これまで多くのメンバー・後輩と一緒に仕事をしてきた。その中には、やる気はあっても行動しない、手順を示してもやらない、そもそもやる気がない、やる気があるのかどうかわからない、任せた仕事をやるかどうかわからない、評論家みたいに批判はするが、自分では手を動かさないというメンバーもいた。「行動しない」ことは共通なのだが、なぜ行動しないのか、どうすれば彼らが行動するのか、が私にはわからないことも多い。昭和の時代なら「つべこべ言わずにやれ」とお尻を叩いてやらせることになるのだろうが、毎回お尻を叩いて言ったことをただやらせるだけでは本人の成長もないし、リーダーは毎回お尻を叩くのに忙しく、仕事を通じて新たな価値を生み出すことができなくなってしまう。
そこで今回は、個人をどうとらえるか、彼らが行動を起こすきっかけをどのように作っていけばよいのか、ミネルバの学びを通じて考えてみたい。
個人は「意思決定を行う主体」である
ミネルバのリーダーシップ研修(正確にはManaging Complexityという講座)では、第2回目の授業で、人が行動を起こすための複数の要素を学ぶ。前回も書いたが、ものごとの構造の中でもっとも複雑なのが「人」だからだ。その大前提となる考え方が、「エージェントベース・モデル(Agent-based model, ABM)」という考え方だ。
こんなことを書くと、必ず出てくる反論が「じゃあ自分の思い通りにメンバーが動いてくれない時はどうすればよいのか」ということだろう。「人は自律的に意思決定を行う主体である」という前提の場合は、中央集権的な調整に依存しないので、ゴールや目的を示すことはあっても「箸の上げ下げ」のような細かい各論を指示する必要はなくなる。目的を示してやり方は「エージェント」が考えるという考え方だ。
行動する理由
では「自律的に意思決定を行う主体である」はずの個人は、どうすれば行動するのか。マサチューセッツ大学の心理学教授であるロバートフェルドマン氏が、Understanding Psychology(2019)という本の中で、人の複雑な行動メカニズムについて心理学分野の動機付け理論を整理している。
他者の合理性を理解する
自分と違う考えを持つ人たちの感情や思考、行動は正直よくわからない。でも、違うからこそ、異なる他者とのチームを組むと新たな考えが生み出され、気づいていなかった人の存在に気づけたり、新たな観点をもらうことができる。それができれば、「独りよがり」でない、誰にも真似することのできない仕事になる。
どうすればこうした「違い」を持ったメンバーが彼らの「違い」を存分に発揮しつつ、他のメンバーと新たなものを生み出してくれる場を作れるかを考えた時、彼・彼女はなぜ行動する/しないのか、を考える必要がある。なぜなら、彼らは彼らなりの合理性をもって、どのように行動するかしないかを判断しているからだ。
他者の合理性が理解できないと、多様な意見を持った人がせっかくそこにいるのに、違うことは才能の一部でもあるのに、チームの中でその違いを存分に発揮できないまま終わってしまう。
今回は個人の選択を促し、行動の根拠となる動機や目標についての理論を振り返った。行動の促進要因としては他にメンタルモデルやバイアス理論がある。それはまた次回。