ウーバーの配達でサッカーが上手くなった
サッカー歴
ウーバーイーツの配達を始めるまで、どれくらいサッカーに取り組んでいたのかというところについて、ざっくりと。
小1から高3まで
まだランドセルがピカピカだった小学校1年生のときに、地元のサッカーチームに入団。すぐにサッカーが好きになった。チームの練習や試合のとき以外でも家の隣の公園でボールに触り、日本代表戦はもちろんのこと、EURO(ヨーロッパ選手権)の開催期間は夜中に起きて試合観戦していた。
それから高校3年生の夏に部活を引退するまで、ほぼ毎日ボールを蹴っていた。
高校卒業以降
1年の浪人期間を経て大学生になると、サークル等でボールを蹴ることはあったものの、ボールを蹴ることより酒を飲むことの方が多くなった。
大学を卒業し、新卒で入った会社を半年で退社。その後は、ウーバーイーツ配達などの仕事をして日銭を稼ぎ、その日暮らし生活。
それからサッカーコーチを始めるまでの2年間は、月に1〜2回くらい、個人参加型フットサルとかに参加してボールを蹴る程度。
配達員になってからのサッカーへの熱
娯楽のひとつとしてサッカーやフットサルを楽しめたらいい。子どもの頃のようにサッカーに対して強い向上心があるわけでもなく、プロの試合をじっくり観るようなこともなかった。2年間、ぼくのサッカー熱はその程度だった。
だが、その2年の間に、なぜかサッカーもフットサルも大幅に上手くなった気がする。
サッカーが上手くなった
自分で言うのも変だが、ボールを持ったときに何をするのかという判断、パスの受け方、ボールの奪い方など、明らかに上手くなった。特に、相手マークを外してボールを受けるのが格段に上手くなった気がする。(上手くなったことを証明する定量的なデータはない。)
もちろん味方や敵のレベルが変われば自分のできるプレーというのは大きく変わるものだけど、それを加味しても相手を上回ることが大幅に増えた。昔と比べて明らかにサッカーやフットサルをする頻度が下がったにも関わらず。
2年間、自分の身に何が起こったのだろうか。
一貫してやっていたことと言えば、ウーバーイーツの配達だけである。
ウーバーイーツ × サッカー
たしかに、ウーバーイーツの配達は僕が2年間で唯一継続してやっていたことである。厳密には配達をしなかった時期はあったものの、配達員としての登録を解除することなく空白期間を経て配達を再開するという感じだった。
そのため、ウーバーイーツとは2年間という長い付き合いがあった。新卒入社した会社を半年で辞めた僕のような人間にとって、「2年間」という期間はかなり長い。
しかし、だからといって、ウーバーイーツの配達がサッカーに結びつくとは考えもしなかった。
一応「ウーバーイーツ サッカー」で検索してみたけど、案の定、配達とサッカーが関連するものは一切出てこない。
検索して出てくるのは、フランスのプロサッカーリーグであるリーグ1が、ウーバーイーツと大型パートナーシップを結んだというニュースとか、
ウーバーイーツがマルセイユのスポンサーになったという内容の記事とかである。
このように、ウーバーイーツがフランスのリーグアンで存在感を出してきている情報は出てくるものの、やはりウーバーイーツとサッカーの上達が関連した話とかはないようだった。
(ちなみに、20/21シーズンと21/22シーズンのリーグアンは「Uber Eats League 1」として開催されている)
今回は、そんな「ウーバーイーツの配達」と「サッカー」、それぞれについて見比べながら共通点を洗いざらしていく。そして、何がどう作用してサッカーの上達に繋がるのか、ということについて見ていきたい。
ウーバーイーツとは
今回の話は、「配達アルバイト」と「サッカー」の組み合わせでは成り立たない。あくまで「ウーバーイーツの配達」と「サッカー」の組み合わせ。その組み合わせだからこそ成り立った話。
そんな話をするためにも、まずはウーバーイーツとは何ぞやということを"配達員目線"から軽く説明したい。
