新しい農山村コミュニティとは ~地域の「共」を考える#1~
人口減少や高齢化、ライフスタイルの変化などにより地域コミュニティが弱体化している・・・政策文書からも現場からもよく見聞きする話です。
昔ながらの地縁組織によって集落活動を継続することが難しくなっている農村部
急速に高齢化が進む団地など社会的孤立が問題となっている都市部
社会的動物たるや、我々つながらなければ生きていけないわけですが、農村でも都市でも、あらためて公共私の「共」の部分をどう(再)構築していけるかが課題になっていると思います。
でも、地域ごとに状況が異なるなかで、どうやって地域の「共」を育んでいけるのでしょうか?
そこで、既にある概念や手法に学ぶ<地域の「共」を考えるシリーズ>をはじめます。第1弾は「新しい農山村コミュニティ」
まとめるにあたって下記のレビュー論文を参考にしました。
新しい農山村コミュニティとは?
人口減少や高齢化により、これまで集落ごとに行われてきた道普請や伝統行事、冠婚葬祭などの共同作業の継続が困難になっています。これに伴う集落機能の低下や地域への誇りの減退に対して、複数の集落が連携することで広域的に支え合おうという仕組みが「新しい農山村コミュニティ」です。
背景にある哲学・原則
農山村を取り巻く3つの空洞化
農山村、とくに中山間地域においては、人・土地・ムラの 3 つの空洞化が進んでいます。それぞれ下記の造語に象徴されるように段階的に押し寄せてきているといわれています。
人の空洞化:「過疎」(1964年頃)
土地の空洞化:「中山間地域」(1988年)
ムラの空洞化:「限界集落」(1991年)
さらに、より深い本質的な問題として、「誇りの空洞化」つまり「地域住民がそこに住み続ける意義や意味を見失いつつある」事態が進行しているとの指摘があります。
こうした空洞化を乗り越えていくために地域づくり※1が求められており、地域づくりの主体が活躍できる舞台として新しい農山村コミュニティの構築が期待されているのです。
新しい農山村コミュニティの特徴
新しい農山村コミュニティの特徴は下記の5点です。
①総合性:防災・地域行事・地域福祉・経済活動が段階的に積み重なった「小さな自治」「小さな役場」としての役割を担う
②二面性:自治組織でありながら経済活動を行う
③補完性:「守りの自治」を担う従来の自治組織と補完関係を保ちつつ新たな「攻めの自治」を担う
④革新性:集落単位での活動の限界を意識し、地域内の女性や若者の積極的な参加が意識された「新たな仕組み」の構築を企図する(e.g. 1戸1票制から1人1票制へ)
➄手づくり自治区の性質:住民が当事者意識をもって、 地域の仲間とともに手作りで自らの未来を切り拓いていこうとする
進め方
地域づくりには「主体」「場」「条件」という3つの要素があるといわれています。
暮らしのものさしづくり(主体):「誇りの再建」に向けて、自らがその地域に住み続けることの価値観を意識的に形成していく
暮らしの仕組みづくり(場):地域内に暮らす人々の全員が、個人単位で地域と関わりを持つような「参加」の場を構築する
カネとその循環づくり(条件):地域産業の育成と並んで、地域内に新たな経済循環を作り出す
地域づくりのスタートラインとなる暮らしのものさしづくりでは、「地域をつくるのは自らの問題だという当事者意識」を持つことが大切とされています。それを高めていくための方法としてワークショップなど様々な手法がが構築されてきました。
その根幹として共通しているのが下記の手順です。(詳細は別の記事でまとめたいと思います)
①地域点検とその地図による「見える」化
②課題の整理と共有化
③地域の将来像の確立
④地域内での中間報告会の開催
⑤目標・プランの決定
⑥活動のスケジュールの決定
⑦実践
運営
新しい農山村コミュニティの課題
安定的な財源の確保
法人化問題:下記3つの条件を満たす法人形態であること
地域に暮らす住民が構成員になりその平等性が確保されていること
経済活動の主体となり、 外部からの支援の受け皿となり得ること
自治活動や経済活動のための財源の取得者となり得るこ と
行政の支援に関する課題
新しい農山村コミュニティ(手作り自治区)と集落という二層の組織のいずれもが重要であるという認識を持つこと
コミュニティの形成には地域の実情に合わせたスピード感があること
新しい農山村コミュニティの事例としては広島県安芸高田市の川根振興協議会があげられています[3]。(全戸出資で共同売店を立ち上げて運営しているところに地域の底力を感じる!)
編集後記
「新しい農山村コミュニティ」について調べていくと、多くの議論や事例が15年ほど前の2000年代後半におこなわれていたものだとわかります。ですので、今では ”新しい” とは言えないことも多いかもしれません。
ただ、こうした議論が現在の政策に反映されていることは確かでしょう。たとえば、「小さな拠点」や「地域運営組織」のように。(小田切先生の力を感じる…)
逆にいえば、現場の動きが政策に反映されるまで5〜10年かかるのか、、と思ってしまいましたが
めげずに現場の声を届けること、各地で起きていることの共通点を見出して何が必要なのか示すことが研究の役割として大切だと感じました。
あと、今は地方創生の波で、ここでいう新しい農山村コミュニティばかりが注目されたりしているわけですが、地域にもとからある自治組織(守りの自治)のことは忘れてはいけないと思います。
攻めができるのは守りがあってこそです。地域の二層構造、いや多層性に目を向けて、地域の「共」のあり方を考えていきたいと思いました。
参考
[1] 荻野亮吾・似内遼一・深谷麻衣・高瀬麻以(2021):地域づくり分野と都市計画分野における コミュニティ ・ エンパワメント手法の比較,佐賀大学大学院学校教育学研究科紀要,6(1),121-156.
https://onl.la/3vPearu
[2] 山口県総合企画部中山間地域づくり推進課(2018)「新たなコミュニティ組織づくり(ガイドブック)~「手づくり自治区」をつくろう~」,https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/30/14162.html(参照2023-04-08)
[3] 小田切徳美(2015):地域再生の課題 ~農山村を中心に~,特集 JIAM 研修紹介,国際文化研修2015春,87,12-17. https://www.jiam.jp/journal/pdf/v87/tokushuu02.pdf
[4] 国土交通省国土計画局(2009):参考資料2 地域経営、生活サービスの提供に関する取組事例等,https://www.mlit.go.jp/common/000052498.pdf