インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day4
社会をエンジニア視点で紐解いてみるシリーズ。
情報リテラシーの観点で、むちゃくちゃ興味深い事例として、
インボイス制度の問題を、
私自身の体験や考えの変遷を、時間を追う形で書いていきながら整理していきます。
<お断り書き>
もしかしたら、読む方の立ち位置によっては、途中々々で不快な気持ちを与えてしまう部分もあるかもしれません。ただ、この問題の原因には、コミュニケーションの問題が大きく関わっていると思っています。
それを紐解いていくためにも、私自身が「その時どう感じたか、どう見えていたか」という主観の部分をあけすけに書くのがいいだろう、と思いまして、このお断り書きを書いた上で、以降、書き進めさせていただきます。
<全話リスト>
Day1 そもそものきっかけ
Day2 STOPインボイスに連絡を試みる
Day3 STOPインボイスの人たちに会いに行く
Day4 知人たちと勉強会を開く
Day5 税理士さんとお話しする
Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる
知人たちと勉強会を開く
前回書いた、お話し会に参加する数日前に、
私は知人たち相手に、インボイス制度について説明する会を2回開催していた。
1回目の勉強会
インボイスとは関係なく、最近、月1回ペースで数名のメンバー達と、お金をテーマに話し合う会を催していた。
ちょうど、9月の会が次の水曜日に予定されていたため、
インボイス問題について人に相談したかった私は、
元々は別ネタを話す予定だったところを、テーマをインボイスに変更した。
メンバーは、私以外は全員サラリーマン層だ。
相談することに時間を割きたかった私は、
「これで、消費税の仕組みとインボイス制度の問題が3分でわかるだろう」
と作った力作動画『インボイス 3分クッキング』を使って、
インボイス制度とその問題について簡潔に説明しようと試みた。
しかし、
「え?なんでここで、仕入れ事業者が『免税事業者が消費税で儲けてやがるな』って思ってるの?」
と途中でメンバーが首を傾げる。
「あ。それは、30年煮込んだからで…」
「??」
2日前に経理に詳しい知人に動画を見てもらった時には、すぐに内容が伝わったのだが、知識ゼロからだと、前提となる基本知識の説明がきちんと必要なのだな、と、ここで気づく。
そこで、この半月ほどインボイスについて色々整理してきていたスライドを使って、
消費税はどのように納税されるのか、
仕入れ税額控除とは何なのか、
といったことを説明していった。
そうしてようやく、30年という歳月により仕入れ事業者も免税事業者側も理由をよくわからずに消費税を記載した領収書をやり取りするようになっているがために、今回のインボイス騒動が起こっているのだということが伝わると、
「えー、おもしろーい!」
メンバーは楽しそうに笑い出した。
(え?これ面白い??)
自分がこれに気づいた時には、「なんてことに自分は気づいちまったんだ!」と衝撃だったので、メンバーの反応にちょっと驚く。
でも、たしかに客観的に見れば、これは落語の題材にでもできそうな、滑稽な話にも思えてくる。
ともあれ、ようやくインボイスの問題について理解してもらえたので、
インボイス開始日は迫っているけれど、以下2点について、自分でできうる限りの手を打ちたいと考えているのだけど、どういった手が可能だろう?と、相談を始めた。
倫理的な問題
今回、ほぼ全ての国民が状況を理解していないがゆえに、大きな負担を負うのは、たまたま免税事業者側にいるだけの人達(勘違いで免税事業者をフルボッコしている状態)
重大な情報が隠されることへの大きな懸念
専門家に問題の核心となる情報を隠されたら、専門外の人間は普通気づけない。
そうして私自身が何を重視しているか、といったことなども聞いてもらった上で、ひとまず以下が決まった。
メンバーの知り合いの税理士に、私のnote記事を読んでもらって、私の認識に誤りなどないか確認してもらった上でお話しさせてもらう場を設けさせてもらえないか、あたってもらう
メンバーの一人が主催するビジネス関連のグループスレッドで、この問題について情報や関心を持っている人がいないか聞いてみる
2回目の勉強会
翌日、メンバーが主催するビジネス関連のグループスレッドに話を繋いでもらって、グループのメンバー達にインボイス制度に関連する情報などないか聞いてみた。
個人事業主の方から「自分はこの動画を参考にして判断した」という情報をもらったり、
フリーランスの働き方支援をしている方から、免税事業者を支援するために始めた取組みについての情報をもらったりした。
しかし、ここのメンバー達もやはり、
消費税の仕組みや、なぜインボイス制度導入により問題が起こるのか、
よく理解できていない様子だった。
メンバーが参考にしたという、議員や元官僚、会計士などが配信する動画を見てみると、どれも配信者のトーク中心で、具体的な図を用いて消費税のしくみを説明しているものはなかった。
トークだけで、消費税のしくみやインボイス制度導入によって起こる問題を視聴者が理解することは不可能だ。
こんな動画を見ても、配信者の語る「○○が悪い」「○○するのが良い」などの言葉だけが視聴者の頭に残るだけだろう。
賛成派・反対派に関わらず、そんな感じだった。
動画の配信者たちは、あまりYoutubeを見ない私でも名前を聞いたことのあるような、それなりに有名な方々が多かった。
こういった人達の発信する情報が、多くの人々にインボイス制度に関する「なんとなくの印象」だけを与えて、それがインボイス制度の問題が正しく共有されずに、不毛な対立を引き起こすことに繋がっているのだ。
動画を見ながら、怒りで目眩がしそうだった。
ほぼ全ての国民が状況を理解できていない現状でのインボイス制度導入は延期が望ましい。
だけど、既に9月下旬に入っており、インボイス制度導入が回避される可能性は、限りなく低い。
私自身は、消費税やインボイス制度について勉強した上で、自分の仕事の性質と照らし合わせて、インボイス制度導入に伴う影響を最小に抑える選択をしているので、このままインボイス制度が導入されても、個人レベルでは困ることはない。
知識は身を守る、だ。
だから、たとえインボイス制度が導入されたとしても、
少しでもマシな手を打てる人を一人でも増やすこと。
それが今の私にできることだろう。
そう思った私は、急遽その夜、「知識は身を救う!」と題して、知人やビジネスグループのメンバーたちを呼び集めて、インボイス制度に関する勉強会を開催することにした。
急遽の呼びかけに集まったメンバーの顔触れは、
会社員、フリーランス、これから副業を始めようと考えている人などだった。
あくまで税制の素人が勉強してまとめた内容であることを最初に断った上で、説明を始める。
昨夜の勉強会でのメンバーの反応を踏まえて、
フリーランスの自身の目から見た、消費税の実態はどういうものか、
という話から始めて、
その次に、消費税のしくみ、インボイス制度とは何か、
インボイス制度導入によって、何が起こるのか、
現在騒がれている問題が引き起こされる原因、
益税とは何か、etc..