▼僕のウーバーイーツ配達歴
ウーバーイーツとは、オンラインで完結するフードデリバリーサービスのこと。デリバリーする人は、アルバイトとして会社に雇われるのではなく、あくまで個人事業主として業務を請け負う形になる。
配達したいときに、自分のスマホにある配達員用のアプリを起動させる。いつ、配達依頼が入ってくるのかは分からない。どこかのタイミングで、配達依頼の表示がアプリ上に出てくる。
依頼の表示が出てくると、店舗までの予想移動時間も見られる。その表示を見て配達したいと思えば、ボタンをタップして業務を請け負う。「店舗まで遠いから配達をしたくない」と思えば、依頼を拒否することもできる。
依頼を承諾し、商品を受け取る飲食店まで移動する。飲食店に到着したら商品を受け取る。受け取ったら専用バッグに商品を入れ、注文者の指定場所まで移動。商品を直接渡したり置き配したりすれば配達は完了となる。
どこに届けるのかは案件次第である。そのため、元々いた待機場所のすぐ近くまでの配達の場合もあれば、自転車で30分ほどのところまで離れる場合もある。
だが、そこから元の位置に戻る必要はない。そもそも決められた拠点がないのだから。ここが「配達アルバイト」と違うところ。
ピザ屋さんの配達アルバイトの場合、配達後、ピザ屋店舗に帰らなければいけないが、ウーバーイーツの場合、帰る必要がない。そもそも店舗が存在しないのだから。
配達完了した位置から次の配達を始めてもいいし、そこでその日の配達を終了して家に帰ってもいい。なんなら疲れを癒すために近くの銭湯に直行してもいい。ルールやマナーさえ守れば、他の行動は自由に決められる。それが「ウーバーイーツの配達」である。
共通して求められる能力
イングランドが発祥の地と言われるサッカー。サッカーは世界的に有名で人気のあるスポーツなので、サッカーの存在自体を知らない人はあまりいないだろう。
そんなサッカーであるが、競技をするにあたって必要とされる要素がいくつか存在する。そして、必然なのか偶然なのかは分からないが、それらのうちのいくつかは「ウーバーイーツの配達」においても必要とされている。
ここでは、「サッカー」にも「ウーバーイーツの配達」にも共通して必要とされる要素として以下の4つを取り上げてみる。
自分で判断する力
逆をとる力
対応する
先を読む力
参考図書↓
(風間八宏さんの本は直近2ヶ月で5冊くらい読んだけど、どれも面白い。サッカー観が大きく変えられる。ちなみに、上記2冊はKindle Unlimited対象本(期間限定)なので、登録者であれば0円で読めます。)
①自分で判断する力
サッカーとは、2つのチームがそれぞれ狙うゴールにボールを入れるスポーツである。決められた時間の中で、相手より多くのゴールを決めたチームが勝ち。勝つためにはゴールを決めなければならない。ゴールを決めるためには工夫しなければならない。
ピッチの中で、どこを位置取りするか。味方からどうやってボールを受けるか。敵からどうやってボールを奪うか。自分がボールを持ったらシュートするのか、パスするのか、ドリブルするのか。そのときに自分はボールを足元のどこに置けばよいのか。
このように、サッカーでは自分のプレーは自分で決めなければならない。そして、自分で決めて実行したプレーに対しては自分で責任を背負わなければならない。
上手かったら味方からボールを預けられる。下手だったら味方からボールを預けられなくなる。お金を使うのが上手い経営者のところにはお金が集まるが、下手な経営者のところにはお金は集まらない、みたい話はサッカーにも通じる。
そして、それはなんと「ウーバーイーツの配達」にも通じる。ウーバーイーツの配達員は、ウーバーイーツに雇われるわけではない。どこかに所属することなく業務を請け負うだけである。つまり、指示を与えてくれる人間はいない。自分で自分の行動を決めなければならないし、その行動に対しては自分で責任を背負わなければならない。
どの案件を選ぶのか?
どこで待機するのか?
いつ休憩するのか?
