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「異端宗教だが抵抗感なし」 韓国人が抱く統一教会のイメージ

 安倍晋三元首相が参院選の遊説中に銃撃され、死亡した。山上徹也容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者になり家庭が崩壊した恨みから同連合と関わりの深い元首相を襲ったという。「異端キリスト教だと分かっているが、あまり抵抗感はない」。統一教会に対する世間一般のイメージを韓国の友人に尋ねると、意外な答えが返ってきた。

 今から30年近く昔、僕が韓国高麗大に語学留学していた1995年ごろのクラスの生徒たちは、在日・在外韓国人らのほか、韓国人が恋人の日本人女性や定年後の韓国語学習者、豪州の交換留学生、僕のような朝鮮半島の文化に関心のある少しひねくれた日本人などだった。そして、日本の若い統一教会信者がどの教室にも大抵一人はいた。

 真面目でおとなしい同級の女性は開放的な留学生活で信仰が揺らいだのか、信者の証しである特別な指輪を外していたのを別のクラスの男性信者に見とがめられ、思い悩んでいた様子で、少し気の毒だった。一流大学出身らしいその男は日本に帰れば幹部候補生なんだと人づてに聞いた。

 どんな辺境にも日本人女性

 日本人の先輩が教えてくれた。「この国にはどんな辺境に行っても必ず日本の女がいて、統一教会の合同結婚で嫁いだ人たちなんだよ」

 日本語学院でアルバイト講師をしていた僕はある日、教え子の一人に誘われ、彼女の夫も交えて食堂でプルコギを食べた。30代の夫婦は雰囲気が和むと、実は私たち統一教(トンイルギョ、韓国での統一教会の通称)なんですと明かし、「日本と韓国とでは統一教に対するイメージがだいぶ違うようですね」と話した。

 韓国でももちろん統一教会は異端であり、正統的なキリスト教会からは大いに警戒されているが、日本のような霊感商法や献金の強要、募金詐欺などの社会問題が表面化していない。むしろ、新聞社やプロサッカーチームなど多くの関連企業・団体を抱え、韓国経済に深く根を下ろした一大コングロマリットのような印象さえ与える。公営のKBSラジオで各紙の記事を読み上げる番組「今日の新聞」で、傘下の新聞「世界日報」の記事や社説が毎日紹介されるほどだ。

 関連企業のCMに国民的歌手

 KBSや一般紙の記者だった友人の韓国人ジャーナリストも「一般国民にとって拒否感はそれほど大きくない。キリスト教の異端宗派であると同時に財閥企業というイメージがある」と言い、こう指摘する。

 「統一教は企業活動を旺盛に営む異端宗派だが、強大な財力と目に見えない影響力によって、異端に対する人々の抵抗感や反感を払拭しようとしている」

 現状は作戦が奏功しているということか。国民的歌手チョー・ヨンピルが、関連企業「一和」の販売する大麦が原料のコーラ風の清涼飲料水「メッコール」の広告塔だったのは有名な話で、日本のお茶の間でもa-haのヒット曲「テイク・オン・ミー」のPVを剽窃したCMが1980年代末に流れたことがある。


 別の韓国人の友人は「国民は統一教自体にあまり関心がないのでは。ニュースでも大して扱わないし」。韓国の報道各社は銃撃事件を一斉にトップニュースで報じたが、統一教会と安倍元首相との癒着や宗教被害の話題などについては日本からの報道を引用するばかりで、一部を除いて教団を批判するような独自報道は見当たらない。韓国マスコミにも財力が基盤の「目に見えない影響力」が働いているのだろうか。

 「日本は献金で罪滅ぼしを」

 さすがに現地のキリスト教メディアは従前から統一教会のあり方に批判的で、告発キャンペーンを張ったこともある。韓国初の民放でもあるCBSのソン・ジュヨル記者の日本の統一教会ルポ(2017年9月)によると、ある元信者の女性は、教団幹部から「日本の信者は自国が韓国を侵略した罪滅ぼしをせねばならない」「病気の娘も救われない」などと脅され、数千万円の献金を強要されたり高価な絵や壺などを買わされたりしたあげく、破産した。山上容疑者の母親も、こんなふうに弱みにつけ込まれて多額の献金をつぎ込んだのだろう。


 統一教会が日本を重要な資金源と見なしているのはひとえに、旧約聖書の「創世記」に出てくる失楽園の逸話になぞらえ、堕落したエバに当たる日本の国はアダム国家である韓国に奉仕しなければならないとの教えがあるためだ。

 一見して荒唐無稽な統一教会の教義は、過激なキリスト教原理主義という鍋に、独自の儒教的な中華思想や土着のシャーマニズムをぶち込み、どろどろに煮詰めたような禍々しさがある。

 統一教会は時代の鬼子か

 韓国哲学の研究者小倉紀蔵氏によると、韓国で盛んなキリスト教は、民族の精神の根底にある儒教の「理」(道徳性・原理・道徳・理念・理性)と「気」(物質性・身体・感情・感性・利益)の世界観を内包しているという(『心で知る、韓国』2005年、岩波書店刊)。

 本来、道徳的に社会正義を実現しようとする「理」と、物質的に人民の魂を救済すべき「気」は等価のものとして相乗的に作用しなければならないのに、統一教会の実態は逆にこのメカニズムを悪用しているように見える。極端な、文字通りの「原理」でもって信者の身体や感情を支配・拘束し、宗教被害を生み出すほど怪物化した成れの果てと言っていい。

 教祖文鮮明(ムン・ソンミョン、1920〜2012)の生い立ちや経歴を見れば、日本による植民地支配や解放後の南北分断、東西冷戦の構造が彼の思想形成に与えた影響は決して小さくないはずだ。ある意味、統一教会は時代が生んだ鬼子とも言える。そして、日本の大物右翼政治家、笹川良一や岸信介らと反共の利害が一致したことに始まる政界との歪んだ関係。ここに因果律の法則を当てはめ、元首相の銃撃事件を一つの不幸な「結果」だと捉えるのは乱暴過ぎるだろうか。


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