経理に詳しい知人のフォローも時々もらいながら、
豊富な図を用いたスライドを使って、順々に説明していった。
「え?小売店が納税してるんじゃないの??」
消費税の納税の仕組みのところでは、参加者みんな驚く。
「知らなかった!えー、なんでそんな仕組みなの?」
と目を丸くする。
よく騒がれる益税まわりの話のところでは、
「えー、でも私、免税事業者が消費税を請求してたら、やっぱり、益税もらっててずるいって思っちゃう」
と参加者の一人が言い、それに対して、
「益税の定義をこのスライドに書いたものとするなら、それは益税じゃなくて、敢えて名付けるなら、ただの『値札サギ』ですよ。『税込』なんて書かなきゃいいだけなんだから」
と、私が返すと、
「たしかに私たち、物を買う時に、支払う金額が税込み価格か免税価格かどうかなんて、意識してないわね。100円と言われたら、その品物はただ100円の品物ね…」
と、別の参加者が言い、
「あぁ、たしかに…」
と、最初に疑問を呈した参加者がうーむ…と唸る。
今回のインボイスの問題が正しく理解されないことの原因のひとつに、
消費税の実際が、一般消費者が何となく抱いているイメージと大きく異なることがある。
多くの人は、自分が当たり前と思っていることが根本的に異なっているとは露とも思わずに、相手の話を聞く。「実は違う」と説明したところで、『思い込みの枠』は、一度説明を聞いたくらいでは外れないのだ。
だから、こんな風に会話のキャッチボールをしながら、疑問を解いていくことで、『思い込みの枠』が少しずつ外れていき、やがて「そういうことだったのか!」と理解できるのだ。
この丁寧に紐解いていく作業を飛ばして、動画やSNSなどで一方向的に、
「消費税を納税しているのは消費者ではなく事業者」
「免税事業者は益税をもらっていない」
「インボイス制度は増税制度」
なんて結論だけをどれだけ言ったところで、
「この人たちは、自分たちに都合のいいように相手を説得しようとしている」
という風にしか受け取られないのだ。
勉強会の後半で、私は、
今日私が説明した内容を、賛成派・反対派どちらの有識者たちも説明しておらず、それゆえに、現在、
「免税事業者が消費税をもらうことは認められているのか否か」
なんて、今回のインボイスの問題とは関係のないピントのずれた議論や対立が繰り広げられていること、
そうして、本当に議論すべきことが議論されないまま、多くの免税事業者に負担を負わせる形でインボイス制度が導入されようとしているのだということを、
参加者たちに話した。
フリーランスの参加者の一人が言った。
「私たちは仕事柄、自分のことは自分で何とかしないといけないと思っているから、消費税のことも、変だな、と思いながらも、ネットで調べてもよくわからないから、まぁいいか、と領収書に記載してきてしまって、それが今回のことに繋がったんだよね」
私を含む多くの免税事業者が、よくわからないまま消費税を記載してきた理由は、大体みな、彼女と同じようなものだろう。
そして、いまだに「よくわからないまま」の免税事業者たちが、
「免税事業者が消費税を得ることは過去の裁判で認められています」
という反対派の税理士たちの言葉をそのままに受け取って、
「私たちは弱者だから消費税をもらうことは認められているんです!」
そんな主張の仕方をして、
「何を言ってやがるんだ。俺たちが支払った消費税はちゃんと納税しろ」
という反感を買って、不毛な対立が繰り広げられてしまっているのだ。
ちゃんと勉強して理解して、自分自身の言葉を使って説明すれば、
思い込んでいる相手にも、きちんと理解してもらうことは可能なのに。
「ネットの情報を追って、よく知らない専門家の話を鵜呑みにするよりも、日頃から信頼できる仲間たちと、こんな風に勉強したり相談しあったりしていくことが大切だね」
そんな学びを共有して、勉強会は終了した。
参加者の了承をもらって録画した勉強会の動画は、
ひとりでも多くの人達の役に立てるよう、
必要としている人たちがいたらぜひシェアしてほしい旨のコメントを添えて、知人たちにシェアした。
次の話→Day5 税理士さんとお話しする
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