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ミネルバ大学リーダーシップ講座(2)学び方を学ぶ。

「主体的な学び」を初体験する

これまで主体的に学んでなかった。そう思った。
ミネルバのリーダーシップ講座は毎週朝8時から10時まで。授業時間は2時間だが、当日を迎える前に個人で3時間(内容によっては5時間)、さらにクラスメイトとの予習を2回に分けて2.5時間、合計5.5時間(内容によっては10時間!)予習している。
予習の時間は次の授業のテーマに沿って提示された資料を読んだり、ビデオを見たりする(ほとんど英語)。事前資料は英語のものも多いので、時間が足りず、Deeplを使いながらのことも多い。資料だけではリソースが足りないことも多く、テーマに関連した論文や書籍を自分で見つけて読んだりできることができるとなお良いのだろうが、時間のやりくりがつかず、提示された資料だけを読んで参加する日もある。

予習から授業、復習の流れ

予習すると、「わかっていること」と「まだわからないこと」がわかった上で授業に参加するので無駄がない。また、「わかっていること」については、授業中に人に説明することでより使える知識になるし、「わからないこと」は学び方のアイディアを共有してもらってその場で理解すればよい。この方法は、教育現場で「反転授業」と呼ばれるやり方だが、この反転授業は、日々忙しく、既に多くの経験があって基礎的な内容に授業時間を費やしたくない、ピンポイントで実践的な学びを深めたい社会人にとって最適なやり方だとあらためて思う。2回目の授業で「みなさん予習は楽しかったですか?」と聞かれた時、16人中12人が「楽しい」と回答していた。

授業の中で他の人の意見を聞きながら意味を理解したり、理解を深めたりすることも多い。授業ではファシリテーターと呼ばれる教師役は、徹底して個人から引き出す役割を担う。
「実践場面で思い浮かぶ事例はありますか?」「今みたビデオはアダプティブリーダーシップの観点から、どのようなことを強調していましたか」という問いで尋ねられる。
「僕もわからないので一緒に考えましょう」というスタンスを崩さない。

学びたくなる5つの理由

学びたくなる理由は、以下の5つにまとめられる。①学んだことが今日使えるから(日常とのつながり) ②これまでにやってきた経験が理論化されているから(過去とのつながり) ③学ぶとできることが増えるから(未来とのつながり) ④人と一緒に学んでいるから ⑤発見があるから これはまさに、1990年代にオレゴン州の教育長だったDale parnellの書籍『Why do I have to learn this?』に書かれている、文脈学習理論(Contextual learning method)の考え方に通じるところがある。この理論を知った当時、教員向け研修で何度か紹介したが、「理想論だけど実践は難しい」という反応を多くいただいた。ミネルバはまさにこれを実践している。

文脈学習理論の考え方を基に著者が図にまとめた

5時間かかる予習の「構造」

ーBefore class / Study Guide / Pre-class Work

予習の仕方も大切な要素の一つだ。事前準備として、Before class / Study Guide / Pre-class Workの別に資料が用意されている。

1)Before class
資料のpdfやビデオの紹介、授業で多く取り上げられているHarvard Business Reviewの記事リンクがある。基本的にはすべて読んで理解してから授業に参加してください。というもの。理解するのがとても難しいので、複数のクラスメイトと一緒に読んで、一緒に考え、知識をつなげていくことをしている。

2)Study Guide
上記に挙げた大量の資料を読み進める時の注意点が書かれている。例えば、アダプティブ・リーダーシップ(以下AL)についての資料を読む前には、「ALとは何か」とか「「複雑なシステム」との関連について説明できるか」考えながら読むように書かれている。予習だから、この時点で「AL」なんて初耳だが、「前回の授業で学んだ「システムの複雑さ」と接続した上で理解するんだなー」ということはわかる。
Study Guideに書かれた質問に対して、教材を事前に読むことを通して自分の言葉で説明できるようになることが目標となる。

3)Pre-class Work
事前課題は、授業での意見交換をするために事前に考えてきたほうがよいことについて書かれている。「実際にリーダーとしてその課題を解決するために何ができると思いますか?」という問いかけに沿って考える。

「主体的な学び」が大事だというけれど

ここまで、文脈重視の学び方・予習の大切さやその構造について触れた。
私自身も文科省の仕事をさせていただいたりする中で、「主体的な学び」という言葉を繰り返し聞いてきているが、反省した。まったくわかっていなかった。
「主体的な学び」は、自主的に教科書の勉強をすることではない。学んだことを自分の言葉で話したり、実際の生活場面で使ったり、過去の学びとつなげたり、過去の経験を理論化したり、というもっと日常的な行為のことだ。巷にあふれている「退屈な勉強」を変えるには、変えるための仕掛けを1から作る必要がある。学びのパラダイムが全く違うことに気づかなくてはならない。
まずは、本物の「主体的な学び」を経験する人が増えることを願う。ImageできないとManageできない。「主体的な学び」がイメージできないとそれを実践する場をつくることはできない。私たち日本人はサービス品質には厳しいが、学びの品質に対する目は、もっともっと肥やす必要があるだろう。





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