デリヘル嬢は実質ウーバーイーツ配達員
ある日の配達
冬に差し掛かった頃、いやもう冬と言っていいのかなというくらいの肌寒さを感じる11月末の夜20時ごろ。ぼくはいつも通り大阪市内でウーバーイーツの配達仕事をしていて、いつも通り配達員専用のアプリから配達依頼案件を請け負っていた。仕事ついでに運動がしたい、バイクの運転があまり好きではないといった理由から、ぼくは自転車で配達仕事をしている。
上下ジャージに両手には手袋をはめている状態で少し肌寒さを感じているなか、ある飲食店から注文が入り、いつも通り指定された飲食店までチャリで移動した。その飲食店から商品を受け取り、商品受け取り完了ボタンを押す。そのあとアプリ上で配達先の住所が表示されるので、それを頼りに配達先に向かう。特にいつもと変わらない配達だとおもっていた。
配達先だと思われるマンションのような茶色基調の綺麗な建物の前に到着し、自転車を歩道脇に止めて、アプリの配達先情報をもう一度見てみる。移動前は気づかなかったのだが、配達先情報をよく見てみると、その建物の4階に届けるように指定されていた。マンションなどの建物から注文されるお客さんの大半は部屋番号(例 401号室)を指定して自宅で受け取られるか、エントランスで受け取られるかのどちらかなのだが、今回は住所のあとに「4階」とだけ記載されていた。どうやらぼくが届けるのはマンションの一室ではなくマンション風ビルの4階にある事務所のようだ。たしかにエントランスの看板のようなものを見ると、企業が拠点としていそうなビルの名前が書かれている。
そのころ夜8時を過ぎていた。就労規則が厳しい昨今では多くの会社が既に終業していると思われる時間帯だったが、その事務所にはまだ人がいるようだった。「お客さん、この時間まで働かれててお疲れさまですな〜」とか思いながらお客さんの職場だと思われる4階までエレベーターで上がった。現金払いのお客さんだったので、エレベーターで上がっている間にカバンから商品を取り出すだけでなく、お釣り用の現金も準備し、4階に着いたらすぐに商品を渡して代金が受け取られるように準備した。そして、エレベーターが開いた。
驚いた。エレベーターの扉が開いて目の前に見えたのが、事務所の入り口扉などではなく、事務所の中そのものだった。エレベーターから一歩出たその場所がすでに事務所の中だったのだ。廊下とか踊り場とかそういったものがなく、扉が開いたエレベーターから事務所の様子が丸見えだった。壁際と事務所中央に置かれた横長の机、その机と向かい合った位置で椅子に座る社員さんたち、そして彼らの前には各所パソコンがあって、入って右側の壁際には机やパソコンより高い位置に巨大なホワイトボードがデカデカとあった。
ビックリしたものの、ぼくの仕事は商品を渡して代金を受け取るだけなので、注文者を呼んで受け渡しと会計をしようとするのだが、注文者がなかなか現れない。すでに事務所の中に棒立ちしている状態だったぼくは、なんとなくその空間に居づらいなと思いながらも、なんとなくその事務所内に広がる景色、社員たちの会話、社員の電話内容を見たり聞いたりした。そして気づいた。その事務所は風俗店の事務所だった。具体的な会話内容はここに書かないが、盗み聞きした感じ明らかにそれだった。
とはいえ、事務所内には風俗嬢らしき女性は見当たらない。20〜40代と思われる男性15人くらいがいるだけで、黙々と作業をしているというよりはほぼ全員が対面もしくは電話で会話をしているといった感じだった。
そういった事務所内観察をしていると注文者が現れた。そこでぼくの観察タイムは終了した。商品を渡し、代金を受け取り、そそくさとエレベーターに乗って1階に降りていった。
「ちょっと面白いものが見られたなー」とは思ったものの、もう少し配達をこなしたかったので、それまでのちょっとした出来事は頭から外して次の配達へ向かった。
そして気づいた
そのあとも何件か配達をしていたのだが、ある案件で配達先と注文者の名前のところに見覚えのある情報が目に飛んできた。なんと先ほどの風俗店運営事務所からの注文だった。「さっきの事務所じゃん!」とちょっぴりテンションが上がりながら配達先まで移動し、先ほどと同じように歩道脇に自転車を止めてエレベーターに乗り、4階まで上がった。
エレベーターが開く。もう2回目なのでエレベーターの扉が事務所の入り口扉だということは承知済みだ。1度目を経験しているので特に驚くことはない。だがしかし、ぼくは2回目の配達で別のことに驚くことになる。
1回目に気づかなかったのだが、右側壁際にドンと置かれているホワイトボードをみると、そのボード上で異様な光景が広がっていた。なんとホワイトボード上で、ストップウォッチと資料がセットになったものが20箇所くらい点々と貼られているではないか!
そこでぼくは予想した。おそらくここはデリバリーヘルスの事務所で、デリヘル嬢やお客さんの情報とセットでストップウォッチによる時間管理が行われているのだ!と。
ホワイトボードの全体を見渡すと、それら資料とストップウォッチのセットは綺麗に羅列されているのではなく、不規則に置かれているような感じだった。20こ近くのセットがホワイトボード上でバラバラに貼られていたのだ。おそらく、稼働中のデリヘル嬢の派遣先ごとにセットを配置していたのだろう。
そして気づいた。これ、ほぼウーバーイーツのシステムと同じじゃん!と。
もうご存知の人も多いかと思われるが、ウーバーイーツというのは、運営が使っているアルゴリズムと呼ばれるシステム上で、注文が入るたびに、各地で依頼待ちをしている配達員に配達依頼が割り振られる仕組みになっている。
デリバリーヘルスも同じだった。ネットや電話で予約が入る。運営側は予約者の名前、指定場所、指定時間などを特定し、おそらくだが予約者の希望などに応じて派遣するデリヘル嬢を決め、そのデリヘル嬢に移動してもらいサービス対応してもらう。そして、ここもおそらくだが、デリヘル嬢の情報やらお客さんの情報やらが記載された資料とストップウォッチがホワイトボード上に設置され、事務所にいる社員たちが場所や時間の管理を行う。
これ、まさにウーバーイーツではないか!たしかに、管理をするのがアルゴリズムなのか人間なのかという違いはある。だが、システムの本質部分は同じではないか!
もちろんぼくはデリヘル嬢をしたことがない(というかできない)し、デリヘル運営側についたこともないので、デリヘル嬢がどのように報酬を貰っているのかは知らない。とはいえ、指名が多かったりすると報酬が高くなるのは明らかである。これ、ウーバーイーツ配達員と同じではないか!ウーバーイーツ配達員は配達をこなせばこなすだけ、受け取る報酬額は高くなる。
そしてウーバーイーツ配達員もデリヘル嬢も、各々の仕事による肉体的疲労と精神的疲労の消耗度合いは大きく異なると思われるものの、どちらも身体を資本としていることには変わりない。
ウーバーイーツ配達員とデリヘル嬢。システム上での役割、報酬制度、資本源といったところからみると、そっくりではないか!
もちろん、ウーバーイーツ配達員とデリヘル嬢ではどのような人が顧客になるのか、顧客から何を求められているのか、どのようなサービスを提供するのか、といったところは大幅に異なる。それぞれ仕事をするうえで必要となる「覚悟」みたいなものも違うのだろう。
そんなことは分かっている。だがしかし、それぞれのシステムの部分からそれぞれを眺めると、瓜二つ。これはもう、デリヘル嬢は実質ウーバーイーツ配達員なのではないのか。ウーバーイーツの配達をしていて、そんなことを思った。
里芋です。