ウーバーイーツの配達はサッカーほど複雑ではないし、考慮する要素はサッカーほど多くないが、自分で自分の行動を決める部分は大いにある。
そして、配達員は飲食店からも注文者からも評価を受けるため、自分の行動に対して自分で責任を取らなければならない。
他の仕事だと、何か失敗をしたときに会社や店舗が代わりに責任を背負ってくれることが多い。しかし、ウーバーイーツでは「配達員(配達パートナー)」「注文者」「飲食店」の3者が相互に評価を付け合う制度が採用されている。
配達員は配達をこなすごとに「注文者」「飲食店」から評価されるようになっている。そのため、否が応でも、自分の行動に対して責任を取らざるを得ない。
そして、高評価の配達員にはより多くの配達依頼が舞い込んでくる。自分で的確な判断をし、信用を勝ち取れば、「ボール」を預けられるようになる。評価経済社会が成り立つウーバーイーツの配達は実質サッカーのパス回しである。
(https://sports.yahoo.co.jp/m/column/detail/201712060001-spnavi)
②逆をとる力
サッカーでは「逆をとる」ことが効果的なプレーとなることが多い。たとえば味方からボールを受けるとき、自分に付いてくる敵から離れるためには、その敵とは「逆方向に走る」必要がある。ときには「止まる」ことで動く敵から離れることもできる。
また、ドリブルで相手を抜き去るときや相手から逃げるときも、「逆をとる」は効果的だ。
元日本代表の風間八宏さんは相手の膝の状態を観察して敵の「逆をとる」らしい。
(https://middle-edge.jp/articles/udxuW.amp)
また、ガンバ大阪の宇佐美貴史選手は敵の腰にある骨盤を観て「逆をとる」という。
(https://www.google.co.jp/amp/s/www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=6103%3fmobileapp=1)
一流選手は試合中に各々のやり方で相手選手の「逆をとる」プレーを選んでいる。
そして、「逆をとる」ことはウーバーイーツの配達においても有効となることが多い。
たとえば他の配達員が待機場所として選ぶところは、配達依頼の奪い合いとなりやすい。マクドナルド前を待機場所として選ぶ人が増えすぎて「マック地蔵」が社会問題化していたりする。
もちろんウーバーイーツのシステムが配達依頼を捌くので、配達員同士で物理的な衝突が起こることはないが、配達員が集まるマクドナルド前などでは自分に巡ってくる「ボール」は少なくなる。
そこで「逆をとる」必要が出てくる。
マック地蔵たちがマクドナルド前に大勢集まっているときは、その周辺での配達を一旦諦める。
違う地域に移動するのもいい。休憩するのもいい。潔くその日の配達を終了するいいかもしれない。とにかく諦める。他の配達員とは逆の行動をとる。空いた時間は飯を食うなり本を読むなりに使う。
反対に、昼ピーク中もしくは夜ピーク中にも関わらず、マック地蔵たちの姿が見られなくなったらチャンスである。いつものマック地蔵たちはマックでピック(商品の受け取り)をした後なのか、他の地域に移った後なのか、休憩中なのかは分からないが、「ボール」を待ち構えている人間は少なくなっている。すると、必然的に「ボール」が自分のところに巡ってくる確率は高くなる。マック地蔵たちの様子を観察し、「逆をとる」ことでチャンスをいただくことが大事になってくる。
つまり、配達員にとっての「マック地蔵」は宇佐美貴史選手にとっての「骨盤」みたいなものである。
(ちなみに、ぼくはマクドナルド堺筋南久宝寺店の近くに住んでいるので、自室で本を読みながら待機していたりする。店前で待機するとか苦痛すぎて無理。)
また、ウーバーイーツの配達において、空模様を観察することは重要である。特に自転車で配達している人にとっては、雨上がりのタイミングがチャンスとなりやすい。
雨で地面が濡れていると、バイク配達員は事故を恐れて配達を避ける。スリップしやすいからだ。そもそも雨が降っていたのであれば、雨に濡れることを避けるために配達を控えていた配達員も多いだろう。
そこで、他の配達員の「逆をとる」。
雨が降っていた時間帯では、雨の時に発生するインセンティブなどを狙って雨に濡れながら配達をして体力を消耗する配達員、雨に濡れることを避けて休憩している配達員が多い。
そんななか、雨足が弱くなってきたタイミングで自転車配達の準備をする。そして、雨が止んだらオンラインにする。悪天候の中、注文数は増えている一方、オンラインにしている配達員の数は減っているはずである。需要増、供給減。需給バランスで報酬額が変わるので、短時間で高報酬が得られるチャンスである。そこをピンポイントで狙う。
つまり、「雨上がり」は雨に濡れずに効率よく配達することができる絶好のチャンスである。空模様を観察し、他の配達員の「逆をとる」。
配達員にとっての「空模様」は宇佐美貴史選手にとっての「骨盤」みたいなものである。
③対応する力
サッカーというスポーツはどれだけ綿密に計画を立てても、その計画の通りに行くことはない。フォーメーションについてどれだけ議論をしても、相手の攻撃によって掻き乱されることで意味をなさなくなることは多々ある。
