。
⑤ 『12モンキーズ』
2035年、ウィルスによって世界の人口の99%が殺されてしまった。そこで、政府は囚人を過去に送り、ウィルスのオリジナルを手に入れようと考える。そして2035年でワクチンを作るのだ。過去に贈られた囚人は、ウィルスを撒いたとされる団体「12モンキーズ」を調べるが……。
過去と未来を行き来し、「過去は変えられるのか、未来は変えられるのか」と主人公の囚人は苦悩します。タイムトラベル作品が好きな方はぜひ!
時間や時系列がキーとなる作品なので、ぜひネタバレなしでご覧になってみてくださ
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