相手チームの研究をして緻密なゲームプランを組んでも、選手の一つ一つの判断、一人一人の体調、その日の天候、ピッチコンディションなどによってプランが総崩れすることは多々ある。
あらゆる要素が作用し合うため、試合運びがプラン通りに行くことはほとんどない。サッカーという競技は「予定調和」とはかけ離れたスポーツである。そして、それはウーバーイーツの配達も同様である。
いつ、どこの店舗から配達依頼が入ってくるのか?その依頼はどこにいるお客さんからの注文なのか?やってみるまで分からない。
(現在は「詳細な配達リクエスト内容の事前提示」が行われているため、以前とは少し違うようだ。)
ウーバーイーツの配達をやっていると、知らない土地をチャリ(もしくはバイク)で駆け抜けることもある。商品受け取り店舗に到着したものの、お店側が調理に時間がかかっているために、店内のお客さんに混ざって待つこともある。お店で商品を受け取り、いざ注文者のところに行こうとすると、その注文者の設定している位置情報が明らかに正確でないこともある。到着してインターホンを押しても注文者が不在だったりシャワー中だったりで、反応がない場合もある。受け渡しに時間がかかったときは、明らかに自分のせいでなくても「遅い!」と怒られることもある。
ウーバーイーツの配達もサッカー同様、計画通りに行くことはほとんどない。出発地点からあまり離れることなく配達回数を重ねることもあれば、出発地点からどんどん離れていくこともある。時給換算が2千円を超えることもあれば、500円くらいになることもある。
このように、サッカーもウーバーイーツの配達も予定調和になることはない。そのため、「計画通りに行かなかったらどうしよう」ではなく「計画なんて立てても、その通りに行くことなんてない」という前提が大事になる。
必要な準備はするが、必要以上の心配はしない。その場その場で即対応する。失敗したら頭を切り替えて、その場の状況を観て、すぐさま対応する。サッカーもウーバーイーツもこれの繰り返しである。
④先を読む力
サッカーはどれだけ「先を読む」ことができるかで、プレーの出来不出来が大きく変わる。「計画なんて立てても、その通りに行くことなんてない」と矛盾しているように聞こえるかもしれないが、予測可能な要素はたくさんある。
そもそも「自分で判断する」「逆をとる」を実行するためには、敵の身体の向きを観て進行方向を読み取ったり、敵の膝や骨盤を観て重心を読み取ったりすることによって、相手の動きの「先を読む」必要がある。
また、疲れ切っている敵やボールを止めるのが下手な敵がいれば、その敵がミスをしてボールをこぼす未来を予想することもできる。"ボールがこぼれる未来"が見えたら、ボールがこぼれそうな位置の近くに素早く移動し、ボールが敵の足先から離れた瞬間にボールを奪取することができる。もっと言えば、奪取した後のことを踏まえてプレーの選択を行うことができる。
ほかにも、雨で芝生が滑りやすいときはボールのバウンドが晴れの日と違うということも予想できる。"イレギュラーなバウンドが起こる未来"が見えたら、トラップするときにボール進行方向側へ身体ごと移動させて、ボールを身体のどこかに当てられるようにすればよい。そうすればバウンドが読めなくてもボールの勢いを殺すことができる。
このように「先を読む」力があれば、一手先または二手先を読んだプレーをしたり、ミスを減らしたりすることができる。サッカーの試合では、常に感覚を研ぎ澄ませて近未来を予測しなければならない。
そして、それはウーバーイーツの配達も同様である。
といった感じで、サッカー同様、ウーバーイーツの配達も常に感覚を研ぎ澄ませて一手先や二手先の近未来を予測しなければならない。
敵にボールを奪われないために、周りの状況を観て、先を読む。配達中に事故を起こさないために、周りの状況を観て、先を読む。
敵からボールを奪うために、先を読み、狙いどころを定める。雨に濡れることを避けつつ効率よく稼ぐために、先を読み、狙いどころを定める。
もちろん、サッカーほどの集中力はウーバーイーツ配達に必要ない。
しかし、配達仕事の場合は事故をして死ぬ可能性がある。急に飛び出してくる赤ん坊を自転車(あるいはバイク)で轢いてしまう可能性もある。配達用バッグを背負ったまま転倒して、商品をグチャグチャにしてしまう可能性もある。また、先を読んで配達しなければ、"配達チャンス"を逃すことにもなる。
結果的に、ウーバーイーツの配達は「先を読む」練習になっている。
ウーバー配達でサッカーは上手くなる
ここまで、「サッカー」にも「ウーバーイーツの配達」にも共通して必要とされる要素4つを取り上げてみた。
ウーバーイーツ配達を自転車でやっている人は、取り上げた4要素だけでなく「持久力」「瞬発力」などといった走力系の要素も強化されている可能性がある。実際、僕自身がチャリ配達を3,000件以上していて、その実感は大いにある。
(統計を取ったわけでも他の配達員の声を聞いたわけでもないので、サンプル数は1なのだが。)
以上のようなことを考えると、ウーバーイーツの配達は「自由に働いて、お金を稼ぐことができる」仕事というだけでなく、「認知能力などサッカーに活きる能力を上げることができる」仕事だと言えるだろう。
今後、同じような実感を得た人がいれば、ぜひ話を聞かせていただきたいし、サッカーとウーバーイーツに関連する知見を収集していきたい。少数サンプルでもいいので、定量的データが集まれば統計を取ってみたい。
里芋です。